第26話:猛虎《もうこ》の盟約と黄金の老将《ろうしょう》。伏龍《ふくりゅう》の影が導く次なる覇道《はどう》(第三章・後半)
第26話:猛虎の盟約と黄金の老将。伏龍の影が導く次なる覇道(第三章・後半)
曹操孟徳が全財産と覇道の意地を懸けて放った最強の重装騎兵団『虎豹騎』。
彼らが徐州の国境で、刃を交えることすらなく劉備玄徳の『仁』の前にひれ伏したという事実は、文字通り中華全土を震撼させた。
すべての手札を失った曹操は、兗州の奥深くへと引きこもり、沈黙した。
北の袁紹を官渡で粉砕し、西の曹操の牙を完全にへし折った我々劉備軍。
残る中華の巨大勢力は、南の長江以南を支配する『江東の猛虎』――同盟国である孫堅文台が率いる孫家のみとなっていた。
――徐州・彭城の巨大な軍港。
「……これは。噂には聞いておりましたが、実際に目の当たりにすると、言葉を失いますな」
港に停泊する巨大な船影を見上げ、一人の美青年が感嘆の息を漏らした。
燃えるような真紅の戦袍を纏い、女すらも嫉妬するほどの類稀なる美貌と、氷のように冷たくも知性あふれる瞳を持つ男。
孫家の最高頭脳にして水軍の天才――周瑜、字を公瑾という。
「驚くのはまだ早いぜ、公瑾! 見ろよあの船、まるで動く城じゃねえか!」
周瑜の隣で、豪快に笑いながら身を乗り出しているのは、孫堅の長男にして『江東の小覇王』と恐れられる猛将・孫策伯符である。
二人は、孫堅の名代として、劉備陣営との『絶対的な同盟関係』を再確認すべく徐州を訪れた使節団の代表であった。
彼らの視線の先にあるのは、俺――陳凌(字は子雲)の現代知識と、魯粛(字は子敬)の水軍指揮能力が結実した究極のチート軍船、『大楼船・青龍号』である。
「ようこそ徐州へ、孫策殿、周瑜殿」
俺は扇を片手に、水軍都督の魯粛と共に二人を出迎えた。
「子雲殿。そして、我が旧友の子敬(魯粛)……。まさか君が劉備殿の元で、これほどの水軍を創り上げているとはね」
周瑜が、魯粛を見て苦笑いを浮かべた。本来の史実であれば、魯粛は周瑜の推挙によって孫家に仕えるはずだったのだ。
「この船には『水密隔壁』という特殊な構造を施しております。大穴が空いても絶対に沈まぬ不沈船。さらに甲板には、敵船を遠距離から粉砕する旋回式の巨大投石機を搭載しています」
俺が淡々《たんたん》と解説すると、周瑜の美しい顔に、隠しきれないほどの『戦慄』が走った。
「……沈まぬ船に、遠距離からの投石。長江の水上戦において、我ら江東の水軍が絶対に負けないという自負を、根底から覆すほどの暴力だ」
周瑜は鋭い視線で俺を射抜いた。
「陳子雲殿。これほどの水軍を創設したということは、劉備殿は、我ら孫家との盟約を破り、長江を越えて南へ攻め入るおつもりか?」
一触即発の緊張感が走る。孫策もまた、腰の剣に手をかけて殺気を放った。
「まさか。我らの大義は、あくまで漢王朝の復興と、天子様(献帝)の安寧にあります」
俺は扇をたたみ、深く頭を下げた。
「この水軍は、曹操や他の逆賊が水上から我々を脅かした際の『絶対の盾』に過ぎません。……周瑜殿。我々は、洛陽の炎の中で孫堅殿と結んだ盟約を、違えるつもりは毛頭ありません」
そこへ、背後から黄金色のオーラを放つ男が進み出た。我らが主、劉備玄徳である。
「孫策殿、周瑜殿。俺は、天下の民が誰も血を流さず、飢えない国を創りたい。南の豊かな大地を治める孫家とは、剣を交えるのではなく、共に手を取り合ってこの乱世を終わらせたいのだ」
劉備の【魅力:99】の言葉に、孫策の放っていた殺気がふわりと霧散した。
「……へっ。親父(孫堅)が『劉備には絶対に逆らうな、あの男は本物の竜だ』って言ってた意味が、よく分かったぜ。……いいだろう、劉玄徳殿!」
孫策が、豪快に笑って劉備の手を強く握りしめた。
「俺たち孫家は、天下の覇権なんてどうでもいい。ただ、身内と江東の民が平和に暮らせりゃそれでいいんだ。……あんたが曹操をぶっ飛ばす時が来たら、俺たちの水軍も力になるぜ!」
「……伯符(孫策)がそう言うのなら。この周公瑾、劉備陣営の背後は我らが水軍で完全にお守りすると誓約いたしましょう」
周瑜もまた、劉備の底知れぬ器と俺のチート軍備に完全な『不可侵』を悟り、深々と頭を下げた。
『ピコン!』
【特大イベント『江東の猛虎との絶対的軍事同盟』を締結! 将来の「赤壁の戦い」における水軍の超・連携フラグが成立しました! 天命ポイント10000Pを獲得!】
(よっしゃあああッ!! これで未来の水上戦も孫家の最強バックアップ付きだ! 同盟国としての完全固定化、ミッションコンプリート!)
俺は内心の狂喜乱舞を押し殺しながら、夜の宴へと孫策たちを案内した。
――数日後。孫家の使節団が帰還し、強固な南の防衛線が確立された徐州の政庁。
大広間に、天下無双の武将たちと五大軍師が集結していた。
「北の袁紹は半壊、西の曹操は沈黙、南の孫家とは絶対同盟。……残る中華の空白地帯は、ただ一つだね」
郭嘉(字は奉孝)が、中華の地図の中央、広大で豊かな土地を指差した。
「『荊州』。現在は劉表が治めているが、彼も老齢で後継者争いが絶えない。……いずれ戦火に巻き込まれるのは必定だ」
「ええ。荊州には、戦火を避けて天下の優秀な人材が大量に隠れ住んでいます。……我らも、彼らを保護すべく動くべきでしょう」
徐庶(字は元直)が真剣な顔で頷く。
「軍師殿! 人材と言えば、面白い爺が俺たちの陣営に加わりたいって、わざわざ荊州の長沙からやってきたぜ!」
張飛が、一人の筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》の老武将を連れて大広間に入ってきた。
白髪と白い髭を蓄えながらも、その肉体は全盛期の若者のように張り詰め、背中には身の丈ほどもある巨大な強弓を背負っている。
「……ほう。ただの老人ではないな。その歩み、一切の隙がない」
関羽が、美しい長鬚を撫でながら、鋭い視線を老武将に向けた。
「ほっほっほ! 天下に名高き関羽将軍にそう言っていただけるとは、老骨の誉にござる。某は荊州南陽の生まれ、黄忠、字を漢升と申す!」
(黄忠キタァァァァッ!! 三国志が誇る最強の老人、百発百中の神弓の使い手! 俺が使者を出さなくても、劉備の仁徳の噂を聞きつけて自分からやってきてくれたのか!)
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【氏名】黄忠(字:漢升)
【武力】93(※弓術において限界突破)
【統率】86
【深層情報・隠し才能】
『老当益壮(老いてますます盛ん)』:年齢を重ねるごとに武術の冴えが増すという特異体質。関羽と互角の死闘を演じるほどの実力を持ち、弓の腕前は中華において右に出る者がいない。己の武を正しく評価してくれる「仁」の主君を求めていた。
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「……黄忠殿。貴殿のその弓、飾りではあるまいな?」
関羽が、試すように青龍偃月刀を軽く持ち上げた。
「ほっほ! ならば、あの中庭を飛ぶ雀を落としてご覧にいれましょう」
黄忠は背中の大弓を引き抜き、一切の狙いをつける動作も見せずに矢を放った。
『ピュォォォンッ!』
遥か彼方、肉眼では点にしか見えない空を飛んでいた雀の『尾羽』だけを正確に射抜き、雀を傷つけることなく生け捕りにしてみせたのだ。
「……見事だ。某の青龍刀を背後から射抜くことも、容易いであろうな」
武神・関羽が、その絶技に心底感服し、深く頭を下げた。
「我が軍に、比類なき武神がまた一人加わった。黄漢升殿、歓迎いたすぞ!」
関羽、張飛、趙雲、馬超。そして黄忠。
俺の脳内で、ファンファーレが鳴り響いた。
(五虎大将軍……! 劉備軍の最高戦力、ついにここに完全集結!! オタクの夢、完全達成だぜ!)
だが、俺の歓喜を遮るように、徐庶が静かに、しかし深い畏怖を込めた声で口を開いた。
「子雲殿。黄忠将軍という天下の猛将が加わったことは喜ばしい。……だが、荊州に眠る『本物の怪物』は、彼だけではないのです」
「……怪物、ですか?」
徐庶の言葉に、俺はハッとして顔を上げた。
天才軍師である徐庶や郭嘉、そして賈詡や田豊といった中華最高峰の頭脳たちが、一斉に顔を見合わせて、どこか緊張した面持ちになった。
「ええ。荊州の奥深く、隆中と呼ばれる地に……我ら五大軍師の知恵をすべて足し合わせても、あるいは届かないかもしれない『神算鬼謀の極致』が眠っています」
徐庶が、ゴクリと唾を飲み込んで言った。
「水鏡先生(司馬徽)は、彼をこう呼びました。……天に昇る時を待つ、伏せたる竜。『伏龍』、と」
――伏龍。
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋にゾクゾクとするような電流が走った。
郭嘉が、瓢箪の酒を置き、真剣な目で俺を見据える。
「子雲殿。君のその未来を見通す『眼』も、彼を捉え切れるかどうか。……諸葛亮、字を孔明。彼がもし曹操の手に落ちれば、我々の創り上げたこの最強の盤面すら、ひっくり返されるかもしれない」
(諸葛亮孔明……! 三国志最大のチート軍師にして、劉備の運命を決定づけた最強の相棒!)
俺は、強く、強く拳を握りしめた。
すでに俺という異物(軍師)がいるこの陣営に、彼がすんなりと入ってくれる保証はない。だが、俺の『推し活プロデュース』における最後の、そして最大のピース。彼を手に入れずして、劉備の天下統一は絶対にあり得ない。
「……行きましょう、玄徳兄者。俺たちの覇道の総仕上げ……天に眠る竜を、迎えに」
俺の言葉に、劉備が力強く頷いた。
最強の武将たち、最高の軍師たち、そして絶対的な経済力と水軍。
すべてを手に入れた劉備陣営は、ただ最後の一つの『奇跡』を求めて、いよいよ三国志最大のクライマックス――『三顧の礼』と『赤壁の戦い』が待ち受ける第四章へと、その重厚な歴史の扉を押し開こうとしていた。




