第22話:天子《てんし》の保護と大斧《おおおの》の猛将。北天《ほくてん》を焦《こが》す逆転の奇策《きさく》(第二章後半)
第22話:天子の保護と大斧の猛将。北天を焦す逆転の奇策(第二章後半)
北の最大勢力・袁紹本初が、先遣隊の敗北に激怒し、自ら七十万と号する大軍を率いて徐州へと南下を開始した頃。
俺――陳凌(字は子雲)は、劉備軍の主力決戦の準備を天才軍師の郭嘉や賈詡に任せ、趙雲と徐庶が率いる数千の精鋭騎兵と共に、洛陽のさらに西――廃墟となった街道を猛烈な速度で駆け抜けていた。
「……子雲殿! 前方の土煙の中に、追撃を受けている馬車の一団が見えます!」
白馬に跨る趙雲が、鋭い視力で戦場を捉え、白銀の槍を構えた。
「間に合ったか……! 全軍、突撃準備! あの馬車の中に乗っておられる方こそが、我らが命を懸けてお守りすべき『天下の主』だ!」
俺は声を張り上げながら、網膜に【戦場俯瞰走査】のマップを展開した。
史実において、董卓の死後、長安を支配していた李傕や郭汜といった残党どもが内乱を起こす。その混乱に乗じて、幼き皇帝――献帝・劉協は、数少ない忠臣たちと共に命からがら長安を脱出し、洛陽へと逃避行を続けるのだ。
本来の歴史では、ここで曹操が素早く皇帝を保護し、『天子を奉じて不臣を討つ(皇帝を味方につけて大義名分を得る)』という最強の政治カードを手に入れる。
だが、この世界線でその最強カードを曹操に渡すわけにはいかない。
「……追っ手の数は数千! しかし、馬車の殿(最後尾)を、たった一騎の武将が死に物狂いで食い止めています!」
徐庶が剣を抜き放ちながら叫んだ。
俺の視界にも、その凄絶な光景が飛び込んできた。
ボロボロの馬車を守るように立ち塞がる、身の丈八尺(約184センチ)の屈強な武将。彼が振るうのは、常人ならば持ち上げることすら困難な巨大な『大斧』だ。
「退けェッ!! この御車に近づく逆賊どもは、この俺の大斧が微塵に砕く!!」
猛将が斧を横薙に振るうたび、追撃する李傕の騎兵たちがまとめて吹き飛ばされ、血の雨が降る。
(あ、あの巨大な斧……まさか!)
俺は心臓を跳ねさせながら、【人物鑑定】を彼に向けて放った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【氏名】徐晃(字:公明)
【武力】92
【統率】88
【知力】74
【政治】48
【魅力】81
【深層情報・隠し才能】
『周亜夫の気風』:のちに曹操軍の「五将軍」の一人として天下に勇名を轟かせる、極めて規律正しく義理堅い猛将。軍の統率力は極めて高く、絶望的な状況下でも決して主君を裏切らない。現在は献帝を護衛する軍の末端の将だが、己の忠義を尽くすに足る真の主を渇望している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(で、出たァァァッ!! 曹操の主力級武将、徐晃公明! 史実で献帝護衛に尽力した彼が、ここで殿を務めているのか!)
「趙雲! 徐庶殿! あの大斧の猛将を援護してください! 彼もまた、我らが陣営に迎えるべき天下の英傑です!」
「承知ッ!!」
白銀の流星となった趙雲が、敵の側面に突撃し、神速の槍さばきで李傕の残党どもを次々と串刺しにしていく。徐庶も的確な指揮で騎兵を動かし、追っ手を分断して包囲網を敷いた。
「な、なんだ貴様らは!? どこの軍勢だ!」
驚愕する徐晃の前に、俺は馬を進めて一礼した。
「俺たちは徐州牧・劉備玄徳が軍。天子様の危機を知り、お救いすべく馳せ参じました。……徐晃公明殿、あなたの忠義に満ちたその武勇、見事です!」
「なっ、なぜ俺の名を……!? いや、それよりも! 徐州の劉備殿の軍と申したか! あの、黄巾を平定し、民を飢えから救ったという仁義の英雄の……!」
徐晃の瞳に、希望の光が宿る。
そこへ、背後の馬車から、泥にまみれた衣を着た上品な顔立ちの文官が、転びそうになりながら駆け寄ってきた。
「あ、ああ……天の助けか! 劉備殿の軍勢となれば、もはや安泰! 私は献帝様にお供する侍中の鍾繇と申す者!」
(……ッ!! 鍾繇元常!? 曹操の元で長安を治め、魏の相国(最高大臣)にまで上り詰める内政・政治の超絶チート官僚までここにいるのかよ!!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【氏名】鍾繇(字:元常)
【知力】88
【政治】96(天下最高峰の内政・司法能力)
【魅力】83
【深層情報】書道の達人であり、極めて高い行政能力を持つ。荒廃した関中(長安一帯)を復興させるほどの政治チート。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(曹操の『未来の五将軍』と『最高の内政官』、ダブルでいただきます!!)
俺は内心の狂喜乱舞を完璧なポーカーフェイスで隠し、馬から降りて恭しく膝をついた。
「鍾繇殿、そして徐晃殿。ご安心ください。我らが主・劉備は、天子様を安全な徐州へとご案内し、この荒れ果てた漢王朝を必ずや復興させてみせます。……どうか、あなた方のその比類なき武勇と知恵を、我が陣営にお貸し願えませんか」
俺の言葉に、二人は顔を見合わせ、深く頷いた。
「願ってもないことです! この乱世、劉玄徳殿のような大義を持つ方にこそ、天子様をお任せすべきだ!」
「俺の大斧、これよりは劉備殿の描く王道を切り開くために振るいましょう!」
『ピコン!』
【特大イベント『天子の保護』及び『曹魏の至宝強奪』を達成!】
【SSR武将『徐晃』、SSR内政官『鍾繇』を陣営に引き入れました!天命ポイント15000Pを獲得!】
追撃軍を完全に殲滅した後、俺たちは保護した幼き皇帝――献帝を、厳重な護衛と共に徐州へと無事にお迎えした。
彭城の城郭で、泥にまみれ、怯えきっていた献帝の前に、劉備が深々と平伏する。
「天子様。幾多の苦難、さぞかし恐ろしかったことでしょう。……ですが、もうご安心ください。この劉備玄徳、漢の末裔として、御身に指一本触れさせることはいたしません」
劉備の【魅力:99】のオーラが、冷え切っていた献帝の心を、春の日差しのように暖かく包み込む。
そして劉備は、懐から五色の光を放つ神具を取り出し、静かに献帝の御前に捧げた。
「なっ……こ、これは!」
献帝の瞳が、驚愕と歓喜に見開かれる。
「董卓が洛陽を焼いた際に失われた、『伝国璽』……! ああっ、天はまだ、漢王朝を見捨ててはおられなかったか!」
「天子様こそが、中華の正統なる主。この玉は、本来あるべき持ち主の元へお返しいたします」
その高潔な態度と底なしの忠義に、献帝は涙をポロポロと流し、自ら歩み寄って劉備の手を両手で強く握りしめた。
「玄徳……お前は、中山靖王の末裔であったな。ならば、余にとっては叔父にあたる。……ああ、劉皇叔よ! どうか余を、この国を救ってくれ!」
「ハッ! この命に代えましても!!」
ここに、劉備軍は伝国璽を手放す代わりに、天下における完全無欠の『官軍(皇帝の軍)』という最大の大義名分を手に入れたのである。
――そして数日後。
徐州の北を流れる大河の防衛線。そこには、天子からの「逆賊・袁紹を討伐せよ」という勅命の御旗を掲げた劉備軍の主力十万が、完璧な陣形を敷いて待ち構えていた。
対するは、黄河を渡って南下してきた袁紹本軍・七十万(誇張含む)の超大軍である。
圧倒的な兵力差。だが、劉備軍の本陣にいる軍師たちの顔に、焦りは微塵もなかった。
「……さて。袁紹の馬鹿が、見事にこちらの誘導通りに『官渡』の防衛線に大軍を張り付けてくれたね」
郭嘉が、瓢箪の酒をあおりながら、巨大な地図に駒を置いた。
「七十万の大軍など、前線に張り付ければ張り付けるほど、毎日消費する兵糧の量は天文学的な数字になります。……袁紹はその後方支援物資を、すべて『烏巣』という森の奥の砦に集積している」
賈詡が、冷酷な笑みを浮かべて郭嘉の言葉を継ぐ。
「我々の狙いは、その烏巣の兵糧庫。……ここを夜襲で焼き払えば、七十万の大軍は三日で飢え死にするか、自壊して逃げ散るでしょう」
史実において、曹操が圧倒的な兵力差を覆して袁紹を破った『官渡の戦い』の決定打。それを、我々劉備軍が前倒しでそっくりそのまま実行するのだ。
「烏巣の守備兵は一万。そこを、我が軍が誇る最強の武将たちによる少数精鋭の奇襲部隊で一気に突き崩します」
俺が軍配を振り下ろすと、陣幕の奥から、凄まじい闘気を纏った三人の猛将が進み出た。
「ガッハッハッ! 兵糧燃やしなんて地味な仕事かと思ったが、袁紹の喉元をかっ斬る一番の特等席じゃねえか!」
丈八蛇矛を肩に担いだ張飛。
「我が槍、闇夜に紛れて敵陣を切り裂き、必ずや炎を上げてみせましょう」
白銀の槍を静かに構える趙雲。
「新参者の俺に、このような大任を任せていただき感謝する! 俺の大斧が、烏巣の砦の門を微塵に粉砕してやる!」
新たなる武神・徐晃公明。
【武力98】【武力96】【武力92】。
この暴力の化身三人が、闇夜に紛れて最高速度で突撃してくるのだ。守備兵一万など、紙切れの壁にも等しい。
「……行け、我が無双の刃たちよ! 北の空を、袁紹の絶望の炎で焦してこい!!」
その夜。
袁紹軍の兵糧庫である烏巣は、文字通りの地獄と化した。
徐晃の大斧が城門を紙屑のように吹き飛ばし、張飛の蛇矛が守備隊長・淳于瓊を数合で串刺しにし、趙雲の放った火矢が、山のように積まれた兵糧の山に引火する。
『ゴォォォォォォォォォォッッ!!!!』
天を焦がすほどの巨大な紅蓮の炎が、数十里(数十キロ)離れた袁紹の本陣からもはっきりと見えた。
「な、なんだあの火柱は!? ま、まさか、烏巣が……我が兵糧が燃えているのかァァッ!?」
黄金の鎧を着た袁紹が、絶望の悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。
「……勝負あり、ですね」
徐州の城壁の上から、遠く北の空が赤く染まるのを見つめながら、俺は安堵と歓喜の入り混じった息を吐き出した。
七十万の大軍の崩壊。そして、天子を擁立した最強の劉備陣営の、真の覇権の確立。
「子雲。お前の描く盤面は、いつも俺たちの想像の遥か上をいくな」
隣に立つ劉備が、優しい手で俺の肩を抱き寄せた。
「これで、天下の誰も、天子様と民を理不尽に脅かすことはできなくなった。……お前が俺を、本物の『王』にしてくれたんだ」
「いえ、俺はただの推し活オタクですよ、皇叔殿」
俺は照れ隠しに笑い、扇を天に向かって突き上げた。
「さあ、北の猛獣は討ち果たした。残るは西の覇王・曹操と、南の猛虎・孫家! 天下三分の最高に熱い最終章が、いよいよ始まりますよ!!」
最強の布陣を完成させた劉備陣営の快進撃は、とどまることを知らない。
俺の三国志オタクとしての全知識とシステムチートを注ぎ込んだ、誰一人死なせない究極の大団円へ向けて、物語はさらに加速していくのである――。




