第20話:【閑話】徐州《じょしゅう》の奇跡と、噂《うわさ》を聞きつけし仁義《じんぎ》の士たち(第二章開幕)
第20話:【閑話】徐州の奇跡と、噂を聞きつけし仁義の士たち(第二章開幕)
――徐州・彭城。
かつて曹操の大軍による大虐殺の危機に瀕し、その後、劉備玄徳という新たな主を迎えたこの大都市は今、中華全土が驚嘆するほどの『異常な発展』を遂げていた。
「……信じられん。本当にここが、乱世の真っ只中にある都市だというのか?」
彭城の賑わう大通りを歩きながら、一人の恰幅の良い青年が、呆然と呟いた。
彼の名は魯粛、字を子敬。
代々、莫大な資産を持つ豪農の家柄であり、彼自身も天から与えられたような高い知性と、気前良く財産を分け与える度量を持つ男である。のちに呉という国で最高司令官となる男だが、今はまだ仕えるべき主君を持たぬ在野(無職)の身であった。
魯粛の目に映るのは、ただの賑わいではない。
道行く民の顔には、飢えや疲労の色が全くないのだ。それどころか、誰もが血色良く、清潔な衣服を纏っている。
市場には、見たこともないような透明感のある『石鹸』や、滑らかで純白の『紙』が山のように積まれ、洛陽や長安から来た大商人たちが目を血走らせて買い漁っている。
「魯粛殿。驚くのは市場だけではありませんぞ」
魯粛の隣を歩く、背筋のピンと伸びた立派な体格の武将が、苦笑混じりに言った。
彼の名は太史慈、字を子義。
母への恩義を重んじ、かつて北海という地で孔融という太守の危機を単騎で救ったこともある、天下に名高き『仁義の士』である。彼もまた、新たな大義を求めて諸国を放浪していたところ、偶然この徐州で魯粛と意気投合したのだ。
「太史子義殿。これ以上の驚きが、まだあると?」
「ええ。城外の農地を見てまいりましたが……『輪作』という見たこともない農法と、『深耕犂』なる鉄製の農具により、痩せた土地でも麦や豆が溢れんばかりに実っておりました。……聞けば、これらはすべて劉備軍の『筆頭軍師』が持ち込んだ知識だとか」
太史慈の言葉に、魯粛はゴクリと唾を飲み込んだ。
「陳凌、字を子雲……。若くして劉備軍の全権を担い、虎牢関ではあの呂布すら退ける盤面を描いたという、神算鬼謀の軍師。……単なる戦の天才かと思えば、これほどまでの内政の手腕も持っているとは」
「ええ。しかも彼は、身分や家柄を一切問わず、才能と『民を想う心』を持つ者を広く求めていると聞きます。現に、あの天才と名高い郭嘉や、武勇絶倫の典韋らも、自ら劉備殿の元へ馳せ参じたとか」
太史慈は、腰に帯びた剣の柄を固く握りしめた。
「魯粛殿。私は決めました。私のこの武勇、そして仁義を貫く心……劉玄徳殿と、陳子雲殿の大義のために捧げようと」
「……ふふっ、奇遇ですな。実は私も、親友の周瑜から江南(南の豊かな地)へ来ないかと誘われていたのですが……この徐州の奇跡を見て、心が決まりました。私も、劉備殿に仕官を申し出ます」
二人の傑物が、互いに顔を見合わせて力強く頷き合った、まさにその時。
「――おや、こんな大通りで立ち話とは。もしや、我が軍への仕官をご希望で?」
ふわりと、どこからともなく声が降ってきた。
驚いて振り返ると、そこには白羽の扇を片手に持ち、人懐っこい笑みを浮かべた若き青年が立っていた。
その後ろには、威圧感の塊のような巨漢・関羽と、鋭い眼光を放つ趙雲が、影のように控えている。
「なっ……! あ、あなたは……!」
魯粛と太史慈が、そのただならぬ覇気に圧倒されていると、青年は扇をパチンと鳴らして優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります。俺は劉備が配下、陳凌子雲。……魯粛殿、太史慈殿。あなた方のような天下の英傑が自ら徐州に足を運んでくださるとは、我が主・玄徳もさぞかし喜ぶことでしょう」
二人は、雷に打たれたように固まった。
「な、なぜ……名乗ってもいない我々の名を!?」
「それに、我々が仕官を考えていることまで……!」
俺――陳凌は、内心で狂喜乱舞しながらも、涼しい顔で扇を扇いだ。
(キタキタキタァァァッ!! 徐州の噂を聞きつけて、SSR級の在野武将が自ら釣られてやってきた! しかも、孫呉の最高司令官となる魯粛と、義理堅さカンストの猛将・太史慈!)
俺の網膜には、すでに二人の異常なステータスが黄金の光を放って表示されていた。
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【氏名】魯粛(字:子敬)
【知力】92 【政治】90 【魅力】89
【深層情報・隠し才能】『天下二分の計』:のちに孫権に天下を二分する壮大な戦略を説く、大局観に優れた天才外交官にして内政家。江南の地理と水軍の運用にも極めて明るい。
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【氏名】太史慈(字:子義)
【武力】93 【統率】82 【魅力】85
【深層情報・隠し才能】『信義の剛弓』:一度結んだ約束は命に代えても守り抜く、超・義理堅い猛将。弓の腕前は百発百中であり、のちに孫策と神話的な一騎討ちを演じる。
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「俺の『眼』からは、天下を救う大志を抱く者の魂の輝きは、隠そうとしても見えてしまうのですよ」
俺が神秘的な笑みを浮かべてそう言うと、二人は完全に度肝を抜かれ、やがてその場に深く片膝をついた。
「……恐れ入りました。噂に違わぬ、いや、それ以上の神算鬼謀」
魯粛が、震える声で頭を下げる。
「この太史子義、劉備殿と陳軍師殿の大義のため、この命を捧げる覚悟にございます!」
太史慈もまた、力強く宣言した。
『ピコン!』
【システム通知:特大イベント『仁義の士の合流』を達成! SSR武将『太史慈』、SSR軍師『魯粛』を陣営に引き入れました!天命ポイント10000Pを獲得!】
(よっしゃあああッ! これで未来の孫家の最強戦力まで強奪完了だ! しかも魯粛がいれば、水軍の創設と江南進出の布石が打てるぞ!)
「さあ、お立ちください。我が主・玄徳が、城で首を長くして待っております」
俺が二人の手を取って立たせると、関羽が満足げに長鬚を撫でた。
「うむ。太史慈殿のその澄み切った武の気配、我が陣営に相応しい。共に青龍偃月刀と弓を交える日が楽しみだ」
「ご期待に沿えるよう、精進いたします、関羽将軍!」
こうして、徐州の城郭の一室。
新たに加わった二人を交え、劉備陣営の首脳陣による軍議が始まった。
「……なるほど。魯粛殿の言う通り、我々がさらに南下し、揚州(江南)を押さえるためには、巨大な『水軍』の創設が急務というわけか」
劉備が、広げられた地図を見つめながら深く頷く。
「はい、玄徳様」
魯粛が、緊張した面持ちで進み出た。
「長江を越えるには、陸の戦法は通用しません。今のうちに徐州の豊富な資金を使って造船所を建造し、水軍の訓練を開始すべきです。私が、その総指揮を執らせていただきます」
「ふふっ、さすがは子敬(魯粛)殿。頼もしい限りだ」
軍師の席で酒を飲んでいた郭嘉が、ニヤリと笑った。
「だが、南ばかりに目を向けているわけにはいかないよ。……北の最大勢力、袁紹本初が、ついに公孫瓚を滅ぼすべく大軍を動かし始めたという情報が入っている」
その言葉に、軍議の場にピリッとした緊張感が走った。
袁紹。反董卓連合軍の元盟主であり、現在、中華で最も広大な領地と兵力を誇る絶対的な巨魁。
彼が北を完全に統一すれば、次に狙うのは間違いなく、豊かな徐州を持つ我々劉備軍である。
「……袁紹の大軍。顔良、文醜といった猛将もいる。正面からぶつかれば、いかに我々でも無傷では済まない」
田豊が、苦虫を噛み潰したような顔で言った。かつて史実で袁紹に仕え、理不尽に処刑された彼だからこそ、その恐ろしさと愚かさを誰よりも知っているのだ。
「ご心配なく、田豊先生。そして兄者」
俺は、立ち上がって全員を見渡した。
「北の袁紹、そして西で虎視眈々《こしたんたん》と我々を狙う曹操。……彼らが本格的に動く前に、我々は内政を極限まで押し上げ、水軍という新たな牙を研ぎ澄まします。……魯粛殿、太史慈殿。あなた方の力が、どうしても必要なのです」
「お任せを、子雲殿!」
「この命に代えても、劉備様の大義を成し遂げてみせましょう!」
天下無双の武将たち、そして未来を先読みする天才軍師たち。
彼らが集う徐州は今、中華全土を呑み込む嵐の中心として、その輝きを一層強く放ち始めていた。




