第19話:五大軍師の円卓《えんたく》。覇王《はおう》の凶刃《きょうじん》を封じる、青州《せいしゅう》・徐州《じょしゅう》の同時掌握《しょうあく》(中盤)
第19話:五大軍師の円卓。覇王の凶刃を封じる、青州・徐州の同時掌握(中盤)
大宴会から一夜明けた、安喜県の地下作戦室。
分厚い石壁に囲まれた薄暗い部屋の中心には、中華全土が描かれた巨大な木彫りの地図が置かれ、その傍らで『伝国璽』が静かに五色の光を放っていた。
卓を囲んでいるのは、俺――陳凌(字は子雲)を含めた五人の男たち。
内政の神・田豊。毒牙の謀将・賈詡。天眼の鬼謀・郭嘉。王佐の義侠・徐庶。
間違いなく、現在の中華において最高峰の頭脳が集結した『最強の五大軍師』の円卓会議である。
「……いやはや。本物の伝国璽を前に酒が飲める日が来るとはね。しかも、それを一介の義勇軍がコソコソと隠し持っている。痛快すぎて笑いが止まらないよ」
郭嘉が瓢箪を揺らしながら、クスクスと喉を鳴らした。
「笑い事ではないぞ、奉孝殿」
田豊が厳しい顔で地図を指差す。
「我が軍の兵站は完璧、兵の練度も最強だ。だが、いかんせんこの安喜県は狭すぎる。数万の軍勢を養い、伝国璽の威光を以て天下に号令をかけるには、絶対に『州』単位の広大な領地が必要不可欠だ」
「ならば、狙うは東――豊かな穀倉地帯である『徐州』と、その北に位置する『青州』の二州しかありませんな」
賈詡が、冷ややかな声で分析を述べる。
「しかし、問題があります。我々が東へ動けば、兗州を拠点に力を蓄えつつあるあの男――曹操孟徳と完全に領地が隣接する。奴は今、我々を最大の標的として牙を研いでいるはず。背後を突かれれば、いかに我らでも無傷では済みません」
史実においても、この時期の曹操は急速に勢力を拡大していく。曹操との全面戦争になれば、泥沼の消耗戦は避けられない。
「……だからこそ、俺の『先見の明』を使うのです」
俺は扇を広げ、地図の『徐州』の一点に白羽の矢を立てた。
「俺たちは、徐州と青州を『血を流さずに』同時掌握し、さらに曹操陣営からの憂いを完全に断ち切ります。……史実の悲劇を、丸ごとひっくり返すことによって」
四人の天才軍師たちの視線が、一斉に俺に集中した。
「徐州の太守・陶謙は、すでに老齢で後継者もおらず、国を譲るべき『徳』のある人物を探しています。……近々、その徐州を、曹操の父親である曹嵩が財宝を持って通過する。陶謙は護衛の兵をつけますが、その兵は財宝に目がくらみ、曹嵩を暗殺して逃亡してしまう」
「なっ……!?」
徐庶が息を呑んだ。
「もし曹操が父親を殺されれば、どうなる?」俺は郭嘉を見た。
「……あのプライドの塊にして、親への情が深い男だ。激怒し、徐州の民を何十万人も巻き込む『大虐殺』の復讐戦を引き起こすだろうね。……まさか、子雲殿」
郭嘉の瞳が、驚愕に見開かれた。
「その通りです」俺はニヤリと笑った。「趙雲と徐庶殿の別働隊を極秘に派遣し、裏切る護衛兵たちを事前に殲滅。曹操の父親を無傷で救い出し、丁重に曹操の元へ送り届けるのです!」
静まり返った地下室に、俺の扇の音がパチンと響いた。
「……曹操は超合理主義者ですが、同時に『恩義』や『大義名分』を極めて重んじる男だ。自分の父親の命を救った劉備軍に対し、いかに敵対していようと、すぐに刃を向けることは道義的に絶対に不可能になります。これで、曹操からの背後の憂いは完全に消え去る」
「そして!」
田豊が興奮で顔を赤くして身を乗り出した。
「曹操の父親を救い、徐州の大虐殺を未然に防いだとなれば! その恩義と、伝国璽の威光、そして劉備様の『仁』の器に感服し、老齢の陶謙は間違いなく徐州を劉備様に譲り渡す!!」
「完璧だ……。背後の猛獣に強固な『恩の鎖』を繋ぎ、無傷で豊かな大国を手に入れる。あまりにも美しすぎる盤面だ」
賈詡が、戦慄したように肩を震わせた。
「徐州さえ手に入れば、あとは総仕上げです」
俺はさらに、地図の『青州』を指差した。青州には現在、数十万の黄巾賊の残党が飢えに苦しみながら暴れ回っている。史実では、これを曹操が武力で制圧し、『青州兵』として自軍の最強の基盤にしてしまうのだ。
「徐州の豊かな兵糧を使い、我が軍の青州兵の頭目・管亥を交渉役に立てて、青州の黄巾残党を『丸ごと』引き取ります。玄徳兄者の【魅力:99】と飯さえあれば、彼らは喜んで我が軍の民となり、最強の農耕・軍事軍団へと生まれ変わる。……曹操が青州に手を伸ばす前に、その基盤を完全に刈り取るのです」
沈黙。
四人の天才軍師たちは、俺の提示した『史実チート』を限界まで組み込んだ完璧な戦略図を前に、もはや言葉を失っていた。
「……ははっ、こりゃあ傑作だ」
やがて郭嘉が、腹を抱えて笑い出した。
「ただの戦じゃない。政治、外交、人心掌握。すべてにおいて、あの曹孟徳の急所をこれでもかとえぐり抜いている。……君の頭の中は、本当にどうなってるんだい、子雲殿?」
「言ったでしょう? 俺の『眼』には、未来が見えるんですよ」
俺はわざとらしくウインクをして見せた。
「よろしい。ならば我らの為すべきことは決まりましたな」
徐庶がスッと立ち上がり、腰の剣を叩いた。
「私が趙雲殿と共に先回りし、曹操の父君をお救いしましょう。……玄徳殿の『仁』を、天下に示すための最初の一手として」
こうして、最強の五大軍師による軍議は決した。
史実において曹操を覇王へと押し上げた「徐州侵攻」と「青州兵吸収」という二つの巨大な歴史のうねりを、劉備陣営が先回りで完全に『総取り』する。
三国志オタクの知識と、神引きした最高の軍師たちが奏でる、絶対無敗のオーケストラが、いよいよ大陸の東へ向けて鳴り響こうとしていた。




