第19話:第一章完結編。安喜《あんき》の大宴会と、推《お》したちが描く無双《むそう》の夢(前半)
第19話:第一章完結編。安喜の大宴会と、推したちが描く無双の夢(前半)
洛陽の猛火と、虎牢関での死闘を潜り抜け、俺たち劉備軍四千五百は、ついに本拠地である中山国・安喜県へと帰還を果たした。
焼け野原となった洛陽とは打って変わり、安喜県の街並みは俺たちが留守にしている間にもさらに発展を遂げていた。黄金色に実る秋の麦畑、特産品の石鹸や紙を求める商人たちでごった返す市場。そこには、俺と劉備が目指した『誰も飢えない理想の国』の雛形が、確かに息づいていた。
「おおおおッ! 玄徳様がお戻りになられたぞォ!」
「見ろ! あの大男たち……! またとんでもない豪傑を連れて帰ってきなさった!」
民衆の割れんばかりの歓声に出迎えられながら、その日の夜、安喜県の役所の中庭では、新たなる仲間たちを歓迎する『大宴会』が盛大に開かれていた。
庭の中央には巨大な焚き火が組まれ、丸々と太った豚や羊の肉が香ばしい脂を滴らせながら焼かれている。俺の現代知識で作らせた純度の高い『蒸留酒』が樽ごと振る舞われ、むせ返るような熱気と笑い声が夜空に響き渡っていた。
「ガッハッハッ! おい新入り! てめえらデカい図体してるが、酒の方はどうなんだ!? この燕人・張飛様が相手になってやるぜ!」
張飛が、顔を真っ赤にしながら自分の頭ほどもある巨大な盃をドンッと机に叩きつけた。
「へへっ! 望むところだべ! 村じゃ俺の飲みっぷりに勝てる奴はいなかったかんな! いくぞ典韋!」
「おう! 玄徳殿の酒は最高に美味いからな、樽ごと空けちまおうぜ!」
張飛、許褚、典韋。
【武力96〜98】の純粋な物理バケモノ三人が、肩を組みながら滝のように強い酒を喉に流し込んでいる。その横では、几帳面な張郃が「貴様ら、明日の調練に響くぞ!」と怒鳴りつつも、どこか楽しそうに笑っていた。
「……いやぁ、素晴らしいね。あの三人が暴れたら、それだけで小国が一つ滅びそうだ」
少し離れた縁側で、新たなる天才軍師・郭嘉(字は奉孝)が、ひょうたんから酒をチビチビと飲みながら、くすくすと笑い声を上げた。
「郭奉孝。お主もあまり飲みすぎるなよ。……その顔色、常人よりも臓腑が弱いと見える。玄徳殿の大義を手伝う前に倒れられては困るからな」
関羽が、美しい長鬚を撫でながら、郭嘉に温かい白湯の入った器を差し出した。
「おや、武神殿は軍師の体調管理までしてくれるのかい? こりゃあ、前の職場(村の自警団)より随分と居心地がいい」
郭嘉が嬉しそうに目を細める。
その隣では、徐庶(字は元直)と趙雲が、互いの愛剣と槍を見せ合いながら、熱心に武術と義侠の心得について語り合っていた。
(……すげぇ。本当に、俺の目の前にいるんだ。三国志を彩る最高の英雄たちが、全員揃って同じ火を囲んで笑い合っている)
俺――陳凌(字は子雲)は、少し離れた柱の影から、その奇跡のような光景をぼんやりと見つめていた。
オタクとしての夢が、限界を超えて具現化した世界。
この光景を守るためなら、俺はどんな冷酷な策でも弄してみせる。そう決意を新たにした、その時だった。
「子雲。……こんなところで、何を一人で飲んでいる」
ふわりと、暖かい風が吹いたような気がした。
振り返ると、総大将である劉備が、二つの杯を持って俺の隣に腰を下ろしていた。その【魅力:99】のオーラは、戦場の苛烈さを完全に脱ぎ捨て、まるで陽だまりのように穏やかだった。
「玄徳兄者。……いえ、俺はただ、皆が楽しそうにしているのを見るのが好きでして」
俺が照れ隠しに笑うと、劉備は自身の杯を俺の杯に、カチンと優しく打ち合わせた。
「……ありがとう、子雲」
劉備の、低く、しかし心の底からの震えるような声だった。
「お前が涿郡の市場で、あの筵を編んでいた俺を見つけてくれなかったら。……俺たちは今頃、黄巾の波に飲まれて名もなき死体になっていたか、洛陽の炎の前で何もできずに絶望していたはずだ」
劉備の瞳が、焚き火の光を反射して、わずかに潤みを帯びている。
「関羽、張飛、趙雲。それに田豊先生や張郃、賈詡殿。そして今日加わったあの素晴らしい四人の豪傑と軍師たち。……お前が、俺という空っぽの器に、天下を救うための最高の『中身』を注ぎ込んでくれたんだ」
「玄徳兄者……」
「俺は、必ず天下を獲る」
劉備は夜空の満月を見上げ、固く誓うように言った。
「お前が俺に見せてくれた『誰も飢えない、誰も不条理に命を奪われない未来』。それを現実にするためなら、俺はどんな泥水でもすするし、どんな修羅の道でも歩く。……だから子雲。これからも、俺の隣で、お前のその『眼』で、俺たちの行く先を照らし続けてくれないか」
オタクにとって、推しからのこれ以上ない最高の言葉だった。
俺の視界が急速にぼやけ、熱いものが頬を伝ってこぼれ落ちた。
「……もちろんです、兄者。俺の知識も、この命も、すべてはあなたに天下を獲らせるためのもの。……誰一人欠けさせることなく、必ず、最高の玉座までご案内してみせます!」
俺が涙を拭いながら力強く宣言すると、劉備は太陽のように笑い、俺の肩を力強く抱き寄せた。
「おーい! 兄者ァ! 四弟ィ! あっちでコソコソ飲んでねえで、こっち来て一緒に歌おうぜ!!」
広場の中央から、すっかり出来上がった張飛と許褚が、大声で俺たちを手招きしている。
「行くぞ、子雲! 今夜は無礼講だ、俺たちの出会いと、これからの覇道に乾杯だ!」
俺は劉備に手を引かれ、最強の英雄たちが待つ光の中へと歩み出していった。
この最高の陣営となら、どんな未来でも切り開ける。その絶対の確信を胸に抱きながら。




