第18話:猛虎《もうこ》との密約。伝国璽《でんこくじ》の呪いと、次なる奇跡の萌芽《ほうが》(前半)
第18話:猛虎との密約。伝国璽の呪いと、次なる奇跡の萌芽(前半)
炎と黒煙に包まれた洛陽・建章殿の焼け跡。
井戸の傍らで五色の光を放つ『伝国璽』を手にした劉備と俺の前に、江東の虎・孫堅文台が、歴戦の猛将たちを引き連れて立ち塞がった。
「玄徳殿。貴殿が手にしているその玉……ただの宝ではあるまい。董卓が落としていったのなら、連合軍の先鋒たるこの孫堅が預からせてもらおうか」
孫堅が鋭い眼光を放つと、彼の背後に控える程普や黄蓋といった猛将たちが、一斉に武器の柄に手をかけた。
「……一歩でも我が兄者に近づいてみろ。江東の虎だろうが、ただの毛皮にしてくれるわ」
張飛が、ギリッと牙を剥いて丈八蛇矛を構え、関羽と趙雲も音もなく孫堅軍の前に進み出る。
虎牢関で呂布を退けた天下最強の三将が放つ殺気に、孫堅の配下たちも一瞬たじろいだが、孫堅本人は全く怯むことなく腰の古錠刀を抜こうとした。
(マズい……! ここで孫堅軍とぶつかれば、ただでさえボロボロの洛陽が完全に火の海になる。それに、連合軍の貴重な良心である孫堅と殺し合うなんて、百害あって一利なしだ!)
俺――陳凌(字は子雲)は、システムを起動して孫堅のステータスを読み取りながら、両軍の間に割って入った。
「お待ちを、孫文台殿! 互いに武器をお収めください!」
「退け、若僧。それは天下を統べる者の証、伝国璽だろう。……漢の忠臣たる私こそが、それを持ち帰り、帝にお返しする大義がある!」
「いいえ! あなたがそれを持ち帰れば、江東の虎は『矢の雨』に射抜かれて死にます!」
俺の突拍子もない予言に、孫堅の動きがピタリと止まった。
「……なんだと?」
「俺の『眼』には、未来の因果が見えるのです」
俺は扇をたたみ、真剣な眼差しで孫堅を見据えた。
「もし孫堅殿がこの伝国璽を持ち帰れば、嫉妬に狂った袁紹は、荊州の劉表に命じてあなたの帰路を襲わせるでしょう。……あなたは深い谷底に誘出され、伏兵の矢を全身に浴びて無念の死を遂げる。この玉は、絶対的な『徳』を持たぬ者が抱えれば、ただ命を削るだけの『呪いの石』なのです」
それは史実における、孫堅のあまりにも呆気ない最期の予言であった。
「ば、馬鹿な! 我が殿がそんな罠に――」
黄蓋が怒鳴り込もうとしたが、孫堅はそれを手で制した。
彼は、劉備の後ろに立つ俺の瞳の奥に、一切の虚勢や嘘がないことを、歴戦の勘で悟ったのだ。
「……陳子雲、と言ったな。虎牢関で呂布の隙を作った恐ろしき軍師。お前は私に、その玉を諦めろと言うのか」
「ええ。この伝国璽は、私利私欲を持たず、ただ民を想って猛火の井戸に飛び込んだ我が主・劉備玄徳こそが預かるべきです。……代わりに、我ら劉備軍は、孫堅殿と『絶対の盟約』を結びたい」
俺は一歩踏み出し、交渉のカードを切った。
「いずれ天下は群雄割拠の時代を迎える。我らが北を制する時、南の覇者となる孫家の背中は決して撃たないと誓いましょう。……石ころ一つで命を落とすか。それとも、天下最強の劉備陣営という『盾』を背中につけるか。……孫堅殿ほどの英傑なら、どちらが未来の孫家のためになるか、お分かりのはずだ」
孫堅はしばらくの間、俺と劉備を交互に見つめ、やがてフッと息を吐いて剣を鞘に収めた。
「……天下無双の武将たちに、先の世を見通す神の如き軍師。そして、それらを束ねる底なしの『仁』の器。……なるほど。曹操が、お前たちを最大最強の敵だと認めて去った理由がよくわかった」
孫堅は、劉備に向かって深々と一礼した。
「玄徳殿。その玉は、貴殿が持つべきだ。江東の孫文台、漢室復興を願う同志として、貴殿との盟約、しかと結ばせていただこう!」
「孫堅殿……感謝いたします。あなたのご無事と孫家の繁栄、俺も心より祈っております」
劉備が温かく微笑み返し、二人の英雄は固い握手を交わした。
『ピコン!』
【システム通知:特大イベント『伝国璽の平和的確保』及び『孫家との強固な盟約』を達成しました!天命ポイント5000Pを獲得!】
【孫堅の死亡フラグ(荊州の伏兵)が回避ルートに入りました】
(よっしゃあああッ!! 外交チート、完全勝利! 伝国璽をノーリスクで手に入れつつ、有能な孫家を未来の味方につけたぞ!)
俺は内心で狂喜乱舞しながら、崩れゆく洛陽の空を見上げた。
――数日後。
反董卓連合軍は、曹操の離脱と孫堅の帰還により、なし崩し的に解散となった。
袁紹や袁術は各々の領地へ戻り、俺たち劉備軍四千五百もまた、莫大な戦利品と天才軍師・賈詡、そして天下の大義名分である『伝国璽』を抱え、本拠地である安喜県へと帰路についていた。
「いやぁ、大豊作だったな! これで俺たちの天下もぐっと近づいたぜ!」
張飛が馬上で上機嫌に笑い、劉備も安堵の表情を浮かべている。
だが、オタク軍師である俺の【推し活】は、歩みを止めることを知らない。
俺の網膜の端で、洛陽から少し離れた街道をスキャンしていた【人物鑑定】のレーダーが、突如として二つの『SSR級(超特大)の光』を捉えて激しく点滅し始めたのだ。
『ピィィィン! ピィィィン!』
【システム通知:超一級の在野武将、並びに超一級の在野文官の反応を同時に検知!】
【距離、前方五里(約2キロ)。急ぎ接触を推奨します】
(……な、なんだと!? この付近で、文官と武将のSSR級が二人同時にウロウロしてるっていうのか!?)
俺は目をこすり、その異常なステータス数値を解析した。
一人は、【武力:96】の純粋な暴の化身。
もう一人は、【知力:98】の神算鬼謀のバケモノ。
「玄徳兄者! 全軍、少し歩みを緩めてください! ……またしても、俺たちの前に『天の贈り物』が転がり込んでくるようです!」
俺の言葉に、関羽と趙雲がハッと顔を上げ、劉備が嬉しそうに目を細めた。
最強の君主への道を駆け上がる劉備陣営に、新たなる「双璧」が加わろうとしていた。




