第12話:汜水関《しすいかん》の激震。システムの広域走査《スキャン》と、若き名将・張遼《ちょうりょう》の発見(前半)
第12話:汜水関の激震。システムの広域走査と、若き名将・張遼の発見(前半)
反董卓連合軍の結成から数日後。
ついに洛陽の防衛線である『汜水関』にて、両軍の激しい衝突が始まった。
しかし、連合軍の陣営は初日から最悪の絶望に包まれていた。董卓軍の先鋒として現れた身の丈九尺(約207センチ)の猛将・華雄の前に、連合軍の自慢の武将たちが赤子のように次々と撫で斬りにされていたのだ。
「……ま、また討たれただと!? 兪渉に続き、潘鳳までもがたった数合で首を刎ねられたと言うのか!」
本陣の巨大な陣幕の中で、盟主である袁紹が顔面を蒼白にして玉座から立ち上がった。
「ば、化け物だ! あの華雄という男、我が軍の精鋭をまるで草を刈るように……! ああっ、我が配下の顔良と文醜さえ連れてきていれば、あんな賊将など一捻りにしてくれるものを!」
袁紹が情けなく喚き散らす中、居並ぶ天下の諸侯たちは誰一人として目を合わせようとせず、俯いてガタガタと震えている。
無理もない。華雄の武力は圧倒的であり、彼を討ち取れるほどの「本物の修羅」は、この場には数えるほどしかいないのだから。
(史実通りの情けないテンプレ展開だな。……さあ、いよいよ俺の推しの大舞台だ)
俺――陳凌(字は子雲)は、劉備の後ろに控えながら、扇で口元を隠してニヤリと笑った。
「――盟主殿。某が行って、その華雄とやらの首を刎ねてまいりましょう」
静まり返った陣幕に、重厚でよく響く声が落ちた。
緑の戦袍を纏い、見事な長鬚を撫でながら進み出たのは、我らが劉備軍の筆頭将軍・関羽雲長である。
「おお! 玄徳殿の配下の……!」
袁紹が藁にもすがるような目を向けたが、すかさず隣にいた袁術が甲高い声で口を挟んだ。
「ま、待て! お前は玄徳の軍でいかなる役職に就いているのだ!? 名のある将軍なのだろうな!」
「某は、劉備兄者の元で一介の歩兵長を務めております」
「な、なんだと!? たかが歩兵長ごときが、この天下の諸侯の御前で大言壮語を吐くか! 我々を愚弄する気か、叩き出せ!」
袁術が顔を真っ赤にして怒鳴り散らした、その時。
「まあ待たれよ、袁公路(袁術)殿」
闇のような漆黒の瞳を持つ男――曹操孟徳が、静かに立ち上がって関羽の前に歩み寄った。
「この関羽殿の姿、出で立ち。只者ではないことなど一目でわかるはず。……関羽殿、貴殿の勇気に敬意を表し、私が自ら温かい酒を注ごう。これを飲んでから出陣されるが良い」
曹操が使用人に命じて熱い酒を杯に注がせ、関羽に差し出す。
だが、関羽はその杯を受け取らず、青龍偃月刀を軽く持ち上げて凄絶な笑みを浮かべた。
「曹操殿、お心遣い感謝する。だが……その酒は、そこに置いたままにしていただきたい」
「ほう。飲まぬと?」
「某が華雄の首を刎て戻ってくるまで、その酒はまだ『温かいまま』であろうからな」
――温酒斬華雄。
三国志演義における、関羽の最強伝説の幕開けを告げる最高に痺れる名台詞だ。
曹操の目が驚愕と歓喜に大きく見開かれる中、関羽は翻身して陣幕を出て行った。
「……さあて、関羽兄者が最高の見せ場を作ったんだ。軍師である俺も、最高のお膳立をしてやらないとな」
俺はそっと陣幕を抜け出し、劉備軍の待機所へと早足で向かった。
いくら武力99の関羽とはいえ、相手は数万の大軍を引き連れ、伏兵などの罠を張り巡らせている関所だ。一騎討ちの最中に横槍を入れられれば、無傷では済まないかもしれない。
(システム起動! 【戦場俯瞰走査】、最大出力!)
『ピシュンッ!』
俺の網膜に、汜水関周辺の広大な地形マップが、まるで最新のレーダー衛星画像のように展開された。
光る赤い点が敵兵、青い点が味方だ。
「……なるほど。華雄の奴、一騎討ちで勝負をつける気満々に見せて、実は関所の左右の森に弓兵を三百ずつ伏せているな。関羽兄者が勝った瞬間に一斉射撃で蜂の巣にする算段か。小賢しい」
俺の現代的なシステムハッキング能力の前に、時代の遅れた伏兵など、すべて丸裸である。
「張郃殿! 趙雲!」
俺が声をかけると、武装を整えた二人が即座に駆け寄ってきた。
「張郃殿は軽歩兵を率いて右の森へ。趙雲は騎兵五十を連れて左の森へ迂回してくれ。敵の伏兵が潜んでいる。……関羽兄者の一騎討ちの邪魔にならないよう、音もなく処理しろ」
「御意! 地形の裏をかくなど、我が槍の最も得意とするところ」
「承知いたしました、子雲殿。一匹たりとも関羽殿には近づけさせません」
二人の頼もしい名将が、影のように音もなく出撃していく。これで関羽のレッドカーペットは完璧に敷かれた。
だが、俺の【戦場スキャン】のマップには、もう一つ、強烈な光を放つ特異な反応があった。
華雄の本陣から少し離れた後方。遊撃部隊として配置されている一人の敵将のステータスに、俺の目は釘付けになったのだ。
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【氏名】張遼(字:文遠)
【武力】92
【統率】93
【知力】78
【政治】58
【魅力】82
【深層情報・隠し才能】
『神速の突破力』:のちに曹操軍の筆頭将軍として泣く子も黙る「遼来遼来」の伝説を創り上げる、三国志屈指の名将。現在は董卓軍の客将(呂布の部下)として従軍しているが、董卓の残虐な振る舞いに深い嫌悪感を抱いており、己の義を捧げるべき真の主君を探している。
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(マ、マジかよ……!! ここで張遼文遠がいるのか!!)
俺は、あまりのオタク的幸運に震えが止まらなかった。
張遼。関羽と並び称されるほどの義理堅さと、圧倒的な統率力を持つ万能の猛将。彼が手に入れば、劉備軍の騎兵戦力は完全に天下無双の完成形となる。
「……董卓軍に未練がないなら、絶対に俺たちの陣営に引き抜いてやる」
俺は懐から筆と改良型の紙を取り出し、猛烈な勢いで『密書』を書き殴った。内容は、彼が抱く董卓への不満を正確に言い当て、劉備の『仁』の道を説く、熱烈なラブレター(引き抜き工作)だ。
「管亥! いるか!」
「へい! 軍師殿、お呼びで!」
元黄巾の猛将・管亥が飛んでくる。
「青州兵の中でも一番足が速く、隠密行動が得意な数名を選べ。この密書を、敵陣の右翼にいる『張遼』という将軍の陣幕に、誰にも見られずに射ち込め!」
俺の裏工作の歯車が、戦場の陰で凄まじい勢いで回り始めた。
表の舞台では、武神・関羽の圧倒的な刃が華雄の首を狙い。
裏の舞台では、俺のシステムと知略が、未来の天下の名将たちを絡め捕ろうとしていた。
反董卓連合軍の運命を決定づける汜水関の戦い。
最強の推し活プロデュースは、いよいよ最高潮の熱を帯びて動き出そうとしていた――!




