第10話:反董卓連合《はんとうたくれんごう》の集結。最強の推《お》し陣営、天下の群雄《ぐんゆう》を戦慄《せんりつ》させるデビューステージ(前半)
第10話:反董卓連合の集結。最強の推し陣営、天下の群雄を戦慄させるデビューステージ(前半)
西暦190年。
天下は、一人の暴君によって最悪の混沌へと叩き落とされていた。
西涼という辺境から上洛してきた猛将・董卓仲穎が、首都・洛陽の軍権を掌握。幼い皇帝を傀儡(操り人形)とし、逆らう官僚たちを次々と処刑しては、夜な夜な宮中で凶行に及んでいたのだ。
この暴逆に対し、ついに天下の諸侯が立ち上がった。
後に魏の武帝となる若き日の曹操孟徳が、董卓暗殺に失敗して洛陽を脱出した後、全国に「董卓討伐の檄文」を飛ばしたのである。
これに応じ、酸棗という地に、十八の反董卓連合軍が結集しつつあった。
「……ふむ。ひどい有様だな。あれが名だたる諸侯の軍勢か」
連合軍の巨大な陣営を見下ろす丘の上で、我が陣営の天才内政官・田豊が、呆れたようにため息をついた。
彼の視線の先では、各地方から集まった数十万の大軍が駐屯している。だが、その実態は農民を無理やり掻き集めただけの烏合の衆だ。装備はバラバラ、兵糧の管理もずさんで、陣形すらまともに組めていない部隊がほとんどだった。
「仕方ありませんよ、田元皓先生。天下の富の半分は洛陽の宦官どもが握っていたんですから。地方の諸侯の練度なんて、あんなものです」
俺――陳凌(字は子雲)は、自らの愛馬の首を撫でながら、皮肉げに笑った。
史実において、この反董卓連合軍に参加した劉備は、わずかな義勇兵を連れただけの「公孫瓚のオマケ」のような扱いであった。名門貴族である袁紹や袁術からは冷遇され、末席に座らされるという屈辱を味わうことになる。
だが、今の俺たちは違う。安喜県という強固な生産拠点を持ち、知識チートと【天命ポイント】によって完全武装を果たした、圧倒的な独立軍閥なのだ。
「四弟(子雲)。そろそろ行くか?」
総大将たる劉備が、腰の双股剣に手を添え、優しく微笑みかけてくる。
「ええ、玄徳兄者。天下の田舎者どもに、俺たちの『最強の推し陣営』がどれほどのものか、骨の髄まで見せつけてやりましょう!」
俺が軍配を振り下ろした瞬間。
『ズォォォォォォン……!』
地鳴りのような、重く、一糸乱れぬ行軍の足音が大地を揺らした。
酸棗の陣営で酒盛りをしていた連合軍の諸侯たちが、何事かと一斉に陣幕から飛び出してくる。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
連合軍の盟主に推戴された名門の当主・袁紹が、慌てふためいて叫ぶ。その隣では、弟の袁術が目をひん剥いて震えていた。
彼らの視界を埋め尽くしたのは、太陽の光を反射して白銀に輝く、巨大な「鉄の壁」だった。
俺の現代知識と天山寒鉄の残りカス(それでも超硬質だ)を配合して量産した、最新鋭の重装鉄鎧。それを身に纏った一千五百の重装歩兵部隊が、関羽と張郃の指揮のもと、完璧な密集陣形で進軍してくるのだ。
「ひぃぃっ! あ、あんな分厚い鉄の鎧、見たことがないぞ! 近衛兵か!?」
「いや、待て! その後ろを見ろ! あの殺気……本物の修羅だ!」
重装歩兵の背後から現れたのは、管亥率いる『青州兵の原型』たち五百名。黄巾の地獄を生き抜き、劉備への狂信的な忠誠心で鍛え上げられた彼らの放つ血の匂いは、温室育ちの諸侯の兵たちを恐怖でちびらせるのに十分だった。
そして――その最強の軍団の先頭に立つのは、三国志が誇る最高峰の英雄たちだ。
「燕人・張飛、一番乗りだァ!! どけェ、邪魔だ邪魔だァ!!」
漆黒の暴れ馬・烏騅に跨った大男が、一丈八尺(約4メートル)の『丈八蛇矛』を振り回しながら雷鳴のように吠える。
「常山の趙雲子龍、玄徳殿の御前を清めさせていただきます」
純白の馬に乗り、銀の軽鎧を纏った絶世の美青年が、氷のように冷たく鋭い槍さばきで、風を切るように進む。
「……ふん。天下の諸侯と聞いておったが、案外脆そうな者たちばかりよ」
そして、身の丈九尺(約207センチ)、赤き顔に美しい長鬚をたくわえた関羽が、重さ18キロの神具『青龍偃月刀』を片手で軽々と持ち、圧倒的な武神の覇気をまき散らしていた。
(よしよし、いいぞ……! 連合軍の連中のアゴが外れそうになってるぜ!)
俺は心の中で爆笑しながら、自慢の【人物鑑定】を起動し、狼狽する諸侯たちのステータスを次々とスキャンしていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【氏名】袁紹(字:本初)/連合軍盟主
【統率】81 【武力】69 【知力】70 【政治】73 【魅力】89
【深層心理】『な、なんだあのバケモノみたいな軍勢は!? あんなのを連れているのは、どこの大身の諸侯だ!? 挨拶して味方に引き入れねば!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【氏名】袁術(字:公路)/連合軍副盟主
【統率】44 【武力】65 【知力】61 【政治】16 【魅力】39
【深層心理】『ひぃぃっ! 俺の親衛隊より装備がいいじゃないか! 憎たらしい、絶対にいびってやる!』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(相変わらず袁術はクソみたいなステータスだな。まぁいい、これで主役への道筋は完璧に敷かれた)
圧倒的な武力と財力を見せつけながら、軍勢がピタリと停止する。
その中央がモーセの十戒のように割れ、一人の男が進み出た。
柔和でありながら、どこか底知れぬ深海のような静けさを持つ瞳。彼がそこに存在するだけで、周囲の空気が暖かく浄化されるような錯覚を覚える――【魅力:99】のオーラを全開にした、我が最愛の推し・劉備玄徳である。
袁紹が慌てて居住まいを正し、作り笑いを浮かべて前に出た。
「お、おお! 見事な軍容だ! 貴殿はどこの太守(州の長官)であられるか! 我が連合軍へようこそ!」
誰もが、最低でも「〇〇州の刺史」クラスの大物だと思ったはずだ。
劉備は馬上から優雅に一礼し、静かに、しかしよく通る声で名乗った。
「お出迎え、痛み入る。俺は中山国・安喜県の県尉……漢の中山靖王の末裔、劉備、字を玄徳と申す」
シンッ……と、数十万の兵がいる陣営が静まり返った。
「け、県尉……だと?」
袁紹の顔が引き攣る。
県尉とは、現代で言えば「田舎の村の警察署長」レベルの、下から数えた方が早い末端の役職である。
「ば、馬鹿な! たかが一介の県尉ごときが、これほどの大軍と、名馬に鉄鎧を揃えられるはずが――」
袁術が甲高い声で叫ぼうとした瞬間。
『ギリィッ……』
関羽、張飛、趙雲、管亥、張郃の五人が、一斉に袁術をギロリと睨みつけた。
合計武力値400を超える、超ド級の殺気の集中砲火。袁術は「ヒャッ」と情けない悲鳴を上げて腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。
「我らが主君の言葉に、二言はない。……口の利き方には気をつけられよ、袁公路殿」
軍師たる俺が、涼しい顔で扇をパチンと鳴らして前に出た。
「我が劉備軍四千五百、義によって董卓討伐の陣に馳せ参じた。……盟主殿、我々を『末席』に座らせるおつもりかな?」
俺の露骨な挑発と、背後に控える化け物軍団の無言の圧力に、袁紹は滝のような冷や汗を流しながら首を横に振った。
「と、とんでもない! すぐさま、最上座の隣に天幕を用意させよう! 玄徳殿、よくぞ来てくださった!」
(よっしゃあああッ!! 史実の屈辱展開、完全粉砕!!)
俺は心の中でガッツポーズを決め、してやったりのドヤ顔で劉備を見上げた。
最弱の義勇軍として鼻で笑われるはずだった劉備は今、天下の群雄たちから「得体の知れない超大物」として畏怖と羨望の眼差しを一身に浴びている。これこそが、俺の究極の『推し活プロデュース』の第一歩だ。
だが――この騒ぎを、陣幕の奥から『底知れぬ漆黒の瞳』で観察している一人の男がいることに、俺はまだ気づいていなかった。
「……ほう。劉備玄徳、か。これは面白い『竜』が紛れ込んできたものだ」
若き日の覇王・曹操との、運命の邂逅がすぐそこまで迫っていた。




