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三国志オタクの先読み鑑定録 〜桃園の誓い前から英傑たちを総取りして、推しの劉備に天下を獲らせます〜  作者: 盆ちゃん


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第1話:三国志オタクの目覚めと、運命の【魅力:99】

今回は盆山シリーズから離れ三国志の世界に紛れた異物で執筆してみました。またまた、AIが(´▽`) '` '` '`

第1話:三国志オタクの目覚めと、運命の【魅力:99】

 鼻腔びくうを突くのは、ひどく乾燥した土埃つちぼこりにおいだった。

 次いで、耳障りなほどの喧噪けんそう――荷車にぐるまきしむ音、馬のいななき、見知らぬ言語で怒鳴り合う人々の声が、波のように押し寄せてくる。

「……う、ん……?」

 硬く、ひんやりとした寝台ベッドの上で、俺は重いまぶたを開けた。

 視界に飛び込んできたのは、見慣れたワンルームマンションの白い天井ではない。すすけた木のはりと、わらを混ぜて固めた土壁つちかべ隙間風すきまかぜが吹き込む粗末な部屋だった。

「ここは……どこだ?」

 身を起こそうとした瞬間、脳内に激痛が走った。

 まるで二つの異なる映画を同時に再生されたかのように、膨大ぼうだいな記憶が雪崩なだれを打って流れ込んでくる。

 一つは、現代日本で平々凡々《へいへいぼんぼん》と生きていた「佐藤健太さとうけんた」としての記憶。22歳のしがないフリーターであり、正史せいし演義えんぎ・各種ゲームなど、ありとあらゆる三国志さんごくしコンテンツを網羅もうらした極度の三国志オタクとしての人生だ。

 そしてもう一つは――この身体の本来の持ち主である「陳凌ちんりょう」、あざなを「子雲しうん」という18歳の青年の記憶だった。

陳凌ちんりょう……幽州ゆうしゅう涿郡たくぐんに住む、没落ぼつらくした士大夫したいふ――知識人階級の末裔まつえい……両親は流行病はやりやまいで他界して、天涯孤独てんがいこどく……)

 荒い息を吐きながら、俺は自分の両手を見つめた。

 キーボードやコントローラーを叩き続けていた現代人のやわな手ではない。日々の労働でわずかに豆ができつつも、筆を握り続けたことによる知的な骨格を残す、引き締まった若者の手だ。

「西暦183年……黄巾こうきんの乱が起きる、前年か」

 歴史オタクである俺の頭脳が、即座に現在の状況をはじき出した。

 後漢ごかん末期。政治は腐敗ふはいし、民はえ、やがて黄巾党こうきんとうと呼ばれる反乱軍が中国全土を焼き尽くす。そこから始まるのが、英雄たちが群雄割拠ぐんゆうかっきょする血みどろの「三国時代」だ。

「おいおい、冗談だろ……? 三国志の世界に転生したって言うのか?」

 震える声でつぶやいたその時だった。

『ピコン』

 脳内に、軽快な電子音が響いた。

 直後、俺の視界のど真ん中に、まるで最新のVR(仮想現実)ゲームのような半透明はんとうめいの「ウィンドウ(青い画面)」がフワリと浮かび上がったのだ。

【システム起動完了。宿主ホスト陳凌ちんりょう佐藤健太さとうけんた)のバイタル安定を確認しました】

「……は?」

 目をこすっても、その幻想的なUIユーザーインターフェースは消えない。

 画面には、ゲームで嫌というほど見てきた「ステータス」や「スキル」の項目が並んでいた。恐る恐る意識を集中させてみると、システムに関する解説が次々と脳内にインストールされていく。

(なるほど……俺には魔法みたいな超能力はない。だが、この『システム』が俺の武器ってことか)

 システムがもたらす力は、大きく分けて二つあった。

 一つ目は【鑑定かんてい】能力。

 人を見れば、その人物の能力値が【統率とうそつ武力ぶりょく知力ちりょく政治せいじ魅力みりょく】の五段階(最大値100)で数値化されて見える。さらに集中すれば、その人間の「隠された才能」や「現在の悩み」、そして「忠誠度ちゅうせいど」といった深層心理までテキストで読み取ることができるらしい。

 武具や書物を見れば、その真贋しんがんや歴史的価値を見抜く【物品鑑定ぶっぴんかんてい】も可能だ。

 二つ目は【成長システム】。

 歴史の大きな転換点に関わったり、有名な武将を味方に引き入れたりすることで『天命てんめいポイント』というものを獲得できる。このポイントを消費すれば、「槍術そうじゅつ」や「騎乗術きじょうじゅつ」、「兵站管理へいたんかんり」といった実用的なスキルを、直接自分の肉体や脳内にインストールし、強化できるというのだ。

「……知識チートだけじゃなく、システムまであるのか。これなら……」

 俺の心臓が、早鐘はやがねのように鳴り始めた。

 三国志を知らない現代人なら、ただ絶望するだけの血生臭い時代かもしれない。だが、俺にとっては違う。

 ここは、俺の最愛の『し』が生きて呼吸している世界なのだ。

 俺の推し――それは「劉備玄徳りゅうびげんとく」。

 後に蜀漢しょかんという国の初代皇帝となる、仁義じんぎに厚き英雄だ。

 しかし、彼の人生はあまりにも過酷だ。愛する義弟の関羽かんう張飛ちょうひは無惨な死をげ、信頼する軍師の諸葛亮しょかつりょう孔明こうめい)に後を託しながら、志半ばで病に倒れる悲劇の君主。

 演義えんぎだろうが正史せいしだろうが、あの悲しい結末を、ただの「物語」として消費するのはもう沢山たくさんだった。

「俺が来たからには……誰も死なせやしない」

 固くこぶしを握りしめる。

 劉備軍の主要メンバーはもちろんのこと、敵対する運命にある曹操そうそう軍の天才軍師たちや、そん家の猛将もうしょうたちすらも、俺の事前知識とこの鑑定システムを駆使くしして総取そうどりしてやる。

 血を流し合う悲劇のIFもしもなんていらない。全員が笑って生きられる最高の大団円ハッピーエンドを、この俺がプロデュースしてやる!

 決意を胸に、俺は粗末な家を飛び出した。

 向かったのは、涿郡たくぐんの街の中心部にある巨大な市場バザールだ。

 一歩足を踏み入れると、すさまじい熱気が全身を包み込んだ。

 肉を焼く香辛料の強烈なにおい、豚や鶏の鳴き声、色鮮やかな布を広げて客引きをする商人たちの怒号どごう。現代の整然としたスーパーマーケットとは次元が違う、むき出しの「せい」のエネルギーがそこにはあった。

 人にぶつかられながらも、俺は必死に目を皿にして周囲を探した。

 西暦183年の涿郡。黄巾の乱が起こる前、若き日の劉備りゅうびは故郷であるこの街で「むしろ(藁で編んだ敷物)」や「草履ぞうり」を売って生計を立てていたはずなのだ。

(どこだ……どこにいる!?)

 焦燥感しょうそうかんに駆られながら市場の裏通りへと足を踏み入れた時、ふと、ある一角に人だかりができているのが見えた。

 そこでは、粗末な麻布あさぬのの服を着た一人の青年が、ござの上に自作のむしろを並べて座っていた。

「さあさあ、丈夫な筵だよ! 雨風にも負けねえ、俺の自信作だ!」

 よく通る、しかしどこか温かみのある声。

 その姿を見た瞬間、俺の足は地面にい付けられたように動かなくなった。

 背丈は七尺五寸(約173センチ)ほどで、当時の平均より少し高い。だが、何より目を引くのはその特異な身体的特徴だ。ひざまで届きそうなほど不自然に長い腕。そして、肩に届きそうなほどの豊かな「福耳ふくみみ」。

 三国志演義さんごくしえんぎに記された特徴と、寸分すんぶんたがわぬその姿。

「あ……ぁ……」

 声が震えた。視界が急速にぼやけていく。

 画面越しに何千時間と見つめてきた。何百冊という本の中で彼を探求してきた。俺の青春のすべてをささげた「究極のし」が、いま、土埃つちぼこりにまみれながらも力強く生きている。実在しているのだ。

(落ち着け……キモいオタク全開で話しかけたら、不審者扱いされて終わるぞ……!)

 深呼吸をして涙をぬぐうと、俺は彼を見つめたまま、心の中で強く念じた。

(システム起動。対象を【人物鑑定じんぶつかんてい】!)

『ピシュンッ!』

 俺の網膜もうまくに、黄金色こがねいろに輝くウィンドウが展開された。

 そこに表示された数値を見て、俺は息をんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【氏名】劉備りゅうび(字:玄徳げんとく

【年齢】23歳

【状態】健康(やや栄養不良)

【統率】75

【武力】73

【知力】74

【政治】78

【魅力】99(限界突破寸前)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(魅力99だと……!?)

 統率や知力はまだ発展途上だ。しかし、【魅力】のステータスだけが異常な数値を叩き出している。

 ゲームの画面上で見る数字とは違う。それは彼の周囲から発散される、人をきつけてやまない「霊気れいき」のようなものとして、システムを通した俺の目にはっきりと視覚化されていた。彼がそこに座って笑っているだけで、無意識のうちに人が集まってくる理由がわかる。

 さらに、俺は目を細めて【深層情報】のテキストを読み取った。

【現在の悩み・深層心理】

『天下は乱れ、民は苦しんでいるというのに、おのれにはむしろを売ることしかできない。漢室かんしつ末裔まつえいとしての血が騒ぐ。天下を救う大義たいぎを成したい。だが、金も、兵も、俺の行く道を示す者もいない――己の無力さが歯痒はがゆい』

 その一文を読んだ瞬間、俺の体中を熱い電流が駆け巡った。

 彼は待っているのだ。自分の大義たいぎを理解し、共に天下泰平てんかたいへいへの道筋を描いてくれる「軍師」を。

「……ふっ、最高じゃないか」

 俺は自然と笑みを浮かべていた。

 劉備玄徳。のちに乱世らんせい玉座ぎょくざへとのぼめるこの最弱の青年君主の、最初の理解者になる。誰も死なせない、壮大で完璧な運命の改変プロデュースは、今ここから始まるのだ。

 俺は一歩、泥にまみれた市場の地面を踏みしめ、しの元へと歩き出した。

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