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翌日。
管理課に出勤すると、
いつもいるはずの席が空いていた。
「あれ……?」
周りを見回しても、銀色の髪は見当たらない。
「セシル? 今日休みだよ」
同僚にそう言われて、
なぜか、胸の奥がすっと冷えた。
「……そう、なんだ。理由聞いてる?」
「さぁ?休みとしか聞いてないから…
さぼるような子じゃないから体調不良じゃない?」
「体調不良…」
…もしかして、私が昨日上着借りちゃったから…?
机に座って書類を開くが、思ったより手が止まる。
結局、家の前まで送ってもらっちゃったし。
そのあとも、なんやかんやしばらく外で立ち話をしてしまった。
寒空の下、後輩の上着を着てぬくぬくと立ち話をする先輩…
冷静に構図を想像して…
わぁ~、すごぉい。立派なパワハラだ
…頭を抱えた。
ーーーーーーーー
思い通りに進まない午前中の書類整理を終わらせて
やっと昼休み
魔法管理局の近くの喫茶店。
サンドイッチと、お気に入りの
砂糖増し増しロイヤルミルクティー
を購入してテラス席に座る。
「…やっぱり私に事務は向いてない…」
午前中だけで記入ミスを5回も指摘された…
セシルの偉大さに頭が上がらない…
いっつも先回りして整えてくれたり、
間違えるとすぐ指摘してくれるもんなぁ
はぁ…と大きなため息が出た。
うう、ミルクティーの甘さが疲れた体に染み渡る…
しばらくその甘さを堪能して、ぼんやり空を眺める
セシル…体調、どうなんだろう
確か一人暮らしだったよね?
もし、高熱とかだと、ご飯作るのもしんどいだろうなぁ…
それに、ポーションのストックとかあるのかな?
しっかりしてるから、大丈夫な気もするけど…
体調崩してるの絶対私のせいだしな…
考えているうちに
じりじりと罪悪感のようなものが湧き上がってくる。
…室長なら、セシルの住所知ってるよね…
帰りにお見舞い持ってく?
いやぁ…図々しいかな。
でも困ってるかもしれないし…
いつも助けてもらってるし…
頭を休めようと思っていたのに、それどころじゃなくなってきた。
ーーーーー
午後の業務は、午前中よりもさらに集中できなかった。
書類を前にしていても、
どうしても意識が別のところへ流れてしまう。
…ポーションは絶対として、
消化のいいゼリーとか
栄養取れそうなスープとか
……だめだ。
完全に気が散ってる。
しかも行く気満々みたい…
ペンを置いて、そっと息を吐く。
そのとき、視界の端に室長の背中が見えた。
書類を抱えて歩いていく、見慣れた背中。
いつもなら、特に意識することもないのに。
目が離れない
「……」
数秒、迷って
私は急いで室長の背中を追った。
「……室長」
声をかけると、室長がゆっくり振り返った。
「どうした、ルチア」
「えっと……」
口を開いた瞬間、
自分でも、何を言うつもりなのかが、急に分からなくなる。
……なんて言うの?これ。
『後輩が心配で』?
『様子が気になって』?
重くない?
いや、めちゃくちゃ重いよね?
一瞬、引き返そうかなと思ったとき
「セシルの件か?」
先にそう言われて、思わず目を見開いた。
「……え?そ、そうです。」
「今日休みだろう?珍しいからな。
優秀な奴だから、仕事が滞って困ってる職員も多い。
みんなあいつに頼りすぎなんだよな」
その身に覚えがありすぎる言葉がグサッと刺さるが
「ま、俺も人のこと言えないけどな!」
手元の書類を持ち上げて見せて、
がははと豪快に笑った室長のおかげで重症は免れた。
危ない、危うく心に深く刺さった言葉が致命傷になるところだったよ
「……はい。あの、体調、そんなに悪いんですか?」
「そこまでは聞いていない。……心配か?」
その言い方は、
問いかけというより、確認に近かった。
「……まぁ、直属の後輩ですからね」
自分でも驚くくらい、正直な声が出た。
室長は私の顔を一瞬見て、それから小さく息を吐く。
「差し入れでも持っていくつもりなら、止めはしない」
……え?
「職員名簿に住所は載っている。」
それは、つまり…許可?
「あ、ありがとうございます」
「ま、あいつがなついてるのお前だけだし、適任だろ」
緊急連絡用だから、扱いには気をつけろよー
と言いながら、室長は書類を抱えなおして歩き去っていった。




