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後輩魔術師は猫をかぶる  作者: 源水蓮


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1/3

……忙しい。


私は魔術を使って、世のため人のために前線で活躍したくて、この魔術管理課に入ったはずだ。


私は覚えている。

募集項目には、たしかに、こう書いてあった。


――地域密着型!

街の人たちの話を聞いて、安全を守りたいそこのあなた!

ぜひ、私たちと一緒に働きましょう!

※事務作業多少あり


「……ど、こ、が! 多少よ!」


机を叩きたい衝動を、ぐっとこらえる。


今ここで感情に任せて叩けば、左右に積まれた書類の山が崩れ落ちるのは確実だ。


理性を総動員する。

耐えろ。

耐えてみせろ、私。


「まぁまぁ、ルチア先輩」


背後から、穏やかな声がした。


「僕の方は終わりましたから、手伝いますよ」


「うう……助かるよぉ……セシルだけが頼りだよぉ……」


半ば泣きつく私に、セシルは苦笑しながら椅子を引き、すぐ隣に腰を下ろす。


――近い。


思った以上に、距離が近い。


この子、無駄に顔がいいから困るんだよね……。


光を受けてきらめく銀髪に、優しげに細められた紫の瞳。

視界に入るだけで、やたらとイケメン情報量が多い。


……眼福。


「……先輩?」


「あ、ごめんごめん。集中する」


そう言って書類に視線を戻すと、セシルは満足そうに頷いた。


「はい。じゃあ、ここから順に処理しましょう」


彼の指が示した書類は、私が手を付けるつもりだったものだ。


「あれ、それ――」


「午前中に一度、目を通してます」


何でもないことのように言われて、言葉が詰まる。

私より、早い。


……さすが、優秀な後輩。


「もうさ…セシルがいれば、私が事務やる必要なくない?私よりずっと優秀だし」


「さすがに僕一人じゃ無理ですよ。先輩は現場希望でしたっけ?」


「うん。いろんな人と話したり、直接現場で動くほうが好きなんだよね」


「そう…ですか。…でも、現場は危険なこともありますし。先輩は苦手意識持ってるだけで事務処理能力もあると思いますよ。」


「えー?セシルはいつもほめてくれるよね。照れるなぁ」


「本心ですから。」


さらりと言われて、私は思わず笑ってしまった。


「もう、そんな真顔で言われると信じちゃうじゃん」


「信じてください。事実ですから」


淡々と返されて、逆に調子が狂う。


再び書類に目を落とすと、セシルは私が迷いそうな箇所を先回りするように指差した。


「ここ、前例が二件あります。どちらも同じ処理で通ってますよ」


「……ほんとだ」


知らないうちに、私は彼の説明を待つ側になっていた。


ペンを走らせながら、ふと気づく。

さっきまで机を占領していた書類の山が、いつの間にか半分以下になっている。


「すごいなぁ……」


思わず漏らすと、セシルは少しだけ視線を和らげた。


「先輩がちゃんと判断してくれるからですよ。僕は補助です」


補助、ね。


いや、これ本当に私いらなくない?

事務やってる意味ある?


最初はちゃんと希望通り現場で活動できていた。

そりゃ、危険なこともたくさんあるけど、

その分やりがいもあったし、

なにより、町の人たちとのやり取りや、

ありがとうと言われた時の、胸が温かくなる感じが好きだった


なのに…

いつから事務が増えたんだっけ?


現場で何か失敗した覚えはない。


じわじわと事務作業に回されることが増えて、

気づいたら一か月の大半が事務作業になっていた。


時期的に、セシルが入ってきたくらい…?


考え込みそうになった時

管理課の奥で、定時を知らせる鐘が鳴った。


「もうこんな時間か」


「ですね。先輩、今日はこのまま上がりですよね?」


「うん、そのつもり」


セシルは静かに頷き、最後の書類を整える。


「じゃあ、ここまでにしておきましょう。お疲れ様でした。」


「お疲れ様。また明日ね。」


はい。ときれいにほほ笑むセシルに笑い返して、

上着を羽織って出ようとしたとき。


「あ、先輩。」


呼び止められて振り向く


「2丁目の魔法道具屋の裏通りは、最近治安悪いから通らないほうがいいですよ」


「え?そうなんだ?近道でよかったのに…表通りで帰ろうかな…」


「はい、それがいいと思います。」


ありがとうと言って、私は今度こそ職場を出た。


魔法管理課の建物を出て、歩き出してからふと気づく…


あれ、私…帰り道の話したことあったっけ?


けれどその疑問は、すぐに胸の奥に沈んでいった。

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