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魔法食堂異世界料理再現部  作者: 石蕗石


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22/28

珍しい客とおでん風煮込み・3

早速準備をした二人と共に、バルトはキッチンに材料を揃えていく。

最初に用意するのは、ちょうど豆のスープにする予定で水につけておいた大豆と、鱈と鯛の切り身だ。


「最初にこれをそれぞれめちゃくちゃ細かく切ったりすり潰したりしていく。お前ら手伝え」

「ああ、労力がかかるタイプの料理だから誘われたんだなこれ」

「まあオレ単純作業嫌いじゃないッスよ……」


カミラの言うとおりだったのでバルトは沈黙を守った。

白身魚はみじん切りにしたあとすり潰していく。このあたりで使われている乳鉢と乳棒は木製のものが多いが、バルトはアダン経由で手に入れた、大きめの陶器のものを使っている。同じくすり潰す必要のある生の大豆のほうは、カミラが大きな鉢の中へ入れて皿で蓋をした。どうするつもりなのかと横で見ていると、猫の子じみたふわりとした頬に、カミラが得意げな笑みを浮かべる。


「まあ見ててよ!」


カミラがコツコツと鉢の側面を叩くと、鉢の中がごとごとと動き出した。カミラはそれを蓋代わりの皿ごと上から押さえ込み、ある程度経ったところで振動が収まると、そうっと蓋を外す。

中の大豆はほとんど粉々になって水と混ざり合い、クリーム状になっている。いくらか大きな破片があるのを確認すると、カミラはもう一度蓋をして鉢の中に魔術をかけた。


「おもしれえな。こういう魔術もあるのか」

「そうだよお、回転の魔術を応用した攪拌だね! ほら、まえにわたあめを作る道具を市販開始するよーって話をしたよね?」

「ああ、そういやそんな話もしたな」

「そうそう。あれは回転を一定の速度で制御する魔術モーターの開発が済んだからなんだけれど、その機構を小型化して、次は魔術で動かす泡立て器やミキサー……、このレシピに載ってるみたいな、食品を密閉容器に入れて、中で自動で細かく切り刻む道具なんだけれど、そういうのも作っていく予定らしいよお。勿論調理器具以外にも色々応用していくんだけど」

「へえ、そりゃ便利だな。んでお前はそれを道具じゃなく自力で魔術でやってるわけだ」

「そうだね! 最近そのモーターの魔術を見せてもらったのと、あとこのまえバルトが卵かき混ぜてるのいっぱい見たからね、思いついたんだあ」


そんな会話をする傍らで魚をすり潰し続けているジョットの様子を見ると、こちらはこちらで持ち前の体格と獣人族ならではの筋力により、もののみごとに魚のペーストを作り上げていた。


「おお、こっちはこっちですげえな。お前らもうたまにバイトで来てくれよ、こういうめんどくせえ調理のときに」

「いやあ、こういうのはたまにやるから楽しいっつうかですね……」

「大量に安定した品質で作るとなると、楽しさより辛さが勝るっていうかさ……」

「そりゃそうだ」


二人の言い分はよく理解できたので、バルトもそれ以上は食い下がらない。というか最高学府の研究者二人をバイトに雇うなど、謝礼がいくらになるかが恐ろしくてできるはずもなかった。

すり潰された大豆のほうは鍋に移して火にかけ、木べらで混ぜる。

魚のほうはボウルに移し、今度は塩と砂糖、酒などの調味料を加えていくのだが、バルトは渡された資料を見て少し悩んだ。

ここまではレシピが共通しているものが多いのだが、ここからものによっては長芋を混ぜたり、卵白を混ぜたり、野菜など具材を混ぜたり蒸したり揚げたりと様々なバリエーションが出てくるのだ。

せっかくだからと魚のペーストは幾つかにわけ、それぞれ入れる具材や調理方法を変えてみることにした。


「ひとまずこっちは基本的なレシピ、こっちは卵白、あとタマネギとニンジンと、他にも何か入れるか?」

「オレ枝豆入れたいッス!」

「あっ! 私豆腐入れたやつ食べたいから、ちょっと残しておいて! たのむ!」

「わかったわかった。ちょっと待ってろ」


それぞれ小分けにしたボウルに調味料を入れていき、コンロに鍋と蒸し器を用意する。お湯を沸かす間に大豆の鍋が沸き始めたので、バルトはかき混ぜていたカミラと一旦場所を交換し、コンロの火を弱火にした。


「わあ、なんかすっごい泡出てきたけど、これってこういうものなの?」

「大豆はなんかこうなるんだよ。大丈夫だ」

「おおー、すごいッスね……」

「カミラ、このままこういう感じで、泡掬い取っててくれるか?」

「りょーかい!」


ふつふつと湧いてくる泡の始末をカミラに任せ、バルトとジョットは並んで魚のペーストを混ぜていく。

塩と混ざった魚はどんどんもったりとした質感に変わっていき、混ぜる感触も重たくなっていくのだが、この変化が初体験のジョットは不安そうにバルトを見た。


「バルトさん、これってこういうもんなんスか? めっちゃ混ぜにくくなってくんスけどぉ……」

「そういうもんだ、気合い入れてけ。……そういやお前は回転の魔術とかいうやつ使わねえのか?」

「ああいう即席魔術をちょうどよく使えるのは才能ッスからねー。オレはどっちかっていうと、もっとカッチリしたのが得意というか……」

「へえ、魔術師も人によって色々違うんだな」

「そうッスね。同じ術を習ってても、やっぱり人それぞれ手癖みたいなものは出るッスよ」


単調作業でも力仕事でも、話ながらの仕事というのはそれなりに楽しいもので、練り物の下拵えと大豆の下ゆではすぐに終わった。

まずは平らな皿にドーム型に乗せた魚のペーストを、蒸し器に入れる。次に、ゆで終わった大豆の汁を布巾を敷いたざるにあけ、豆乳とおからに分ける。ここで活躍したのはまたしてもカミラの即席魔術だ。


「ようし、ジョット、私の集中力が続くうちにどんどん絞ってね!」

「うおお……、触覚はそのままなのに熱だけ完全に遮断されてるッス……。逆に気持ち悪い!」

「なんだとう!」


文句を言いつつも、熱々の汁を布巾越しに搾る作業に、この熱遮断魔法は非常に重宝した。

カミラの魔法とジョットの怪力で搾り取られた豆乳を再び火にかけ、レシピの比率と同じだけにがりを混ぜていく。今度は沸騰させず中火でゆっくり温めるうちに、鍋の中身がどんどん分離していくのを、三人は並んで興味深く覗き込んだ。


「はえ~、なんかあれだね。モッツァレラチーズ作るときみたい」

「ああ、確かに似てるな。原理としても似たようなモンなのかもな」

「料理って科学ッスねえ」


三人はできたての豆腐を一口づつ小皿に取り、そこへちょんと塩をつけて味見をした。つるんとして、すぐに解けるような食感は、ムースともクリームとも違う独特なものだ。豆と塩の味だけのシンプルな豆腐に、三人はふむふむと頷いた。


「これはこれで美味いな。あっさりしたスープに入れて食べたい味だ」

「良いッスねえ。食欲ないときもつるっと食べれそうッス」

「なんか甘いのかけても食べれるかもお」


もう少し食べてみたいところではあったが、今日はこれで厚揚げを作ると決めているため、あまり量を減らすわけにもいかない。

分離したての豆腐を手順通り少し放置する間に、三人はほかの練り物も作っていくことにした。

まずは沸かしたお湯に、泡立てた卵白と混ぜた魚のペーストを入れる。写真では四角く成形されていたが、今回はバルトが作り慣れたクネルの要領で、スプーンでくるりと丸くしておいた。

野菜を混ぜたものは楕円形にし、油で揚げていく。これが一番火の通りが早いので、トレイで油を切る間に茹で上がったはんぺんをお湯から出し、ざるに乗せて粗熱を取る。

豆腐はレシピに近い容器が無いため、これもざるに乗せて布巾を二重に敷き、そこへゆるく固まった豆腐を流し込んで皿で蓋と重しをした。

そうこうするうちに、一番初めに蒸し器に入れておいたかまぼこもどきが出来上がる頃合いなので、これも取り出して少し冷ましておく。

豆腐の水切りをする間、三人は三種類の練り物を一口サイズに切って、それぞれ皿へと盛り付けた。今回は見慣れない食材も調味料も使っていないため味のほうは予測が付くが、変わった調理工程によりどんなものが出来上がったのかは三人とも大いに興味があった。

まず食べてみたのははんぺんもどきだ。


「……これはあれだ、めちゃくちゃあっさりしたクネルが近い。ちょっと固めだけど」

「オレもこういうの食べたことあるっす! 自分でも作れるもんなんだなあ」

「ふわふわとぷりぷりの間みたいな食感だねえ」


ここまではやや既視感のある味だ。次に食べるのはかまぼこである。


「おお、ものすごくプリプリしてるな。弾力がすげえ」

「ほんとだー! すんごい噛み応え!」

「元が魚だとは思えないッスね。味は魚なのに」


そして最後は野菜を入れたさつま揚げもどきである。


「揚げるとまた若干食感が変わってくるな。プリプリ感はありつつ柔らかい」

「オレこれ一番好きッス!」

「野菜の甘さと食感がアクセントになってて美味しいなあ」


揚げ物に若者から二票が入ったが、バルトとしてはかまぼこが気に入っている。かまぼことはんぺんは、このまま食べるのではなく焼いてみても美味いんじゃないかと好奇心が湧いてくるが、今のところは目の前の試作品を仕上げねばならない。

重しをしておいた豆腐から一部を取り出して、取っておいた魚ペーストと合わせ、一口サイズにスプーンで成形して熱した油に落とす。所望していた魚河岸揚げもどきが出来上がると、カミラは早速熱いうちにフォークでグサリと一つを貰った。

ぱくりと食べては口からはふはふと熱さを逃がし、満面の笑みを浮かべるカミラに、男二人もいそいそと揚げたてを口に入れる。


「これ私一番好きかもー! 柔らかくてちょっと甘みがあって、プリプリ感は減ったけどふわっとしてて美味しい!」

「豆腐を混ぜるとまた食感がだいぶ変わるんだな。はんぺんを更に滑らかにしたかんじっつうか……」

「揚げたても美味いッスねえ」


試食しながらの作業は楽しいが、最後の厚揚げ作りに関しては、バルトは正直ちょっと気が重い。なぜなら揚げる工程で確実に油が飛びそうな、水気の多い食材だからだ。しかし本日は横にカミラという便利な特技を持った魔術師がいる。

水気を切る時間が短かったせいでまだ柔らかい豆腐を短冊形に切りながら、バルトは深刻そうな顔をのほほんとしたカミラへと向けた。


「さっき使ってた熱を遮断する魔術あるだろ。あれ俺にもかけてくれねえか?」

「よしきた、任せておきなよ!」

「ジョットはでかい鍋の蓋持って構えてろ。油飛んだら密閉しない程度にフライパンを覆って、油はねを防いでくれ」

「了解ッス! なんかこれすげえ緊張するッス……!」


緊張しているのはバルトとて一緒である。ヘラの上に乗せた豆腐をそうっとフライパンのそばへ持っていき、おそるおそる油の中へと落とす。途端、バチバチと油が跳ねた。


「あっくそ、やっぱり駄目だったか!」

「バルトさんこれけっこう怖いッス!」

「怖じ気づくな! まだ入れるからな!」

「私は二人の後ろに引っ込ませて貰うけどね!」


追加で数枚の豆腐を投入すると、バルトは自分も蓋を持って油はねを遮った。

暫くするとバチバチと油の跳ねる頻度は下がっていくが、時々思い出したようにまたバチッと音がする。揚げ物中に完全に覆ってしまうとそれはそれで危険なため、バルトはそうっと蓋をどけて、豆腐の様子を確認した。


「あー、崩れてきてんな。やっぱり一晩は待ってぎっちり固まってから揚げたほうが良さそうだ」


フライパンの中の豆腐はほろほろと崩れ、元の形は見る影もない。もっともザルで固めていたため、元の形だって見本の四角い豆腐とはほど遠かったのだが。

それでも少なくとも火はきちんと通っているのだから、形が悪くとも厚揚げは完成した。一部は火が通り過ぎて油揚げになってしまっているが、それはそれで、好奇心と食い意地が人より多めの三人としては面白い。


「えらいことになったが、まあ、失敗は成功のもとだ」

「これはこれで面白いよお。中に豆腐のままのが残ってるのも美味しいし、こっちのふわふわに揚がってるのも変わった食感で楽しいねえ」

「前作ったとろろそばに乗せてみても美味そうッス」

「あ! それ言うなら私も、今度は焼き豆腐入りすき焼き食べてみたい!」


思い思いに感想と欲望を口にする二人を眺め、バルトはふむ、と少し考え込む。


「……それじゃ無事に依頼が済んだら、どっか店が休みのときにすき焼きでもやるか。あとソバ」

「えっ! いいの!? それはお肉はバルト持ちでということ!?」

「ひとさまが買った肉ですき焼きを……!?」

「良いよ。資料探してきてもらったし、今回はお前らにも調理の手伝いをがっつりしてもらう予定だしな。そもそも、異世界料理再現同好会として受けた依頼ってことになるんだろ? なら俺の金でっつうよりは、同好会の打ち上げってことになるんじゃねえか」


その言葉に、カミラとジョットは両手を頭上にかかげ、二人でばちんと打ち鳴らした。


「やったー! お肉! あと私もやっととろろそば食べれる!」

「良い肉の! 料理! オレまだ食ったことないやつ!」


二人揃って、いや内容はてんでに揃わず勝手に喋り散らかしているが、ひとまず揃って喜ぶ二人の姿に、バルトは小さく笑った。

出来高評価の予定ではあるものの、正直金貨十枚ぶんの仕事なんて喜びよりも気の重さのほうが勝るのだけれど、この愉快で元気な二人組を巻き込んでやるのなら、まあ楽しさもあるだろう。未だに外部顧問扱いされることに納得していないバルトではあったが、そこについては安心しているのであった。

ひとまず、レシピの謎は八割方が解決した。あとは完成度を高めていくのみである。

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