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魔法食堂異世界料理再現部  作者: 石蕗石


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13/14

二人と一人とお好み焼き似の粉物・中

前回までとは系統の違う料理ということもあり、バルトは調べ物に時間がかかるだろうと予想していた。そして今回もやっぱり予想に反して、食い意地のはった研究者達はほんの二日で再び店を訪れたのだった。


「お前らの食にかける情熱は尊敬するよ……」

「おっ、褒められちゃったッスね……」

「うへへ……」


出されたホットアップルサイダーを飲みながら、呆れ半分の褒め言葉に、若い二人は素直に照れてはにまにまと笑みを浮かべている。褒められ慣れていないらしい様子が微笑ましくもあり、このペースで話を持ち込まれ続けたらやはり俺の余暇はなくなり続けるのでは、と一抹の不安もあり、バルトの表情は本日も機嫌の読みにくい仏頂面だ。


「で、ソースについて何かわかったんだよな?」

「そう! レシピは見つからなかったけれど、いいのがあったよ!」

「料理史のほうにあるかもって推理は大当たりだったッスよー。このソースは比較的近代に、外国のソースを参考に作られたものだったそうッス」


二人が広げた資料には、茶色い液体の入ったボトルらしきものが数本載っていた。どうやら売っている店ごとに特徴があるようだが、基本的にはウスターソース、中濃ソース、とんかつソースというものが多いようだ。ラベルは年代ごとにカラフルさを増していて、なかなか長い間この商品が売られ続けていることがわかる。


「味は……、果物と野菜をメインに、酢と塩と砂糖、あとスパイスか……。この三種類の違いは繊維質が多いかどうかと、スパイシーか甘みが強いか、だな。なるほど。これだけわかればだいぶやりやすい」

「よっしゃー!」

「お好み焼きーっ!」


思い思いのかけ声とともに手を打ち合わせて喜ぶ犬猫コンビに、バルトはじっと冷静な目を向ける。


「今日は食えねえぞ」

「えっ」

「ど、どうしてだよう!」

「いや、どう考えても即作るのは厳しいだろ。野菜と果物が主な材料でこれだけ色が濃いソースってことは、がっつり煮込んでそうだし……。あとそもそも冬だから野菜の種類が少ない。何入れるか考え中だ」

「そ、そッスか……」


言われてみればそれはそうで、しかもバルトが案外やる気になってソースのレシピを模索中ならば、自分が早く食べたいからとせっつくのも悪いだろう。ジョットはそう考えてしおしおとうなだれた。

しかしその横で、椅子から勢いよく立ち上がった者も居る。当然カミラだ。


「いや、一回やってみようよ! 最悪ソース抜きになったとしても、料理の味を先に知っておいたら参考になるかもしれないし!」


食い下がってきたカミラのらんらんと輝く目に、バルトはちょっと引いた。こいつまたメシ抜いてきたんじゃないだろうな、と疑問を抱くが、切羽詰まっている様子はそこまでない。ならば、単にやる気に満ちあふれているだけらしい。

言っていることは一理ある。それに、ソースの味にも興味があったが、仕事の合間に一人で何度も試行錯誤を繰り返すのはさすがにちょっと億劫ではある。やるならせめて楽しさが欲しかった。たとえば、横で猫と犬が話芸を繰り広げてくれるなどの。


「……まあ、それじゃやってみるか」

「やったー!」

「ただし今すぐは無理だ。そもそも長芋もう食っちまったから、持ってきてもらう必要もあるしな」

「あ、そうッスね」


言われてみれば、とジョットが頷く。謎のソースの概要が判明した嬉しさでつい手ぶらでやってきたが、前回長芋を持ってきたのは年明け前。腐る前にバルトと前店主夫妻の腹の中に収められていたのも当然だった。


「じゃあじゃあ、材料持って今夜集合にしよ!」

「いいぞ。営業時間終わる頃に来れるか?」

「学生以外は結構門限緩いんで大丈夫ッス!」

「よし、じゃあひとまずいまは飯食って帰れ」

「うわーい!」

「オレ肉が良いッス!」


こうしてお腹いっぱいにして帰された二人はその夜、営業時間終了前にもう店へとやってきた。気の早いことではあるが、幸い今夜は寒さのためか、他の客達は早めに帰ってしまっている。

耳が痛くなるような空気の冷えた夜だ。今日はもう駆け込みの客も、きっと来ないだろう。そう思い早めにクローズの札をかけ、バルトは二人をカウンターに案内してやる。二人の前に出す飲み物は、昼間と違ってホットワインだ。

ほこほこと湯気を立てる温かい酒は、腹の中から体を温めてくれる。寒い中やってきた二人は喜んでこれを受け取った。


「うわあー、甘くて温かくて美味しいねえ」

「冬はやっぱこれッスよねえ」


ワインとスパイスとメープルシロップの香しい香りを纏った湯気が、二人の頬をほわりと撫でていく。元気が出たところでマフラーやコートを脱いで、犬猫コンビは早速キッチンへ入るために、髪を整え耳を頭巾で覆った。

営業を終えたばかりのキッチンは、当然まあまあ片付いていない。とはいえ冬場は残った料理を鍋やフライパンごとパントリーに置いておくだけで瞬時に冷えていくため、痛む心配はあまりしなくてよく比較的楽だ。代わりに洗い物はお湯をたっぷり使う必要があり大変なのだが。

いかにも邪魔になるスープの大鍋や、その場で調理して出すために下拵えをしてストックしている食材を片付ければ、調理台とコンロはすぐに空いた。

バルトは空いた場所に、パントリーから持ってきた小鍋と広いフライパンを置いた。


「ひとまず、お好み焼きのソースもどきは作っておいた」


鍋の中の茶色くとろりとした液体は、レシピに載っている写真と比べれば、だいぶ繊維質が多い。ただし香りは確かに甘く酸っぱくスパイシーで、条件を満たしている。

カミラとジョットの二人はそれを、少しだけ匙で掬って食べさせてもらった。


「おお……、なんかこう、複雑な味がするんだよ……」

「酸っぱいのはビネガーと、トマトッスね」

「正解だ。タマネギをよーく炒めたやつと、ケチャップと、リンゴジュースが主な材料だな。あとは塩胡椒にビネガー、ナツメグ、パセリにクローブとカルダモンとか色々入れた。魚醬もちょっと入ってるけど、あんまり匂いはしねえだろ」

「はえー、確かにスパイスの香りのほうが強いからか、あんまりしないかもお」

「でも、味にコクは出てる感じというか……、美味いッスこれ!」

「おう、そうか。良かった良かった」


軽い調子で言っているが、バルトは内心胸をなで下ろしている。夜営業と仕込みの傍ら煮込んで寝かせておいたソースは、自分ではそれなりに上手くいったと思っているものの、やはり人から美味いと言ってもらえたほうが安心感がある。


「まあこれさえ作っとけば、わりと早くできる料理だ。だしもとってあるしな。ひとまずジョットは長芋すり下ろしとけ」

「うッス」

「カミラは……、とりあえず洗い物出たらやってくれるか」

「了解ー!」


お好み焼きのレシピは比較的簡単だ。

だし汁とすり下ろした長芋、粉、卵をボウルに入れて溶き、これを更に二つのボウルに分ける。片方は大阪風用。もう片方は広島風用だ。大阪風のほうには刻んだキャベツや薄切りの豚肉を混ぜて焼いていく。フライパンの一つにこの生地を流し込んで蓋をし、中までしっかり熱が入るようゆっくり火にかける。


「ジョット、お前のは手順が多くてめんどくせえから後な」

「ッス……」


確かに誰が見ても明らかに工程が多かったため、ジョットは大人しくしゅんと肩をおとした。種族的に待つことに耐性があるのは猫より犬だろう、という偏見が判断に影響していることはさすがに黙っておいた。


「いやまあ、焼いてる間にこっちも進めとくから、そう気を落とすなよ……。カミラは蓋開けて、時々フライ返しで裏見て焦げすぎてねえか確認してくれ。少なくともあと五分は触らなくていい」

「わかった!」


その間に別のフライパンへ、具材を混ぜていないほうの生地を流し入れる。こちらにはキャベツと豆苗と豚肉を生地を覆うように乗せていき、上からまた少量の生地をかける。

少し待ってから、バルトはそれをフライ返しとフライパンの縁を使い、くるりとひっくり返した。


「よっ」


いかにも散らばりそうな分厚く敷かれたキャベツの千切りをものともせず、きれいに裏返された生地に、カミラとジョットは思わず拍手をする。


「おおー」

「プロッスねえ……」

「うるせえこれくらい慣れだ慣れ」


若者達からの賞賛を浴びて、バルトは顔をしかめた。この男も褒められ慣れていないのだ。しかめ面のままもう一つフライパンを出し油を入れて、今度は卵入りの茹でたパスタを炒め始める。


「あ、この麺ってもう加熱してあるんスね」

「おう。この手順で作るなら、こっちの生地が焼ける間に麺に水かけて炒めるだけじゃ火は通らねえ。だから多分加熱済みの麺を炒めてるはずだ。あと製麺したとき写真に似せて縮れさせてみたんだが、茹でたらなんかあんまりわからなくなった」

「頑張ってくださって嬉しいッスオレは……」


炒められている麺は謎の柔らかめのパスタ、という風情だったが、正解がわからないなりに努力してくれたことはジョットにも十分伝わった。

そうこうしている間に、大阪風のほうにも火が通ってきた。蓋を少しだけ開けて中を覗いていたカミラが、手をパタパタと振ってバルトを呼ぶ。


「バルト、バルト! 今度はこっちくるってしてほしい!」

「わかったわかった」


こちらは具材が全て混ぜてあるぶん分厚いが、纏まっているために広島風よりもひっくり返しやすい。くるり、ぱたん、と軽々返された生地に、犬猫コンビは再び拍手付きで歓声を上げた。


「だからそれ止めろってんだ……」


照れくささに口元をひん曲げながら、次は炒めた麺にキャベツがしんなりしてきた広島風の生地を乗せる。空いた場所に溶き卵を入れ、これが焼き終わる頃には、先に焼いていた大阪風のほうも火が通る頃合いだ。


「二人とも好きな皿とってこい」


そう声をかければうきうきと食器棚の前に二人並んで選び始める背中を、バルトはつい眺めた。なんとも平和で、気の抜ける光景だ。

子供のようというには年が近すぎるこの二人は、では妹弟のようかといわれれば、いややっぱりこんなに喧しいのが血縁なのは勘弁してほしいというのが本音なのだけれど。それでもまあ、友人のような妹分弟分のような、そう思えるような相手ではある。当然そんなこと、バルトは本人たちには言わないのだが。


「私はこのさくらんぼ柄にする!」

「オレはこの貝の柄のにするッス!」

「バルトのはこれだよ!」

「ああまあ、なんでもいいけど……」


毎度のように勝手に決められたブドウの葉柄の皿を、バルトは作業台の少し離れたところへ置いた。

カミラのほうへは具材を混ぜて焼いた大阪風。ジョットのほうへは具材を重ねて焼いた広島風を乗せてやり、バルトは再びフライパンへと生地を流して二つ同時に焼いていく。


「ソースと、あとそっちにあるのがマヨネーズの瓶。こっちの瓶はショウガのピクルスだ。梅酢ってやつじゃなくてただのビネガーだけどな。好きに乗っけて食え。ジョットは青のり持ってきたか?」

「持ってきてるッスけど……、バルトさんはまだ食べないんスか?」

「俺はこれ焼いたら半分ずつ食うよ。お前らは一枚だと足りないだろうから、半分残ったのの好きなほう食え」


そう言うバルトに、カミラとジョットは顔を見合わせる。そしてぐぎぎと歯を食いしばってから、二人揃ってお好み焼きの乗った皿をバルトのほうへ差し出した。


「いや……、でも……! やっぱり作ってくれた人と一緒に食べたいっていうか……!」

「一緒に感想言い合いたいっていうか……! そういうアレがあるッス……!」


激しく食い意地がはっている上にそれなりに腹も空いているだろう二人の、ギリギリ我慢しました、ということがあまりにも透けて見えるその様子に、バルトはぱちりと目を丸くした。

料理人としては、作った料理を自分で食わず客に食べさせのは当たり前のことだ。たまたま再現料理では一緒に食べる機会が多かったが、そもそもの依頼人はカミラやジョットなのだから、成果を存分に味わえば良いと思っている。

思っているがそれはそれとして、一緒に食べたいと言ってもらえるのは、まあ、悪くない気分ではあった。

忙しく同時進行でお好み焼きを焼きつつ、バルトは無造作に横のオーブンを指差す。


「……あー、そこがまだ温かいから、皿ごと入れとけ。二枚くらいなら入る」

「わかったー!」

「わあオレオーブン触るの初めてッス!」


きゃっきゃと楽しげに料理を保温し、再びバルトの手元を左右から覗き込みだした人懐っこい猫と犬に、バルトは思わず渋面を作った。なにやら胸の中がぽかぽかと擽ったくて、うっかりすると笑ってしまいそうだったので。

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