新しい世界へ
ある所に、おじいさんと男の子が一緒に暮らしていました。
「お前は美しい声を持っているな。もっと歌声を聴かせておくれ」
おじいさんは嬉しそうに言うと、男の子の頭を大きな手で優しく撫でました。
男の子もおじいさんに喜んでもらえると嬉しくて、いつまでも歌っていました。男の子は大好きなおじいさんと一緒にいられることが何より幸せでした。
ある時、おじいさんは病に倒れ男の子は残されてしまいました。男の子はいつの間にか知らない男に引き取られていました。
男の子は男に引き取られてから毎日大勢の人の前に連れて行かれ、歌っていました。男の子は歌うことは好きでしたが、大好きなおじいさんがいないことが寂しくて悲しくて泣くように歌っていました。
ある日、男の子はお家に帰ってから窓際の定位置で歌っていました。
そこに一匹の鳥がやって来ました。
「あなた、とっても歌が上手いのね。キレイな声だわ。私気に入っちゃった」
鳥はそう言うと、男の子の周りをパタパタと飛びました。
「ありがとう」
男の子は久しぶりに褒めてもらえて、素直にお礼を言いました。
「だけど何だか悲しい気持ちになるわ」
「僕の歌を好きだと言ってくれたおじいさんがもういないんだ。もう撫でて貰うこともできない」
男の子の目から涙が溢れました。
「だからそんなに悲しい歌声なのね」
鳥は男の子を見つめると、飛び立って行きました。
その日から鳥は毎日男の子の所にやって来ました。男の子に今日は何処に行って、どんなことがあったのか語りました。その時に鳥は一輪の花を咥えて窓際に置いていきました。
男の子はいつしか鳥が来るのを待ちわびるようになっていました。
やがて一輪の花は窓の周りにいっぱいになりました。男の子はいつものように歌っていました。
鳥がまた花を咥えてやって来ました。咥えていた花を置くと、男の子に言いました。
「とっても素敵な歌ね。聴いていると温かい気持ちになるわ。もう大丈夫そうね」
「君のおかげだよ。毎日来てくれてありがとう」
「……」
「どうしたの?」
「今日はお別れを言いに来たの」
「…え?」
「私は渡り鳥。同じ所にはいられない。もう行く時が来たの」
「そんな…」
男の子は途端に暗い気持ちになりました。
「私もあなたとお別れするのは辛いわ。だけど、来年必ずまた会いに来るわ」
「僕も君のようにここから出て自由になりたい。外の世界に行って、色んなものに触れて自由に好きな時に歌いたい」
「!!」
鳥は驚きました。男の子の口から初めて聞いた言葉でした。
「それならそこから出て私と一緒に行かない?」
鳥は男の子が自分の意志で出たがるのを待っていたのです。
「行きたい!…だけど、無理だよ」
「何故?」
「外から鍵がかかっているんだ。僕はここから出ることは出来ないよ。それに僕なんかが外に行ったって何も出来やしないんだ」
「決めつけないで!まだ何もやっていないのに諦めてどうするの!」
「怖いんだ…」
「勇気を出して!外の世界には危険もあるけど、陽の光を浴びて風を感じて自由に何処へでも行ける。おじいさんが褒めてくれた歌声を何処へでも届けられるわ」
「おじいさん…。僕、やってみる」
「私もついてるわ。さあ!そうと決まればここから出るわよ!」
鳥は窓から中に入ってくると、鍵を見て言いました。
「単純な鍵ね!私が外から鍵を開けるわ。後は力を合わせて入り口を押し上げて出ましょう」
鳥は器用に嘴を使って鍵をつついて取り外すと、格子を咥えながら浮上しました。男の子も一緒になって頑張りました。少し入り口が開いた隙に、男の子は頭をねじ込んで隙間から抜けました。
「さあ、行きましょう!」
二階の窓から二匹の鳥が大空に飛び立ちました。力いっぱい羽ばたいて何処までも二匹仲良く飛んで行きました。




