7. 十字路で堕天使と取り引きするのじゃ
堕天使と一緒に、十字路の停留所でバスを降りた。クリームとアンもついて来てくれた。
「言ったでしょ。私の友に用があるということは、私に用があるということよ」
今は、彼女だけが頼りなので助かる。十字路の角にある団子屋で、堕天使と取引じゃ。
「言っておくけど、堕天使は魂を代償にとったりしないからね?」
「本当に堕天使なん?チュウニじゃのうて?」
「くくっ、我は暁の堕天使…。名は明かせない…」
あ、そう。どうでもいい気がする。
「さっきから見てたけど。天使の手配ミスみたいだね。君は、飼育係とはぐれてしまっているよ」
「あなたに聞きたい事が、いくつかあるのだけど。まず、この子は女神なのかしら?」
クリームに任せておこうか。わしが、のじゃのじゃ言うよりも、話がスムーズに進みそうじゃ。わしは、おしるこに集中しよう。
「正確に言うならば、女神の幼体だね。見た目の通りで、ニンゲンの幼女と変わらない、ひ弱な存在だ。だから、飼育係が必要になる。さっきのポニーテールの子について行ったメイドみたいなのがね」
「なるほど。さっきのポニーテールは悪魔の幼体なのよね?2000年ぶりとか言っていたけど。女神の幼体も、そんなに長い間幼女のままという事?」
「そうだよ。君もそうだろう?縦ロール」
「私は、生命の実を食べただけの人間よ」
「その姿のままで何年になるんだい?」
「1万と6年かしらね?」
女神は幼女のまま2000年以上生きるんだな。そして、クリームちゃんは人間だけど、1万6歳の幼女。へぇ、そうなんじゃー。おしこるうまいのう。
「まずは、本来の飼育係を探すのをおススメするよ。神社に行けばヒントが得られるはずだよ」
「神社?おみくじでも引くのかしら?」
「うん。女神が引けば、事実だけが書かれた結果が得られるから」
「ありがとう。助かるわ」
「これが仕事だから、気にしないで。最後に、プレゼントがあるから、ついて来て」
堕天使について行くと、そこには痛車があった。痛車が馬小屋に入っていた。最初にバスに乗った辺りだ。
団子屋から1キロも離れていない。乗り合い馬車は、ほとんど進んでいなかったのか。ワワンサキまで行くのに何日かかるんじゃろ?
堕天使は、ここで女神を見つけて、馬車に同乗してきたんじゃろう。メイドとポニーテールが居るのが予想外で、しばらく観察していたのじゃろうか。それとも、コミュ障じゃから声をかけるまでに時間がかかったんじゃろうか。後者の方が共感出来るのう。
「これの使い方は、分かるよね?100円でいいよ。無償で渡すと、会計処理がめんどくさいから」
堕天使は、クリームから100円を受け取ると、帰って行った。
「時々、様子を見に来るよ。じゃあね」
堕天使が譲ってくれた車は、7人乗りのミニバンだった。車体全面に、魔法少女の絵が描かれた痛車仕様。ピンクの髪と真っ白なパンツが目に沁みる。目がー!
「これが噂の馬の不要な馬車ね?こんなのが手に入るなんて。あれ?馬が居ないのだから馬車じゃないわね?」
「これは痛車というものじゃ」
馬車から痛車って、進化の過程すっ飛ばし過ぎじゃろ。異世界基準だと、200年以上飛躍しとるな。
操作方法は、わしの頭の中にあったが、幼女の体では運転出来ないので、アンに運転をお願いした。空き地で運転の仕方を説明し、発進と停止の練習をしてもらった。止まる事さえ出来れば、後は実地でなんとかなるじゃろう。
「何か、策はあるじゃろうか?」
「西へ行くのよ」
そうか、おみくじか。
アンの運転する痛車で、ターマ山に行く。昨日、神社で引いたおみくじの結果に従ったのだ。神社の位置からだと、西にあるのはターマ山だから。そこにわしの飼育係とやらが居るのじゃろう。
アンは車の運転に慣れるのが早かった。峠道を爆走してもコップの水がこぼれないくらいだ。元はダモン王国というところの近衛騎士だったそうで、動体視力、反射神経、身体能力のすべてが優れている。異世界に行けばフォーミュラカーの運転も可能かも知れない。
お陰で、最初に我々が出会った場所まで、30分程度で辿り着いた。
「私、姉のお墓に行きたいのですが」
「そうね、私も行きたいわ。リーザもそれでいいでしょう?」
「もちろんじゃ」
わしに拒否権などあるわけがない。ここまで付き合って貰っているのだ。
「アンは、あのメイドがお姉さんの剣を持っていることにいつ気付いたの?」
「最初からです。あの剣は姉専用の特別仕様ですから」
「あなたは最初からリーザが王女様ではないのが分かっていたのね?」
「すみません。姉の消息を知る手がかりでしたので、保護して泳がせました」
「なるほど。さすがは、私の従者よ」
「恐縮です」
最初からバレバレじゃん。わしら、危ない状況だったんだな。やはり人を騙すのはリスクが高い。
場所を知っているわしが先導して、森の中を進む。何故か、森の獣は襲って来なかった。近くに居る気配すらしない。お陰で、墓の前まですんなり辿り着けた。
「ここね」
伝説の聖剣の様に、森の中に短剣が、突っ立っている。我々は、お墓の前で手を合わせた。
「足跡が、森の奥に続いているのが気になるのですが」
アンが不穏な事を言った。