6. とんでもない、わしは女神さまじゃよ
聞き捨てならんことを言う。誰が、貧相な女神だ。
「あ?お前は天使かなんかか?羽出せ。むしってやるから」
「リーザちゃん。言葉遣いがなってないわよ」
こうるさいアホ毛ロールじゃのう。仕方ないじゃろ、プリインストール辞書が、おっさんなんじゃけ。わしは悪くない。悪いのはいい加減なキッティングをした天使じゃ。昨日生まれたばっかで、オリジナル辞書の構築がまだなんよ。
「いつ生まれたかと問うならば、答えは昨日じゃよ」
「え?まじで?昨日人を殺したとか?」
なんで、そうなるのじゃ?
「人は殺していません。ちょっとは見殺しにしたかも知れませんが。むしろ、5人程弔って差し上げましたよ。セリカ様」
「あれ?シスター?」
「はい、今回は何年ぶりでしょうか?相変わらず、ツインテールがいかしてますね」
「え?また蘇ったの?えーっと、シスターが死んでから多分2000年くらい経ってると思うよ」
「今回も、私がお世話させて頂きます。この貧相なのと一緒に居たのは、おそらく天使のアサインミスです」
「わー、やったー」
なんなの、こいつら。何、勝手に盛り上がってんの?この貧相なのって誰のこと?わしじゃな?ツインテールむしるぞ?
「とりあえず、馬車に戻りましょうか。もう出ちゃうわよ」
クリームちゃんがそう言って、手を引いてくれたので、馬車に戻った。
「ミーはわしのメイドじゃなかったんかの?」
「はい。私はセリカ様のメイドです。すべては天使のせいです」
セリカとミーも、馬車に戻って来た。セリカツインテールは、ミーの膝に抱かれて昼寝を始めた。ぬう、その膝枕、わしんじゃなかったかあ。天使のアサインミスってなんじゃそれ。
天使がダメ過ぎて、もはや怒りも無い。相手に期待するから怒りが湧くのであって、期待していない相手には何の感情も起こらない。頭の中に居る、おっさんの残留思念の言う通りじゃな。アンガーマネジメントと言うのか、これは役に立つ知識じゃな。随分と、他人を見下した考えじゃとは思うが。
「どういうこと?リーザは王女様なんでしょ?」
うーん、わしが王女であれ女神であれ、どっちもおかしい話じゃなかろうか。
近衛騎士に見捨てられる王女もおかしいが、女神は存在すること自体がおかしい。
「とんでもない、わしは女神様じゃよ」
事実を答えておいた方が、きっと後が楽だ。一度嘘を吐くと、二度と取り返せない事態になるぞ、とおっさんの残留思念が告げておる。クリームが、わしを女神じゃと信じないなら、それで結構。
「くふっ。そう、そうなのね。思ってた以上の大物だったわね」
なんだろう?クリームは、わしが女神だと信じたのじゃろうか?ちょっとこわいんじゃけども。
「昨夜見た金貨や宝石は、誰のものなの?」
「森の中で死体から剥いだものです」
「その腰の剣は、私の姉の物です。お返し下さい」
「失礼しました。あのご遺体の身内の方でしたか」
「姉の遺体は、今も森の中に…。?」
「その場に埋葬して墓をたてておきました」
「…そうですか。ありがとうございました…」
森の中で亡くなっていたのは、アンの姉だった?こんな偶然ある?
「なあ、シスター。なんかよく分からないけど。盗んだものなら、返した方がいいぞ。墓のものを盗るなんて悪魔の品格が下がる」
セリカが起きている。どこから聞いていたのか知らないが、事情は察したようだな。ところでこいつは悪魔なの?ミーが言ってた悪魔ってこいつじゃったん?
「王家の宝石類だけ渡して頂けますか。私の従者の姉を弔ったことと、熊から私達を助けてくれたお礼に、金貨は持って行って下さい。アンもそれでいいわね?」
「はい。お嬢様にお任せします」
ミーは、剣と宝石類をアンに渡すと、セリカを連れて馬車から降りて行った。
わしは、どうすればいいのじゃ?
「ちょっと、いいかな?」
途方に暮れていると、今度は暁の堕天使に話しかけられた。