5. その幼女、ぶち凶暴なのじゃ
わしは生まれたての女神なのじゃ。
森の中で、すやぁっと全裸で寝ていたところを、メイドのミーに拾われた。
ヒッチハイクに成功し、縦ロール幼女と縦ロールメイドの馬車に乗って、山の麓の宿場町までやってきた。
頭の中には、日本という異世界のおっさんの知識がプリインストールされておるが、この世界の常識は知らん。ワワンサキまで行って、縦ロール幼女のクリームと一緒に小学生になるつもりじゃ。
宿で目覚めると、もう結構遅い時間だった。旅館の朝食はもうない、と。
「寝過ぎよ?」
クリームにちょっと叱られた。
しかし、わしは昨夜風呂で決意したのじゃ。
わしは幼女として、のんびり生きていくのだと。
女神のお仕事は、ニンゲン皆殺しらしいが、そんな面倒なこと、わしはやらん。
幼女なら、好きなだけ寝ていいのだ。
寝た子を起こしてはいけないと、妖怪大先生が仰っておられる。
頭の中のおっさんの残留思念は、封印する。あいつ、理屈ばっかりで、うるさいんじゃ。
あれが、わしの神話なら頭の3行で読者が離脱するぞ。神話を読んでもらえない女神なんて悲惨じゃ。
異世界のIT業界の知識なんか、何の役にも立つわけがないじゃろうが。あほか。
この世界の常識も何も分からんのじゃけども?困っておるのじゃけども?
無能な天使が、女神のキッティング手順を間違えたようじゃが、いい迷惑じゃ。
天使に会ったら羽を毟ってやるのじゃ。
天使については、メイドのミーからのまた聞きじゃ。
このメイドも、どこかいかれているので、あてにはならん。
しかし、のじゃ語は使いづらいな。なんじゃこれ?
もっとましな言語パックを、プリインストールしてくれよ。
ほんとうに、天使は使えないんじゃのう。
朝ご飯は、喫茶店のモーニングなのじゃ。あんこトーストがうまい。
これは、神社の御利益じゃろうか。女神リーザいい仕事をする。
わしも見習って、立派な女神に、なるべきじゃろうか?
うん。それは、ないな。だるい。
ご飯を食べ終えたわしらは、乗り合い馬車に乗り込んで移動を開始した。
西に行くのが運命だったのでは?この馬車南行きなんじゃけども?
「ワンコスギまでは南に向かうわ。そこから西に向かうのよ」
うーん。遠回りするの?ワワンサキは遠そうじゃのう。
先の事を考えると気が遠くなる。
まずは今夜着く宿場町のご飯を楽しみに進むこととしよう。
短期的な充足感を積み上げることが、長期間のプロジェクトを乗り切る秘訣なのじゃ。
むぅ、いかんな。封印しても、おっさんのうるさい理屈が出て来る。
楽しいことだけを考えよう。
ドラゴンの尻尾のステーキとか無いんじゃろか。食べたい。うまそう。
乗り合い馬車は十人乗りで、我々以外の乗客は九人居た。定員オーバーなのでは?
もっとも、我々含め、内六人は幼女なので、別に窮屈な感じでもない。
「悪魔が居ますね」
全身黒づくめで、片目を前髪で隠した女が同乗している。
くくっ、我は暁の堕天使、とか言いそうじゃ。
だからと言って、悪魔呼ばわりするのは、どうかと思う。
「悪魔なんて、神話とか聖書の中だけの生き物ですよね?」
縦ロールメイドのアンが、そう言うからには、この世界の悪魔はファンタジー動物なんじゃろうなあ。
女神がここに居るくらいじゃし?悪魔が居ても不思議はない気がするんじゃけど。
「悪魔みたいのなら、こっちにも二人居るけどね」
クリームちゃんの言う悪魔とは、わしらのメイド二人の事じゃろうなあ。こいつら、包丁と素手で熊に立ち向かうからのう。
「おい、お前」
隣のガラの悪い幼女に絡まれた。金髪のツインテールだ。ロリンテールだ。
「ちょっと顔貸せ」
乗り合い馬車が止まった所で、ロリンテールは降りて行った。何してんだ?あいつ。はやく、馬車出ないかなー。
「おい!来いよ!」
ロリンテールが泣くので、仕方なくついて行く。
「俺は、セリカだ。お前は?」
めんどくせーなあ。お前は?じゃねーだろ。目的語が抜けてんだよ。
「セリカ?あなたも女神の名前なのね。王族には見えないけど」
クリームだ。なんでこいつまでついて来た。
「いや、お前には用が無いんだけど」
ロリンテールがちょっと怯んだ。
縦ロール幼女対ツインテール幼女、勝つのはどっちなのか?
はやく終わらせて行こうぜ?
「あら?私の友に用があるということは、私に用があるということよ。そして私はクリームよ」
じゃあ勝手にやってくれ、俺はメイドの膝枕で昼寝したいから、行くね。
「お前、女神だろ。いつ生まれたんだ?ありえない位に貧相なんだが」
はい?