44. 血に飢えたメイド
私の屋敷に、悪魔がやって来た。
リーザちゃんがミーと名付けた、メイド服を着た悪魔。
キナコ村に来た時は、大きなハンマーを持っていたけど、今日は、長剣を持っている。一体どこから調達してくるのかしら?
こいつは、ダモン金貨を150枚持っているはずだ。そういう意味でも、私たちの脅威ね。
「あいつ、もう復活しないのではなかったのかしら?」
「…近衛騎士とは理を異にする生き物のようだね」
近衛騎士は、あるじを討ち取られた後で死んでも復活しない。それは、不名誉な死だから。こいつは、リーザ山でツインテールを先に轢き殺されたはずなのに、蘇って来た。
よりによって、このタイミングで。
リーザちゃんは、ずっと寝たまま。キナコは、リーザちゃんのおむつを替えている最中に、名誉の死を遂げて、ダモン王宮に帰ってしまった。アンは、ドラちゃんとシズちゃんを迎えに団子屋に行っている。
今、この屋敷には戦闘力が不在。
「今日は、ポニーテールの子は一緒ではないの?」
「あなたに答える理由がありません」
悪魔が鯉口を切る音が、不気味に響き渡る。
……。
「お館様は、アハトライトスラッシュの使い手だったのかい…?この世界に魔法は無いはずだけど…」
あはとらいと、って何よ?私たちの目の前で、悪魔がいきなりバラバラになったのだけど。
にゃーん。
うにゃっ。
黒猫と銀毛の猫がやって来て、悪魔の死体を跨いだ。私と堕天使に、挨拶だけすると、屋敷の中に入って行った。
「ドラちゃん、シズちゃん。先に行かないで下さいよ。あぁもう、なんですかこれ。玄関前を散らかさないで下さいよ、お嬢様」
遅れてアンがやって来て、悪魔の死体を、ほうきとちりとりで片づけ始めた。
ねえ?いくらなんでも、無双が過ぎないかしら?リーザ組は。
「この銀ネコは、ドラちゃんなの?」
「はい、悪魔の湯に入ると、小さい女の子に戻るみたいですね」
「水をかけると猫になるのかしら?」
「猫になる法則は分かりませんねぇ」
ドラゴンといえば、猫型の方が、私には馴染みがあるけれど。ドラゴンの幼体は、姿を変えるのね?
「まさか…リーザ様も、猫に…?」
「そのために、ずっと寝ているのかしら?」
「いや…思いつきで言っただけ…くくっ」
リーザちゃんのお腹の上に黒猫、肩口に銀ネコが丸くなって寝ている。
「女神様をお守りされてますね。思った通りです。連れて来て良かったです」
「そうね。これで私たちも休めるわね。ちょっと寝ましょう」
「くくっ…我はずっと寝ていたので、かわるよ…」
幼体とはいえ、地上最強生物の一角である、ドラゴンと魔王がついているのだ。リーザちゃんですら、逆らえないだろう。
「あ、お邪魔してるよー」
「ミラ、いつの間に来てたの?」
「ミーとかいうメイドが来てた時に、裏口からね」
「あれ、見てた?」
「メイドを滅したのは魔王じゃないかな?知らんけど。騎士の子の方が見えてたんじゃないの?」
「私には何も見えていません。屋敷は風下だったので匂いも分かりませんでした」
なによ。誰にも分からないなんて、そんなのある?
「さすがに…寝ている女神様がやったということは…」
「ないでしょうけど、猫がやったというのもねえ?」
「魔王がやってくれたのなら、あのメイドに次の転生はないよっ」
「そこは神話の通りなのね」
「うん。神話にもちゃんと事実は書かれているんだよっ」
「ドラゴンの場合は、仮死状態かしら?」
「いやー?あれは、悪魔と化していたしねえ。元はニンゲンだったはずなんだけど。悪魔の飼育係をやっているとねえ汚染されるからねぇ」
聞き捨てならないこと言うわね?女神の飼育係は大丈夫なんでしょうね?
「あー、ごめんね。悪魔と女神はたいだい一緒だけど、女神の飼育係は汚染させる側なんじゃないのかな?知らんけど」
「私達は、だいじょうぶ?」
「ロリおばばは既にターマの大怪獣でしょ?汚染は受けないと思うよっ。他の子たちもね。大天使は、むしろ浄化?聖化?パワーアップしているはずだよ。そもそも、リーザちゃんは悪魔化してないしね!ああ、そうそうドラゴンの話だったね。ドラゴンも悪魔を倒す場合は、仮死状態にはしないよ、滅ぼすよ」
この人に会うと、重要な情報がぽんぽこ出て来る。しかも、神話並みに信憑性は薄いのよね。仕方ないわね。初代リーザ様だもんね。
「ふふー。かっわいいー。すべすべろりろりねー」
ミラは、寝ているリーザちゃんを撫でている。死んじゃうからやめた方がいいわよ?リーザちゃんが、寝返りうっただけで、キナコの縦ロールが吹き飛んだもの。
ところで、こういうのも自画自賛というのかしらね?ミラとリーザちゃんは同じ体なんでしょ?
「リーザちゃんがずっと寝ているのだけど」
「うーん?赤ちゃんなんだから、そりゃあ寝るでしょうよ」
「もう丸2日になるのよ?ご飯も食べないし、おしっこもしない」
「私も、幼体の頃は、そうだったよ。人類を滅ぼした後なんて、7日くらい寝てたよ」
女神の幼体は、こんなものなのかしら?
「起きたら、体力が落ちてるかも知れないね。気を付けてあげてね。もしかしたら、その方が都合がいいかもだけど」
ミラは、鞄の中から、おまんじゅうの入った箱を取り出すと、アンに渡した。旅のお土産を持って来てくれたのかしら?案外、律儀なのね。
「私は、ダモン王国に行くよ。しばらくそっちに住むと思うから。落ち着いたら、王宮にでも連絡するね」
「分かったわ。おみやげありがとう」
「ふふっ。名物にうまいものなしってね。あまりにもまずいから巻き添えね」
こういうところ、リーザちゃんそのままだわ。
「最後に、今日のワンポイントヒントをあげましょう」
何かしら?本当のこと言ってくれるのでしょうね。
「幼体と言っていいのは、女神と悪魔とドラゴンだけ。天使や堕天使は違うからね。見習いと幼体は、ごっちゃにしがちだけども。ま、だからなんだって話よね」
確かに、だから何だって話だけども。いつか重要な意味を持ちそうな気もするわね。
「じゃーねー。お茶ごちそうさまー。まったねー」
来た時と同様に、気ままに帰って行った。リーザちゃんそのものね。
ミラの言った事が本当ならば、ミーはもうやって来ない。




