33. 失ってはならぬものがあるのじゃ
「うちにくれば、熊の丸焼きも食べ放題なのじゃ」
わしが、そう言ったのが決め手になったらしい。
オエド銀行で紙芝居をやっていた猫耳幼女は、クリームちゃんに買われた。6000万円というのも、彼女には破格じゃった。
紙芝居師は、紙芝居を見に来た子供達に買ってもらうおやつが収入源なので、大きくは稼げない。画材だって高いのに。
彼女の年収は、30万円しかなかった。個人事業主なのに庶民じゃった。いや、貧民じゃった。
彼女の名前は、ノヴィ。
ノヴィちゃんも、ハナちゃんと同じ孤児院の出身じゃった。年収30万円でも、孤児院よりは、ましなご飯が食べられたそうじゃ。どんだけヒドイ孤児院なのじゃ。
うーん、次は孤児院買っちゃう?
「メルちゃんの絵本、400万円もしたのよ?」
「え?うそ…私の年収が低過ぎる」
ノヴィちゃんは、語尾ににゃを付けるのも忘れて、絶句しておる。
「ワワンサキで悪どい商売している連中がいるようだね。あの国で無駄に稼いでもいいことなんかないのにな」
「あの国の利点は、そこなのにね。貴族は富を独占せずに、庶民に還元するのでしょう?だから誰も詐欺はしないし、ぼったくりは貴族相手にしかしない」
ワワンサキは、こらしめた方がいいのかものう。女神の流儀的に。幼い子供に、まずいメシを食わせるやつは殺すのじゃ。
「まあ、天使の僕の知ったこっちゃないんだが」
「我としては、困るかな…」
「まあ、吾輩は、おいしいご飯が食べられるので、あんな国は捨てたにゃ。ここにずっといるにゃー、あふぅううん」
ノヴィちゃんは、湯舟に浸かって、猫耳をぴくんぴくんさせておる。
それ付け耳じゃないの?
ノヴィちゃんは、最初は湯舟に入るのを嫌がっておったが、コルサちゃんが湯舟に蹴り落としそうになったので慌てて入った。いざ浸かってみると、気に入ったようで、おほぉ、だの呻いておる。大変、結構。
「猫耳娘の言う通りか…」
何やら、決意したらしい、暁のぽんぽろー。
「ワワンサキを捨てて、この国に帰化したい」
「…可決」
「…可決」
「…可決」
「…可決」
「というわけで…我らリーザ組に合流する…ワワンサキは潰して構わない…」
こいつらが全員一致で可決するとこ初めてみたな。組の構成員が5匹増えたわ。
「それはいいけど。あんた達、あの国に資産とか残してないの?」
「9兆円あるよ。ダモン金貨の所有権と、引き換えにして欲しいな」
堕天使全員が、常にジャキっているわけではなく、ムーンライトとダークネスは、活発な議論にも参加出来るよ。
「えーと、9兆円って何枚だっけ?」
「30万枚でしょ?あんたほんとに元銀行員なの?」
「ははっ、金勘定は頭取の仕事じゃないよ」
じゃあ、何が頭取の仕事なんじゃろうか。こわいので聞かない。
「まあ、何枚でもいいよ。ワワンサキ円がダメなら、他の通貨にしてもいいよ」
「ワワンサキ円で構わない。うちと通商可能なのは、ダモン、ターマ、ワワンサキの3つだからね」
「あー、ダモンもワワンサキ円に切り替わったんでしたっけ?」
「うん。革命軍の置き土産だね。都合がいいのでそのままにしたそうだよ」
民主化研究会のやつら、元気にやっておるかのう。やつらは今、ダモンに帰化して国家の土台作りに参加しておる。研究のメンバーは、純粋な理想家共じゃった。よこしまな誰かに利用されておっただけじゃった。純粋な理想家も危険だけどね。
「回収しておきたいのは資産だけなの?」
「あれは…回収しておく…べきか…」
暗黒だったかが、暁に輪をかけて、ジャキジャキじゃ。コルサちゃん並に、発言がゆっくりなのじゃ。
「それは、吾輩のいた孤児院の事かにゃ?」
吾輩は猫であるのか?猫耳娘の一人称は吾輩らしい。吾輩は猫にゃ。文学風味無いのう。
「あそこの図書室にある古文書は超貴重だよ。フェニックスの羽より貴重かも」
「フェニックスは実在しないけどね!」
「…まだ子供が3人と巫女が1人…残っている…」
「分かったわ、孤児院丸ごと持ってくるわよ」
やはり、そうなるんじゃな?




