30. 狂信者共が見た光
私達は、神社の境内で途方に暮れていた。
テロリストにコルサ王女様を誘拐され、神社の神馬を奪われてしまったのだ。
配属先のエタナル学園は消失し、再建も不可能だと言う。神社には、お金がないのだ。こういうときは、私達若い巫女から切られていく。この失態で、失業は確定的だ。
この国では、失業補償も就労支援も充実している。でも、私達の信ずる女神リーザ様は、この国では邪神扱い。リーザ様にお仕えする巫女である私達には、その恩恵は無い。邪教の経営する学園が、トップの教育機関であるような、このヘンテコな国。私達は、生まれる国を間違えたのかも。
リーザ様を国神として崇めるダモン王国に生まれていれば…、革命戦争で、死んでいたかも知れないのね…。この世はままならない。ああ、リーザ様、はやく人類をふたたび滅ぼして下さい。
私達は、リーザ様の加護の元にあった。奇跡が起きたのだ。
2日後の朝、神馬が神社に帰ってきた。車内には、古代ドラゴン金貨と、謎の書き置き。そして「りーざちゃんのしんわ」と書かれた紙切れが1枚。
あのテロリストは、地上に顕現されたリーザ様だったのだ。
神社の伝承にある「紺色の衣、黄色い帽子、黄色い鞄」の通りの、ぱっとしない貧相な幼女だったもの。それに、わしはリーザなのじゃ、と名乗られていた。
リーザ様、あなたは、一体どこに居られるのですか。
ラジオが緊急生放送で、神聖ダモン王国の誕生を告げていた。
ダモンの地に、女神リーザ様が御光臨遊ばされて、国の騒動を治めたのだと言う。
はやく、リーザ様のもとに駆けつけなければ。
ああ、でも困ったわ。ダモンに行くには、悪魔の山を越えなければならない。悪魔ですら越えられぬ、あの山を。
ああ、リーザ様、私達迷える巫女達に、どうかお導きを。
天啓が下った。
ラジオを使って、コルサ王女様から、その天啓は告げられた。
「りーざぐみはー、りーざやまにー、くにをー、つくったー、のじゃー…ガタガタ、ゴトッ…ちょっと、かわりなさい、あんたがやると日が暮れるわよっ…あー、ちんのちんちんがー…ブツッ」
国を作った?リーザ山?どういうこと!?私達、失業間近の巫女達は、ラジオに釘付けになった。
「へーい!ラジオの前のみんな、今日もロックしてるかーい?リーザ組は最高にロックンロールだぜ!命の惜しい子猫ちゃんは、ダモンの光溢れる城には近づくんじゃないぜ?ベイビー、じゃあ、まったねー…ブツッ…以上で、女神リーザ様の玉音放送を終わります」
一体、何が起きているの?最後に喋っていた巻き舌の軽薄そうな女は誰なの?
「死んでもいいやつは、ここに集まれやーーーー!!」
「おおおーーーー!!」
私達巫女は、リーザ様の下僕。リーザ様が地上に居られるのであれば、命を投げうってでも、その元に行かねばならない。
「死にたい奴はこれだけかーー!!」
失業確定の若い巫女達が、20人集まった。全員17歳だ。この先の人生の方がずっと長いけれども。女神様に仕えずして、何が巫女か!
「悪魔の森へ行きたいかーー!」
「おおおおーーーーー!!」
リーザ様は悪魔の山に居られる。いいえ、リーザ山だったわね。あの山の悪魔の森と言われる場所に城を建て、そこをドラゴン組という国にされたそうだ。悪魔ですら入る事は叶わぬと言われる森へ、私達は行く。
オタマ市のノボルトンまでは、ニャンブー線で向かった。貨物車両しか走っていない、その鉄道に人は乗れない。私達は、「私は、豚です!ぶひー!」と自ら申請して、家畜として積んでもらった。人としての尊厳など捨てた。私達は、リーザ様の下僕なのだから。
牛の方が良かったかしら?もー!でも、私達みんなすっとんとんだし。
ノボルトンからは、山の麓の宿場町であるナマタ村まで乗り合い馬車で進んだ。
さあ、ここからは、命がけよ。
たとえ、死んでも辿り着く。
女神様に仕えずして、何が巫女か!