21. 本さえあれば下剋上は不要なのじゃ
「女神リーザが身バレしてなくて、よかったよ」
女神リーザは、ワワンサキでは邪神扱い。邪神がテロを起こしたとなれば、わしのクビは十字架に掲げられて、ぴーひゃらら、するとこじゃった。
テロリスト認定されてしもうたわしらは、盗んだ神馬で走り出し、堕天使の部屋に避難した。
ここは、ワワンサキ内では、治外法権を確保しておるのじゃ。
「くくっ。我らは、異世界ホールディングスの事務員…。この館は、オフィス兼社宅…。誰にも手は出せないのさ…」
LED照明の製造メーカー、鉄道のニャンブー線、楽器の製造メーカー、痛車の製造と販売およびメンテナンスなどなど。堕天使は異世界知識を使った発明で、数々の企業を起こし、それらを持ち株会社異世界ホールディングスの傘下としてグループ化した。オエド銀行まで傘下にあるのじゃ。
堕天使達は、ワワンサキ経済界の裏の支配者というわけだ。ここには、神社の邪教徒でも手を出せない。
「我ら事務員さんのお給料は、月給5万円…。立派な庶民なのさ…」
ノーベル越えの資産を持ちながら、何故こいつらが貴族になっておらぬのか?建前上は、持ち株会社の事務員さんだからなのじゃ。もちろん、それではこの高級マンションの家賃が払えないのじゃがー。
「社宅なので家賃は会社持ち…。オフィスとして経費も使い放題というわけさ…。経費精算が面倒だけどね…」
うまいこと考えよるわー。わしも、ここの事務員さんに、なりたい。
「小学校も行ってないあほの子は、いくら女神様でも雇えないよ」
そうりゃそうじゃー。むう。わしも自分で会社作っちゃう?
「神社を買ってしまえばいいよ。総本山が燃えた今ならお買い得だよ、きっと。神馬を返す必要は無くなる」
その手があるかー。クリームちゃんが帰って来たら相談じゃ。
「しばらくは外に出るのは危険だろうね。引き籠って読書でもしていればいいよ」
「もしくは、国外逃亡するんだね」
「うちにある本は好きに読んでいいし。1階の図書室もおすすめだよ」
堕天使達の助言で、わしは読書に逃避する事にした。
この世界には活版印刷があるが、聖書は世界最初のベストセラーではない。
この世界の聖書は、各家の秘伝のたれなのじゃ。親の聖書を子が写本する。写本する際に、最新の時事ネタや独自ネタを盛り込んで、時には改変・改竄もする。
そうやって、各家だけの聖書が代々伝えられ熟成されていく。原典が不明なので、印刷が出来ないのじゃった。出来栄えに自信のある聖書は、賃貸部屋を引き払う時に、書棚に残していったり、自費出版で売ったりする。自費出版聖書の即売会もある。聖書は、まるで同人誌じゃな。
そういう名作聖書のひとつ「ドラゴンの村」を、読んだ。以前、クリームちゃんが言っていた、ドラゴンとダモン神獣のお伽話じゃ。写本した奴の主観と感想多めで、ほぼブログじゃった。いかがでしたか?
「魔女を拾ったので、人類を滅ぼそうとする女神と戦います」というタイトルの神話も読んだ。イラストを印刷する技術がないので、活字のみじゃが、まるっきりラノベじゃった。
この国の聖書はブログで、神話はラノベ。
本さえあれば、下剋上を起こす必要もないな。わしは満足なのじゃ。大変、結構。
本を読んでるうちに、もう晩御飯の時間なのじゃ。
「ピザの出前を取ろうと思うよ」
「…否決」
「…否決」
「…可決」
「…否決」
5頭の堕天使達は、違いがまるで分からぬが、それぞれ自我はあるらしく、地下の秘密基地の三賢者システムみたいなことをしておる。ピザは否決されたので、団子屋でお好み焼きを焼いて貰って、持ち帰りしてもらった。
「なにか、おもしろい本はあった…?」
「ドラゴンの村の遺跡は、ドラゴン山の中にあるんじゃろうか?」
「さあ…。あそこには人が入れないからね。君たちはともかく」
「私、亡命中に神社の鳥居を見ましたよ」
「なのよ」
コルサちゃんとキナコは、亡命中にいろいろ見ておるのう。
「行ってみるか。ドラゴンの村」
読書もいいけど、食事が出前なのつらいし。お風呂に入れないのが、一番つらい。
引き籠りはやめて、国外逃亡するのじゃ。