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2. わしは女神なのじゃ、名前はまだない

 私は女神である、名前はまだない。


 森の奥深くで生まれ、全裸で転がっていたところを、熊より強いメイドに拾われた。

 彼女は、熊を素手で倒した。ゾンビ化したプロセスをキルコマンドで閉じるように、いとも簡単に。

 

 生れて始めて見た人間は、既に死んでいた。大人と子供の二人組。埋葬して墓を建ててやった。こういうのは祈りを捧げておくのが、女神の仕事っぽい気がしたので、祈っておいた。


 次に見た人間達は、すぐに死んだ。熊がひと撫でしただけで、まとめて死んだ。


 その次に見た人間達は、縦ロールの幼女とメイドの主従で、これはまだ生きている。森から全裸で出てきた私に、パンツをくれた。


 今の私は、幼女だ。見た目だけは6歳児の幼女。中身は生まれたての女神。


 生まれたばかりなので、この世界の事は分からない。こことは全く違う世界の記憶はある。その世界ではメイドは熊を殺せないし、全裸の幼女は森をうろついていない。


 頭の中には、日本という国で暮らしている50過ぎの男の記憶がある。異世界転生というやつだろうか?だが、記憶の中には、転生トリガーとなるイベントが無い。大型トラックとか、倒れて来る本棚が出てこない。


 この記憶は複製であると仮定してみると辻褄が合う。ライブマイグレーションでは無く、クローニングによってプロビジョニングされたのだ。オリジナルの所有者は、今も異世界でアライブなのだと推測される。


 何故そのような手順を採用したのか?生まれたての女神に記憶を書き込むのであれば、所属する世界の構成情報であるべきだ。せめて同性の記憶である事が望ましい。異世界の男である妥当性が見当たらない。


 誰に抗議すればいいのだろうか?メイドが言うには「天使はいい加減なので、無駄です」との事だが。これは天使の仕業なのだろうか?


 どれだけ仮定を立てても、確定することは不可能だ。実証する手法が存在しないのだから。


 自身の記憶については保留だ。


 幼女らしく、目の前の縦ロール幼女とガールズトークでもしよう。私は、幼女なのだから。


 まず名前が必要だな。名称の統一はプロジェクトを円滑に進める上で必須だ。ルーターなのかルータなのか、そこまで厳密でなくても良いと個人的には思うが、そもそも名前が無いのは問題外である。

 私は書生に拾われた猫ではない、メイドに拾われた女神なのだ。名前が無ければ自分で定義する。


「クリームちゃん、推しの女神は誰じゃろうか」

 目の前に居る縦ロール幼女に幼女っぽく聞いてみる。間違っている気もするが、その場合は結果を評価して、最善な手順を検討し、再度実行すれば良い。

 既存の女神の名を借り受けるのが妥当だろう。女神が悪魔の名を騙るわけにはいくまい。この世界の女神の名を、目の前の幼女からヒアリングだ。


 縦ロール幼女は、クリーム・カステーラだと名乗っていた。従者のメイドは、アン・オモッチ。こいつらは、森から全裸で出てきた幼女に優しくしてくれた。町まで馬車で送ってくれると言う。今は、その馬車の中に幼女二人でいる。メイド二人は、護衛達の死体を片づけている最中だ。


「もちろんリーザよ。ターマの商人には、セリカを推す人が多いけどね。私は、断然リーザ推しよ」

「リーザ?」

「お笑いの女神様よ。ターマの商人は、笑っても一円の利益にもならないって言うけどね」

 暫定でリーザを採用しよう。世間の反応を見てから本格採用を検討する。

「じゃあ、わしの名は、リーザじゃ」

「今、決めたような事言うわね。まあ、いいけど」

 彼女は、私の事を亡命中の王女様だと思っているようなので、多少妙な事を言っても問題はない。亡命中の王女が本名を名乗るはずがないのだから。


「この馬車ぼろじゃな」

「こんな山の中で見栄を張ってもしょうがないでしょ?」


 王女様は、下々の事を知らないし、デリカシーも無い設定だ。


 馬車の装備は木製のベンチシートのみで、幌も無ければ、風除けの板一枚すら無い。ぼろいのは事実ではある。


「これで、ワワンサキ?まで行くのじゃろ?」


 縦ロール達は、ターマ市から国の首都であるワワンサキに向かっている、と言っていた。馬車で、ひと月かかる、とも。この低スペックな馬車は、ひと月の運用に耐えられるのだろうか?


「この馬車は、山を越えたら手離すわよ。さっき死んだどれぃ…。うちのスタッフもそこで解放する予定だったのよ」


 うちのスタッフというからには、彼女の家は、護衛を雇えるような裕福な家ということだろうか。だったら、もっと質の高い馬車を用意すればいいのに。機種選定で予算を惜しむと、開発工程のコストが無駄に増える。コストはマクロな視点で調整するべきだ。


 死体の片付けが終わったようだ。話の続きは移動しながらしよう。

 私達は馬車を降りて、不遇な護衛達の墓に手を合わせた。女神的な祈りを捧げておいた。墓には、木の枝で組んだ十字架が立っていた。


 私を拾ったメイドの名前はミーにしておいた。王女付きのメイドなら、天使の名前を持っているはずだ、とクリームが言うので。女神を拾ったメイドの方が、拾われた猫のような名前になった。

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