15. こしあんもおしくいただく女神なのじゃ
オエド銀行から300億円をせしめたわしらは家に帰って来た。
「ここまではうまくいったね。でも、まだ綱渡りは続くよ。何しろ、ここにあるダモン財宝は、12個しか無いんだ」
ダモンの王女様が亡命時に持ち出した財宝は、全部で13個ある。少なくとも、オエド銀行では、そう捉えている。でも、わしらが今持っている、ドラゴンの涙を含むダモン財宝は、12個しかない。でも、1個くらい、無くてもバレないんじゃないの?
「そういうわけには、いかないよ。ダモンの革命軍だって、同じリストを作っているはずだ。ばれたら、命に係わるんだ。やれることはやっておかないと」
ハナちゃんは相談料として、定食屋の年間パスポートを貰っただけじゃ。天使の命が安いのう。
「最悪、あんたが女神だってことをばらして、全部チャラにするわよ。ワワンサキでは女神リーザは邪神だから、誰も逆らえないわ」
なんというデウスエクスマキナの自作自演なのじゃ。この世界の人間がかわいそうなのじゃ。ちょっと、やる気出そうかしら、わし。
「オタマ山に行けば、最後の1個があるんだよね?急ごうか、サバは生きているうちに酢に漬けろって言うだろ。僕らの命は、生き腐れ同然だからね」
そんな慣用句知らない。こいつの異世界記憶は、わしと違う日本なんじゃないの?
ともかく。ダモンの情勢もいつ変わるとも知れぬ。わしらは、絶賛綱渡り中というわけじゃ。現時点では、まだ300億円は入金されていない。まずは、ダモン財宝を13個揃えないと。
アンに痛車を運転してもらい、ターマ山までやって来た。幼女型ドラゴンのドラちゃんも連れてきた。彼女が居ると、獣除けになるはず。拾いに来た時に、周辺に獣の気配が一切なかった。
「ドラゴンの放つ殺気でもあるんじゃろうか?」
「殺気の8割は匂いですね。残りが音です。見える位置まで近づけば、見た目が9割です」
「ドラちゃんは、なんかいい匂いしかしないのじゃ」
「そうですね。私もそう思います。まあ、私は獣ではありませんので」
「もっとやべえダモンの近衛騎士だもんね」
「ははっ、君ら主従は仲がいいねえ。僕もメイドさんを従者にしたいよ」
みんなで軽口を叩きながら、聖剣伝説なお墓を目指す。
「今日は、おまんじゅうを持ってきたのじゃ」
ダモンは、こしあんが多いらしい。こしあんもうまいからのう。おしるこもさらさらなのじゃ。ターマもこしあん推しらしい。落ち着いたら、ターマとダモンに観光に行きたいのう。
ちゃんと、こしあんのおまんじゅうを用意してきたので、お供えしてから、女神らしい祈りを捧げる。なにがどう女神らしいのかは、わしが勝手に決める。女神は世襲制じゃが、引き継ぐのは名前だけじゃ。流儀や作法は何も教わっておらん。
引っこ抜くと勇者になりそうな短剣に、クリームちゃんが手をかける。
「ふんにゃぁぁああ、ふおおおぉぉぉ、お?」
抜けないね。これは大きなカブなのかな?
「大道芸人の真似はいいから、そろそろ抜いてくれないか。しかし、うまいなパントマイム」
「いや、違う…。ほんとに抜けないわコレ」
「そんなばかな。地面は柔らかいぞ?」
ハナちゃんが抜こうとしても抜けなかった。やばいな、わしが落とすのかこれ?
「はっは、君達庶民は勇者ではないという事じゃな。勇者をも暇つぶしに滅ぼす女神の性能を見るがいいのじゃ」
しまった、つい自分で盛大に前振りしてしまった。どうやって落ちをつけようか。そもそも、王女様の墓で遊んじゃダメじゃろ。
すぽっ
あっさり抜けた。
「「「え!?うそ!?」」」
なんで、みんな驚くのじゃ?まさか、まじじゃったの?
「ふーん、確かにこれはダモンの財宝だね。中身は、ナマクラだな。完全にお飾り用の宝剣というやつだね」
抜けた短剣を検分してハナちゃんが言う。
「王女様は、剣なしでどうやって自分の身を守るのじゃろ?」
「近衛騎士がついているし、王女様はドラゴンと素手ゴロで喧嘩できるというからね。剣なんか飾りなんだよ、きっと」
どこまで本当なんやら。この世界のリアルとファンタジーの境界が分からん。わしの中の異世界基準では、女神も悪魔もドラゴンも天使も1万6歳ロリばばあも、全部ファンタジーじゃ。
「ろりばばあってなに?」
おっと、口から漏れておった、よう、じゃあ、ああっ!!
ずぼっと、足元の地面が陥没した。王女様のお墓を踏み抜いてしもうた!女神らしからぬ行いじゃこれは。クリームちゃんの笑顔が、ぶちこわいんじゃけえ。ひよこババアと言えば良かった?
「お、おい、ちょっとこれ、ほんとに墓なのかい?」
「え?」
ぼっこりと墓の土が抉れたのに、中には遺骨は無いし、埋めたはずの王女様の十字架のネックレスも無い。
「どういうこと…?」
どういうことじゃろうか。分かっているのは、3回も墓を掘り返してしまったという事実じゃ。うち一回はドラちゃんじゃけども。しかも、墓標まで奪ってしまった。ゴーストが、わしのキンタマを盗りに来ても、不思議はないのう。ないけどな、キンタマ。
「まあ、王女の墓が万一にでも発見されては、シナリオが台無しだ。天使の僕でも非道な自覚はあるけど、ここに墓は無かったことして帰ろうか」
わしらは、穴を埋めると、付近と同じ様に地面をならし、枯れ葉で隠した。お供えしたおまんじゅうは地に帰るじゃろ。
最後に、もう一度だけ、女神の祈りを捧げた。
すまんのう。許してくれでんもいい。化けて出ても、異論も反論も無いのじゃ。