13. 鳴かぬなら、殺してしまえ、国王を
クリームちゃんが言うには、わしらが平穏な学校生活を送るためには、お金以外に必要なものがあるそうじゃ。貴族になったら負け、だそうじゃ。庶民の身分を勝ち取るんじゃと。逆じゃなくて?
この国は、貴族のノブレスオブリージュが度を越しておるので、庶民はとても穏やかに暮らしておるそうじゃ。医療費無料、水道光熱費も教育費も無料、税金も年金も社会保険も徴収されない。何もかもが、国民の2割しかいない貴族持ちじゃ。なるほど、確かに庶民の方が良さそうじゃね。
元頭取のハナちゃんに連れられて、わしとクリームちゃんは、オエド銀行に来たよ。玄関脇のロビーでソファに座って待つわしらのところに、27歳くらいの銀行員がやって来た。あれが、ハナちゃんが窓口で呼び出していた、渉外課の課長さんなのだろう。顧客に肝臓を売らせてでも、証券とか買わせそうな逞しさを感じる。まさに、ザ・銀行員。わしの中の残留思念の偏見がヒドイ。
こんな偏った事を言うと、またクリームちゃんに小言を言われる。彼女は、すっかりわしの保護者気取りなのじゃ。本人だって、他人の肝臓なんか売っても一円にもならないでしょ、とか言うくせにのう。
ハナちゃんは、堕天使達のところで、経理のアルバイトをしておったが、数字に弱いし、金勘定もまともに出来ないので、堕天使達からバイトをクビにされておった。元銀行員なのに、数字に弱いって、どういうこと?
クリームちゃんは、そんなハナちゃんを拾った。そして、二人で何か企んでおる。
「頭取。よくここへ顔を出せましたね」
「そう言ってくれるな。君達にとっても利益のある話を持って来たんだ」
渉外課の課長は、ハナちゃんを抱き上げると、自分の膝に乗せてソファに座った。ハナちゃんは、見た目は6歳児なので、親子か姉妹にしか見えないね。
「話は全員揃ってからする。企画七課と公安九課にも声を掛けて欲しい。あいつらは、窓口から呼び出せないからね」
「物騒な話としか思えませんが…」
「僕は、どうしても学校に通いたいんだ…なんとかならないかな」
彼女はもう、この銀行の頭取ではない。全財産を没収された上に、銀行を追い出された。彼女の唯一の救いは、公爵の位も剥奪されて、自由な庶民の立場に戻れた事だけ。
わしとクリームちゃんに出会ったのが、救いになるのかどうかは、知らん。
「…。ふぅ、分かりました。ハナちゃんの頼みです。5分以内に全員集めます。あいつら、ダモンの一件に巻き込まれたせいで、暇こいてますから」
この国では、上司が部下に命令するのではない。部下が上司に命令するのだ。トップの頭取が、一番下っ端とさえいえる。にも拘わらず、渉外課の彼女は、元頭取のハナちゃんの無謀そうな話に付き合うと言う。ハナちゃんは愛されておるのじゃろう。見た目だけは可愛い幼女じゃしのう。
「おい、あれがオエドのミノタウロスか?案外、ひょろっとしてんな」
「ばかおい、公安九課相手におかしなこというな、出世に響くぞ」
「だから言ってんだよ、俺このままだと課長になっちゃう」
銀行員が出世を嫌がっておる。おかしな国じゃ。
「俺、七課の課長初めて見た。挨拶しとこうかな」
「まじかよ。さすがは大天使ハナ様だな。追放されても影響力が凄まじいな、営業本部の本部長まで居るぞ」
「行内の大物が、こんなに集まるのなんて、御前会議でもあり得ないだろ」
フロアのど真ん中のガラス張りの会議室でやっておる。悪だくみを、こんなオープンにしてええんじゃろうか。銀行員の考える事は分からんな。
「あー、そろそろ、いいかな?本題に入りたい」
ハナちゃんは、ここでも渉外課のお姉さんの膝の上だ。
「端的に言うと、300億円ほどくれ」
端的過ぎるでしょ。
6千万円以上のお金があると貴族になってしまうので、それを何とか回避したい。それが、クリームちゃんの望み。
それに対して、下をくぐれないのであれば、上に突き抜けてしまえばいい、とハナちゃんは言っておった。
6千万円で貴族の証であるゴールドカードを押し付けられるわけじゃが。300億円あれば、ゴールドより上のプラチナさえ越える、幻のブラックカードが発行される。ブラックカードは国王しか持っていない特級の呪われたアイテムじゃ。
庶民になれないのなら、いっそ国王になってしまえ!いや、国王を殺してしまえ。
「また、ハナちゃんの無茶ぶりが始まった…」
オエド銀行の、超エリート達が、頭を抱えた。




