11. お前も、くたくた派にしてやろうか!
堕天使戦隊ジャキガンファイブが、「くくっ供物を頂きながら、話をしようじゃないか…」と言うので、マンションの1階にある定食屋にやって来た。アンとドラちゃんも一緒じゃよ。
幼女型ドラゴンには名前が無かったけど、ドラちゃんと呼んだら返事をしたので、名前はドラゴンになった。名字もドラゴンだ。ドラゴン・ドラゴン。縦ロール幼女のクリームちゃんによると、「神話に出てくる最初の神みたいな名前」だそうだ。この世界の創造神は、どんな名前なの?え?呼んではいけないから名前が無い?どういうこと?
堕天使達は、理のディステニーが運命のさだめ、とか小学校の国語から学び直した方がいいような事を言っている。こいつら全員、見た目は14歳じゃからな。仕方ないな。中学二年生が、中二病なのは自然の理じゃ。2000年以上、生きておるらしいが。エターナル中二病なのじゃ。
「あら、ミケちゃん。今日は、みんな一緒なのかい?新しいお友達も連れてきたんだね。じゃあ、今夜は特別に鍋にしようか」
定食屋の女将さんが、まるでみんなのおかんの様に接してくる。名前は明かせないんじゃなかったのかミケちゃん。今夜の堕天使への供物は、鍋なのじゃ。
この国の家庭にキッチンが無いのは、近所の定食屋でご飯を食べるからだ。定食屋の女将さんは、みんなのおかんみたいなもんじゃな。メニューは日替わり一択のはずなのに、こうして鍋を出してくれたりもする。
この国の民は、家事というものを一切しない。食事は外食、お風呂は銭湯、洗濯はクリーニング屋、掃除はメイドさん。こういうの水平分業というんじゃったっけ?普段の生活で、それが確立しているなんて、異世界の日本よりも先進的なのでは?夫婦が家事の分担で揉める心配が無いぞ。子育て支援も充実しておる。ワワンサキSHINE!なんて、誰も言わないと思う。
「リーザちゃん、白菜がおいしいわよ」
「わしは、白菜はくたくた派なのじゃ」
わしの飼育係になったつもりのクリームちゃんが世話をしてくれる。わしを膝に乗せようとしたけど、同じ6歳児のサイズなので無理じゃった。
生まれたてのわしに、白菜はくたくた派とか、おはぎはつぶあん派とか、趣味嗜好がはっきりあるのはおかしいのじゃが?これは、わしの中の残留思念の影響なんじゃろうな。
「神話の改訂版の話をしようか。長い話だと、鍋が煮詰まってしまう」
まったくじゃ3行で頼む。白菜はくたくた派じゃけど、お肉を煮過ぎてはいかんのじゃ。ちなみに、しらたきがお肉を硬くするというのは都市伝説じゃ。
「3行しかないからね」
そうじゃった、神話の改訂版は3行しかないと言うておった。それ、ほんとに神話?
女神は1日で世界を作り
2日目から遊んで暮らし
7日目に人類を滅ぼしましたとさ。おしまい。
「3行どころか、1行にまとまるわね…。どこまでが真実なのかしら?」
「最後の1行だけかな。1万年前に、女神リーザ様が人類を滅ぼしたのは事実だ」
「今の人類は、2週目ということ?そんなこと書かれている聖書もあるけど」
鳥肉のつくねがうまい。だしを吸った白菜も最高じゃ。
「そういうことだよ。その時に、あっちの世界…、仮に天界と呼んでおこうか。天界も再編成されてね。種族を越えて派閥を組むようになった。大きなのは女神リーザ派で、我々もそうだ。対抗しているのは魔女レパード派閥かな。魔王は、1万年前に引退したっきりだけど、今でも魔王派閥はあるね。どの派閥にも、悪魔が居るし、女神や魔女もいるよ。天使だけは中間管理職だから、派閥に属していない」
1万年前に解散総選挙があったという感じかのう。選挙ではないかも知れんが。
「中間管理職?上に居るのは、最初の神なのかしら?」
「天界のトップは1万年間空席のままだよ。だから、派閥争いをしているわけだね。創造神は、人類と一緒に滅ぼされたからね。というより、リーザ様が創造神にむかついたのが、事の発端だと言われているよ」
クリームちゃんが、鍋をぱくぱく食べ始めた。とりあえず、お腹を満たす事にしたんだね。分かります。わしは、最初からずっとそうじゃ。異世界知識とのギャップが大き過ぎてついて行けない。この世界の常識でもそうなんじゃろうなあ。
こいつらが、いかれた話をしていても、女将さんも何も言わないし、周りの客も気にした様子が無い。いつもの中二病扱いなんじゃろうなあ。堕天使が、14歳の外見なのは、理に適っているのかもな。
女神の幼体が6歳児なのは、周りの大人に甘やかしてもらうためじゃろう。中身が1万6歳のおばあちゃんであるクリームちゃんが、くたくたになった白菜を、わしの取り皿に沢山よそってくれた。くたくたの白菜うまい。お肉の味が染み込んでおるのじゃ。
話が終わらなかったので、続きはお風呂ですることになった。堕天使ファイブは誰が何を言っているのか、まったく区別がつかなかったよ。白菜がくたくた派なのは、全員わしと一緒じゃった。