1. 聖なるものに飢えた女神がふたたび蘇るのじゃ
ある日、森の奥深くで、その女神は生まれました。
樹々の合間から穏やかに差し込む陽ざし、
肌を撫でる暖かい風、
耳をくすぐる小鳥のさえずりと川のせせらぎ、
川辺に咲いた小さな花の色どりと香り、
全裸で転がる幼女。
宗教絵画を眺めているようですね。
でもこれば現実なので大事件です。野外に幼女が全裸で転がされているのだから。
転がっているのは、生まれたての女神ですけどね。
メイド服を着た女がやって来て、全裸の幼女を拾いました。メイド服を着ているのだからメイドさんなのでしょう。人を食べちゃう獣が沢山いる森の奥深くで、誰に何を、お給仕するのでしょうか。
生まれたての女神を拾うくらいだから、このメイドもきっといかれているのでしょうね。
生まれたての女神は、人間の幼女の姿をしています。
そこそこ可愛いです。魔女様には遠く及びませんが、だいたいの大人であれば、甘やかすであろう程度には可愛いです。あくまでも、そこそこです。所詮は女神なので。
女神には、異世界の記憶があります。日本という国で暮らす、50過ぎのおっさんの人生を知っています。そんな記憶が、何の役に立つのでしょうね?
天使がやった事なのでしょうけど、天使のやる事は、いつもいい加減ですね。せめて、女の子の記憶を入れてあげるべきです。でも、所詮は天使のやる事なので、言っても仕方ないですね。
この女神は、どんな女神になるのでしょうか?戦の女神なのか、音楽の女神なのか、まさか水の女神?
滅びの女神にさえならなければ、どうでもいいですね。
女神は重要な問題を抱えています。
明日のパンツさえあれば生きていける、と言いますが、今日のパンツすらなければ死んでしまう、ということではないでしょうか。
いくら女神でも、パンツくらいは必要ですよね。
全裸の幼女を小脇に抱えたメイドさんが、森の中を歩きます。
目指すのは、この世界の人々が居る場所です。
パンツをくれる善良な異世界人を探すのです。
川を下流に向かって進んで行きます。
川では、先程幼女が溺れました。メイドが、うっかり落としてしまったので。生まれて5分で死ぬところでした。
まだ、ちょっと濡れています。
森の中で、1人と1匹は、残念な白骨死体を見つけました。
白骨死体は、大人と子供のセットでした。
大人は立派な刀を腰に付けていたので、メイドさんが貰い受けました。刃紋の綺麗な立派な刀です。きっと銘のある逸品なのでしょう。
子供が持っていた短剣は、墓標のかわりに地面に突き立てました。
まるで、伝説の聖剣のようですね。森の奥深くで木漏れ日を浴びてきらきらと輝いています。
金貨と宝石などの財宝がいっぱいに詰まった革袋も転がっていたので、こちらも貰い受けました。
死体剥ぎ、とも言いますね。
でも、遺体を埋葬してお墓を作ったので、許してあげましょう。どうせ、死人に口なしです。どうして、こんなところで力尽きていたのかも分かりません。
この森は、人が来る場所ではありません。
今も、おそろしい獣の唸り声に囲まれています。
彼女達が、森を抜けると。やりました、第1異世界人との遭遇です。
でも、その異世界人はすぐに死んでしまいました。
おっさんなので幼女のパンツは持ってないでしょうから、女神にとってはどうでもいい事でしょうけど。
異世界人は4人居ましたが、全滅しました。おっさんばかりでした。若い男も1人居ましたが、そいつだけは逃げました。あるじを置いて堂々と逃げるなんて、ある意味立派ですね。
おっさん達は、熊に殺されたのです。
後に残ったのは街道で立ち往生する馬車だけです。おっさん達は、この馬車を守って死んだのですね。つらいお仕事ですね。
馬車の中に居るのは、縦ロールの幼女と、縦ロールのメイドです。
どうやってセットしているのでしょうね?縦ロール。生まれつき縦ロールを装備しているのかも知れませんね。縦ロールの崩れた時、彼女達は死ぬのかも知れません。
縦ロールのメイドが馬車から降りてきます。手には包丁を持っていますね。熊の解体ショーが始まるようです。
でも、解体ショーは延期されました。
女神を抱いたメイドが先に熊を倒したからです。
おっさん達のことは見殺しにしましたが、縦ロールの幼女からはパンツが剥ぎ取れそうだったので、助ける事にしたのです。
あっという間でした。メイドは強いんですね。エタナル神社の初代巫女のメイドは、山をひとつ消したという伝説もあるくらいですからね。メイドは地上最強の生物かも知れません。
ふたりの縦ロールは、全裸の幼女に驚きましたが、1人と1匹を馬車に乗せることにしました。
縦ロール達は、ワワンサキまで行くようです。ターマ山を越えて、ワワンサキまで行くなんて、きっとお金持ちですね。
ターマ山は、とても危険なので、越えるには沢山お金が要りますから。
メイド2人が、死んだおっさん達を片づけている間、縦ロールの幼女と、女神な幼女は馬車の中で待ちました。縦ロールの幼女は、自分の明日のパンツを女神様に渡しました。立派な幼女ですね。
なんで全裸なの?
とは、聞きませんでした。
何故ならば、全裸の幼女を担いでいたメイドの刀の柄には、ダモン王国の紋章が刻まれていたからです。しかも、暴力あんぽんたんのダモン王国騎士団のやつです。中でも最凶最悪の近衛騎士団のものです。余計な事を言うと斬り捨てられちゃいます。
そのダモン王国の王族は、みんな死んじゃいました。革命、というやつが起きたので。
でも、王女だけが1人ちゃっかり逃げたらしい、そんな噂があります。ドラゴンより強いと噂の近衛騎士隊長を連れて逃げたそうです。
目の前の幼女は、森の中を全裸でうろついているし、熊より強いメイドさんを従えています。しかもメイドの刀は近衛騎士のものですから、もうこれは確実です。こいつらが、亡命中の王女と近衛騎士なんだわ、縦ロール幼女はそう思いました。
縦ロールの幼女は、クリーム・カステーラ、といいます。縦ロールのメイドは、アン・オモッチです。おやつみたいな主従ですね。
女神は、まだ名前が無かったので、名乗れませんでした。
「わしの名前は、わけあって明かせぬのじゃ」
女神は、誤魔化しました。名前はまだない、なんて言ったら拾われたばかりの猫みたいですからね。
メイドさんに拾われたばかりの幼女ですから、似たようなものですけどね。
でも、亡命中の王女と近衛騎士だから、身分を隠しているんだわ、とクリームは思いました。
クリームは、興奮していました。
だって、王女様が、のじゃロリだからです。
のじゃロリなんて、物語の中でしか見たことありません。まさか、実在するなんて。
こうして、女神は、のじゃロリ王女として、はじめてのお友達と旅を始めたのです。