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恋の巻その七   開戦の音

 城を目指したカンナはすれ違う人の群れに糸を紡ぐようにスイスイと抜けていく、門番の詰所までやって来たカンナはまずジェラルドに会いたいと申し込んだ。

「ジェラルド第二王子に会いに来たんだけど……会えるかしら? あ、もちろんアポは取ってないわよ。いきなり会いに来て驚かせようと思って……」

 まるで町娘の様にいじらしそうに話すカンナ。門番はとりあえず話を上に通してくれた——————どれくらい時間が経っただろうか? 王子も回答も一向にこない。ただ待ちぼうけしているカンナ、ボーっと空を眺めていると騎士隊長らしき男が近寄ってきて言った。

「第二王子はもうお前の顔など見たくはないそうだ! 大人しく帰ってもらおうか? 考えてもみろ……お前が第二王子に何をしたか覚えているだろう? それなのによくもおめおめと顔を出せたものだな⁉」

カンナは不満に思ったがこの手のクレームはお手の物だったので「はいはい……」と切り捨てた。

「そんな大したことじゃないじゃないのよ? 寝込みを襲ったわけでもないし、命を狙ったわけでもないのよ? むしろ勝負を挑んできたのはジェラルドの方じゃない……」

 不服そうにカンナが呟くと騎士隊長の男が反抗するようにこう言った。

「貴様がしたことは不敬罪だぞ! それをわかっていてそのような発言をしているのか⁉」

 ほら来た不敬罪……何かあるとすーぐ、不敬罪不敬罪。カンナは嫌になっていた。身分の違いや貴族だの王族だのに嫌気がさしている……この国の王様に関してはあまり気にしていなさそうではあるが、他の王族みんながそうではない……現にジェラルドがそのいい例である。王族だということに誇りを持っているのか、はたまた傲慢なのかわからないが自分を特別な存在だと認知しているようだし……なかなかに困ったものだ。

「何が不敬罪よ? この国の管理もしっかりできてないのに偉そうにしてるんじゃないわよ。麻薬だの、奴隷だの叩いたらどれだけ埃が出るのかしらねえ?」

 周りに聞こえるように大きな声で言ってやると、騎士隊長もギョッとした表情で思わず叫んだ!

「お、お前は何を言い出すんだ⁉ 我々がそのようなこと認めているとでもいうのか‼ 麻薬など御禁制だぞ。そんなもの扱っている人間が居たら命知らずにも程がある!」

 少しどもっていたが騎士隊長は威厳あるようにしつつ、何も知らないようにしている……騎士団長のあずかり知るところではないのかもしれないが、この国の警備を担っているのだ。知らなかったでは済まされない。

「あら? 取引現場でも押さえたら捕まえてくれるんですか? でも、どうせ偉い人に言われてすぐ解放しちゃうんでしょ? それじゃあこの国の警備も底が知れてるってものよねぇ。魔王軍と戦う事でいっぱいいっぱいなのかしらぁ?」

 惚けるように言うカンナに騎士団長は真っ赤な顔をして、こう怒鳴った。

「貴様‼ 我々王宮騎士隊を馬鹿にしているのか⁉ 今すぐ貴様を拘束しても良いのだぞ‼ なんだったら今ここで首を刎ねてやろうか⁉」

 なかなか物騒なことを言い出す騎士隊長……まるでジェラルドのようだ。高い位に居る人間は、何故か自分のプライドを傷つけられると逆上する。そんなに言われて悔しいならキチンとルールを守ればいいのに、カンナはそう思いながらもこう返した。

「なら、王様に会わせてもらいましょうか? 出来ないんでしょう? ワタシが王様と会うと何か不都合があるのかしら? どうせジェラルドに言われて会わせられないんでしょ? そのくらい想像の範囲内よ……。それに抵抗できないあなたたちの立場も分かるわ。でもね、公爵でありながら悪事に加担しているジェラルドをワタシは許せない! ワタシの口封じをするつもりならいつでもいらっしゃい‼ 相手してあげるわよ⁉」

 大声での宣戦布告に街の人々もざわざわし出した……これでカンナは狙われにくくなるはず、これで待ちゆく人達が悪事を働いている王宮と噂になるはず。これでカンナが襲われれば、見聞きしていた人間たちからしたら王宮が動いた! と思われるだろうし、そのおかげでカンナは狙われにくくなる。そして噂が広がれば王宮も無視はできないはず……まあ、王様の耳に届くかどうかだが。

「さあ、どうするの? ワタシを捕まえるならどうぞ好きにしてください? その代わり街の人たちはどう思いますかねえ……あなたたち王宮は進む道はもう選択肢はないですよ⁉ それでもワタシを討ち取りますか? 最低限の抵抗はさせていただきますけどね?」

 そう言うカンナの目は本気だった! 最低限の抵抗とは言ったものの魔王軍の幹部を倒したような相手の抵抗となると、その辺の騎士では相手にならないのは一目瞭然だろう……そんなカンナの抵抗を想像する騎士隊長、さらにはジェラルドに行った行為……騎士隊長は背筋が凍る思いだった。

「今日のところは見逃してやるから帰るが良い!私も忙しい身なのだ‼」

そう言って、そそくさと帰る騎士隊長……情けない。男ならもっとビシッとしていればカッコもつくだろうに……。

周りに居た人間はざわざわとしているが、カンナは気にも留めず『居酒屋 トム』へと向かうのであった。


その頃、孤児院ではひと騒動あった……アレクは孤児院の中でモーガンと剣について話をしている時の事だった。「きゃあああぁぁぁっ!」という悲鳴が聞こえてきた! 何事かと思いアレクとモーガンは庭に出てみるとシスターが洗濯物を干しているところを刺客に襲われていたのだ⁉

院長はどうしていいかわからずにオロオロとするばかりだった。シスターは刺客に捕まり首元に刃物を突き付けられている。人質に取られたシスターは大人しくしている……モーガンはすらりと剣を抜くとアレクに隠れているように言った。

「アレクいいかい? 君はここに隠れて出てきてはいけないよ。狙われているのは君自身だと思うんだ……だから目の前にわざわざ現れてやる必要はないよね?」

 そう諭すようにモーガンが言うと、アレクも大人しく従う……自分の置かれた立場がよくわかっている。アレクは物陰に隠れるとモーガンが飛び出す! 不意を突く形になったが剣で斬りかかると、シスターを解放させることに成功した。

「なんだ貴様は⁉ 不意打ちとは卑怯ではないか‼」

そう言う男は黒いマスクにブカッとしたズボンに、まるでサーカス団のピエロのような格好の男が短刀を片手に持ちつつ佇んでいた。

「卑怯と言われようと勝てばいいのさ! 怪しい奴め! そういうお前は何者だ⁉」

モーガンが問いかけるとピエロは簡単に吐いた。

「俺はここに居る奴隷の回収に来ただけだ‼ 大人しくさっさとこの場に連れて来い⁉ さもなくばこの場の人間皆殺しだーっ‼」

 随分とわかりやすい奴である。こんなわかりやすい奴が世の中にどれだけいるだろう? きっと一握りしかいないだろう……モーガンはその一言にカチンときたのか、怒りの表情でこう言った。

「お前はここが何処かわかっていてそんな発言をしているのか⁉ それとも命が要らないのか? どっちだ‼ ここは孤児院だ……身寄りが無くてここにやってくる子供たちを皆殺しにするだと? そんなことは間違っても俺がさせない‼」

正義の味方が言いそうなセリフをサラッと言ってのけるモーガン。恥ずかしくないのだろうか?と、普通なら思うのだろうが何分切羽詰まった状況だそんなツッコミをしてくれる人間はいない。

剣を構えるモーガンにピエロも呼応するようにナイフを構える。

「ショウっ!」

そう叫んでモーガンへと斬りかかる。モーガンはまるで柳の様に身体をしならせ躱すと、続く第二撃を剣で受け止める……そして、受け止めたあとすぐさま攻撃に転じる。蹴りを入れようとするとピエロはジャンプして躱す。流れるような攻撃を見せるピエロにそれを奇麗に受け流すモーガン二人の戦いは長期戦になりそうな予感をさせたが、それは杞憂に終わる。

 それは一瞬の出来事だったピエロのナイフでの攻撃にスッと避け続けるモーガン、攻め疲れをしてきたピエロは動きが鈍くなってきたのを見てモーガンは仕掛ける! 大上段への一撃を放つとピエロは両手のナイフで受け止める……が。

「うおああああぁぁぁっ‼」

モーガンの気合と共に剣はナイフを叩き折るとピエロの頭を叩き斬った。ゴリラ並みのバカ力なのか、はたまたモーガンの気合のなせる業なのかわからないが……ナイフを折るほどの一撃なんてなかなかできるものではない。

 断末魔の叫びをあげる暇さえ与えず、倒れ込むピエロ……シスターは院長の傍でガタガタと震えている。アレクは遮蔽物の陰から出て来るとまだ息の上がっているモーガンの下に向かってくる。モーガンはアレクに近づかないように言うが、アレクは止まらなかった……その直後アレクは猛烈な吐き気に襲われ吐瀉してしまった。それもそうだろう、そこには先ほどまで生きていたであろう人間の死体があるのだ。

 抑えきれずに吐き出してしまったアレクに院長が背中をさすり落ち着かせようとするが、一向に治まらない——————モーガンは子供たちを近づけないようにシスターと院長に指示すると、院長とシスターが子供たちとアレクを連れて院内に駆け込む……返り血を浴びたモーガンは「ぷうっ!」っと、一息吐いて返り血で塗れた顔を拭う。そのままの勢いで髪をかき上げると血で染まった金髪が光で染まっているのがよくわかる。

「ピエロさんよ……相手が悪かったな。俺やカンナじゃない相手なら勝てたかもしれないが、役不足なんだよあんたじゃね。仮にも魔王軍相手にしてるんだ……こんなところで倒れていられないんだよ……」

 そう呟くモーガンはどこか訳ありな感じがする。意味深な一言……役不足、その言葉が虚しく世界に吸い込まれて消えた。


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