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恋の巻その六   動き出すおネエ

 アレクを孤児院に預けると、カンナは一旦宿屋に戻り鏡で自分の顔をチェックした後……下着を変え『居酒屋 トム』にやって来た。トムに入ると手当たり次第にエドワルド・ダービッツについて聞いて回った。

 どうやらエドワルド・ダービッツはこの国の裏社会を牛耳っているようで、国王に隠れて奴隷商や麻薬の密輸なんかをしている危険人物なのだとか。

「どこの国も同じね……腐ってるわ。上層部は何も知らないようだし、この国自体が腐っているというよりも膿を出さないといけないようね」

 そう呟いているとクリスがやって来た……今はクリスと話しているような気分ではなかったのだが、クリスに強引に引っ張られた。事情を説明し解放してもらおうと思ったのだが、クリスは解放してくれない。

「なるほどねえ……そんなことがあったんだ? アタシ、ダービッツ邸に行ったことあるよ。その時は金払いの良い執事さんが対応してくれたけど、本人には依頼成功したって報告の時にも会えなかったんだよね……でも、依頼内容はしっかり憶えてるよ。たしか、荷物の運搬だったんだよ。」

そう話し始めるとクリスは止まらなかった。

「そう考えるとあの荷物かなりきな臭いよね……もしかしたら本当に麻薬だったかもね? そんなに重いものでもなかったし、その割には金払いが良いなって思ってたから。だからそいつが悪い奴だって知ったのは、仕事終わった後だったんだよね……それ以来依頼は引き受けないようにしてるんだよ。もしやばい仕事だったらアタシの身が危ないからね!」

自分の身の安全を確保しつつ冒険者を使うあたりが、なんともせこい手法だと思った……しかしそれが奴らのやり口なのだ。トカゲの尻尾切り……なんとも聞こえのいい言葉じゃないか? 自分たちは甘い汁を吸い続け、楽をして金儲けしつつ疑惑の的にならないように冒険者を使う。気が付かない王様も王様だが家臣の一人くらいは気が付いてもよさそうなものだが、これはもしかしたら家臣の中にも裏切者が居るかもしれないな。

「自分の身が危ないこともそうだけど、この国が蝕まれている事は確かね。クリスたちも危ういんだから……手を貸しなさい。ワタシ一人では手が足りないのよ……なんだったら被害に遭った連中、今付き合いのある奴らも捕まえて数で応戦しなさいな! ワタシはワタシで動くから後は頼んだわよ‼」

そう言ってガタっと音を立て、席を立つ。クリスは「ちょっとちょっとー‼」と言いながらもカンナを解放してくれた。解放されたカンナはその足でダービッツ邸に向かった。外観を見る限りでもお金持ってますみたいな建物は豪華すぎると言ってもいいくらいにデカくて広大な敷地だった……どれだけ荒稼ぎしているのやら。

 カンナは誰も居ないダービッツ邸に向かって、中指を突き立てる。これはカンナからエドワルド・ダービッツに対する宣戦布告だ! 決して暴力で解決するつもりは無い……あくまでも証拠を集め言い逃れできないようにすることが目的だ。状況証拠だけでは逃げられるかもしれない……綿密な計画性を感じたカンナは次に奴隷商の下へと向かった。

 この国でも奴隷は禁止さえてはいない、だからアレクの様に元々貴族でも金になる奴隷として売り出しているのだ。大体は異種族のドワーフだとかジャイアントなんかを奴隷として扱うことが多いが、人間の子供もその対象になる。小児性愛者の好事家は世の中に結構蔓延っている証拠だろう。

 一通り奴隷を見て回ってそれに気が付いた——————この国はやはりどうかしている。王様の知らないところでこんな風に堂々と人身売買が行われているのだ。一度王様と面会して話をする必要があるか……。

 城に向かったカンナは門番に王様と会いたいことを伝えると取り次いでくれた。門前払いも覚悟していたのだが、どうやらその必要はないようだ。しかしそれも杞憂ではないことになる……門番の話曰く、宰相のフィッツ・エラルドが許可を出さなかったらしい。この前の事がジェラルドの件が原因か? 王様とどうしたら会えるだろうか? 何かきっかけが欲しいものだ。

 仕方なく『居酒屋 トム』に戻るとクリスが行列の前で聞き取り調査を行っていた。カンナが言ったことをしっかりと咀嚼し自分のやることを理解してくれたようだ。クリスは聞き取りと共にメモに書き起こしてくれていた……それを横から覗き込んでみると、的確なことが書き込まれていた。

先ずはどんな依頼だったか? そしてどれくらいの報酬だったか? 冒険者を使った依頼はほとんど荷運びが多かった。それをどこに運んだか? それは各々違う場所であったが、同じものが確実に一つだけあった……それは皆一様に声をそろえて言っていた。渡した相手は屈強な海賊風な眼帯をした男であった。

これは確実に手掛かりになるコイツを捕まえれば何かが掴める‼ そう思ったカンナは現在も仕事を請け負っている人間を探してもらう事にした。そうして二時間ほど経っただろうか? 今も仕事を請け負っているというアスターという男に出会った。

 彼は今日丁度その仕事に行く前だという、こんな好機逃す手はない。彼には何も伝えずに依頼をこなしてもらう事にした……何か告げてオドオドされても困る。あくまで自然体でいて欲しいのだ。

 アスターは何事もなく荷物を受け取ると目的の場所まで向かう。カンナとクリスとで後をつけていると、取引の現場に屈強な男が現れた! 噂の男だ‼  カンナは気配を消し裏道を使って背後に回り込む、クリスは置物の陰から覗き込んでいる。

 男は荷物を受け取るとアスターに報酬を受け渡す、一言二言アスターは会話をすると男も今まで何もなかったためか油断して軽く会話をしている。その間に後ろに回り込んだカンナが後ろから胸を揉む! 

「うおっ! なんだ⁉」

カンナは胸を揉みしだき、撫でまわす‼ 鍛え上げられた大胸筋を揉み上げる‼ 揉む‼ 揉む‼ 揉みしだく‼ 次第に相手も脱力し始め崩れ落ちる……今だ! そう思ったカンナは股間を握りしめた⁉

「うぐっ⁉」

 そう呻くと急激に力が入る!

「動くんじゃないわよっ! 動いたらこのまま握り潰すわよ……」

男は黙ってコクコク頷く。

「良い子ね……そう、大人しくしていればアンタの息子は無事でいられるわ。それからアンタの持っている情報を全てワタシに話しなさい……そうすれば優しく解放してあげる」

 大事な息子を握られた男は激しく頷く……それはそうだろう、誰だって自分の身が一番可愛いものだ。

「アンタの後ろに居る男は誰? ワタシが言ってあげましょうか? エドワルド・ダービッツ侯爵。違うなら仰って御覧なさい?」

 息子の心配をしている男はこう言った。

「言えないんだよ! 言ったら殺されちまう‼ 見逃してくれよ⁉ なっ? なっ?」

 この男——————自分の息子がどうなっても良いらしい。ギュッと掴むと男は「あうっ!」と、声を上げた。

「あら? じゃあ、あなたの息子はあの世行きね……これどうしたものかしら?」

と言い、にぎにぎする……こんなにも屈強な男が、こんなに平伏してくれるとは何だか癖になりそうだ。惚けたようにカンナは、しらを切るが男は戦々恐々としている……。

「俺が言ったことは黙っててくれるなら……話しても良い。だが、俺の名前を出されちゃ困る! 本当に殺されちまうんだよ⁉」

 男の名前なんて知らないが……このまま誘導してしまえば、上手く答えに辿り着けそうだ。

「王様の前でも証言してもらいましょうか? それが条件よ! それが嫌なら今後アンタの息子は使い物にならなくなると思ってもらった方が良いわね」

相手に主導権を握らせないためにちょっとした無茶を言ってみるが、相手はこの条件を飲むしか選択肢はないのだ。自分の身が可愛ければ必ず裏切るはずだ!

「わかった! わかったから離してくれよ……」

 ふむ、離してやっても良いがそれで逃げられたら面倒だ。先に吐かせるか。

「で? アンタの飼い主は誰? それが言えないなら……」

ギュッと力を込めると男は大人しく白状し始めた。

「ギャッ! わかったよ⁉ 俺はダービッツ侯爵に仕えてるんだ。侯爵ってもダービッツ卿は功績を認められて爵位を得たんだ……いつの頃からか汚い商売にまで手を広げるようになっちまって、こっちも人が変わっちまったようで困惑してるんだ。奴隷商とも繋がりを持つようになって、より一層悪事に加担するようになっちまって……昔は良い商売人だったんだぜ? だけどいつの間にか金にばかり執着しちまって、俺たちはあくまで指示に従ってるだけだからよ……悪い事をしてるのは自覚はあるが、でも一番悪いのは侯爵だろ? 王様に言いつけるなら侯爵を訴えれば良いじゃねえか⁉ 俺たちは悪くないぜ‼ 荷物の中身だって麻薬だなんて知らなかったんだからよ⁉」

そう言ってふんぞり返る男にカンナは後ろから囁いてやった。

「あらぁ? どうして中身が麻薬だって知ってるのかしらね? 不思議だわぁ? 中身を見た以外に知っているわけがないものぉ……それに王様に会いに行ってみたけど会えなかったのよねえ? どうしてかしらぁ……」

王様に会えなかったのはカンナ自体の行いもあるだろうが、もしかしたらそれ以外の要因もあるのかもしれない。

「それはあれだよ……ジェラルド・フィッツヘラルド公爵がバックについてるからだろうな。第二王子が故に王位を継ぐことは叶わないだろうから、こうやって金儲けのキックバックで良い暮らしをしてるんだろうぜ⁉」

 第二王子が悪事ね…………第二王子⁉ ジェラルドが黒幕ってこと⁉ あの王子やっぱりやることはしっかりやっているのね……。

「そう——————第二王子が黒幕なのね? ありがと! 良い事聞いちゃったわ! それじゃ、アデュー‼」

そう言ってカンナは思いっきり力を込めて握り潰した……手に嫌な感触が残る。それと同時に「ぎゃあああああああああっ‼」という叫びと共に気を失う男、クリスが近寄ってきて様子を窺っているとアスターも近くにやってくる。

「何か手掛かりは得られたの?」

クリスの問いにカンナは「面白くなるわよ……。」と言ってニヤリと笑った。その意味はカンナにしかわからなかったが、何かが起こる前触れなのだと二人は思っていた。カンナは海賊風の男はクリスとアスターに任せると、城に向かって歩き出した。


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