表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

エピローグ   やっぱりこうなる

 王様は一命をとりとめ療養期間としてお休みを頂いている。その間の政務はボルドーに一任された……王様も若くはないので回復力の低下は避けられないものなのだ。

 ボルドーは王様の政治をお手本にし、頑張って治安維持と奴隷商の廃止、それから薬物の輸出入の禁止を言い渡した。そしてジェラルドとダービッツの二人はジェラルドは終身刑、ダービッツに至っては死罪という罪状を言い渡された。二人の差は歴然、魔物と同化したものなど人間の世界に居てはならないという理由が大きかった。それを考慮したボルドーは国民の不安を解消するためにも、死刑を言い渡すのが一番だと思ったのだろう。

 ダービッツは裏からこの国を制圧しようと企んでいたらしく、ジェラルドもその被害者と言っても過言ではなかった……。

 国が安定し始めた一方で、孤児院はというと……モーガンは孤児院のベッドで傷が癒えるまで寝かされていた。

 アレクは庭で子供たちと一緒に木刀の素振りをしている……ボルドーの図らいもあって、ローズマリー家の貴族への復帰が叶ったがこうやって足繁く孤児院にやってきては訓練を積んでいる。ローズマリー家の貴族としての第一歩が孤児院への慈善事業として、孤児たちに剣術を教え職業の選択が広くなるようにすることが目的である。

孤児院での素振りはアレク自身の自己研鑽にも繋がっている。自身の邸宅で家庭教師を雇い剣術の稽古をしているが、それだけでは足りないのだろう……孤児院でも気合の入った声を上げている。

風がカーテンをそよがせモーガンはベッドで座っていた。シスターと一緒に談話しながら盛り上がっている……もうすっかり元気なようだ。カンナは孤児院を訪れると院長が出迎えてくれる。

「カンナさん! ようこそお越しくださいました。先日はご寄付ありがとうございました。」

 先日の寄付というのは、ダービッツとジェラルドの捕縛兼討伐による報酬を受け取ったのだが……自分に必要な分以外はこの孤児院に全額寄付したのだ。子供たちは国の宝というくらいだ、元気に育って欲しいものである。

「まあ、ワタシには宝の持ち腐れなんで……こうやって使ってしまった方が世の為になるんですよ」

 と、謙遜で言うと院長はニコニコしながらモーガンの下へと案内してくれた。談笑しているモーガンとシスターは、こちらに気が付くと会話をやめ、挨拶してくれた。

「やあ、カンナやっと来てくれたのかい? 首を長くして待っていたんだよ?」

 カンナはしばらく冒険者稼業はお休みね……と言って『居酒屋 トム』に引きこもってしまったのだ。どこかお出掛けでもすればいいのに、居酒屋でマイペースに飲み続ける……そんな日々を一週間過ごしたのだ。

「モーガン、もう身体の方は大丈夫そうね」

 シスターが差し出した椅子に腰かけると、談笑が始まった。世間話とかこの前の戦闘についてがメインとなって話していた。

「それであの時はまるで踊ってるみたいで気持ち良かったなぁ……カンナ良ければまたあんな戦いを、魔王軍相手にして一緒に戦わないかい?」

 カンナとしてもそれは願ってもないお願いで、むしろこちらから誘おうと思っていたのに……覚悟していたのに拍子抜けした感じである。

「確かに気持ちよかったわねぇ……ワタシも一緒になって踊っていたから、あまりに心地よくて気分が高揚しちゃったわよ!」

 でも、最終的には二人で勝ったというよりかはカンナの一人勝ちのようなものである。『居酒屋 トム』では最後の良いとこ取りだとか言われたりもしたが、ダービッツを討ち取れたのはカンナのお陰だという事は皆分かりきっていても冗談で言ってくるのだ。

「そうだ! カンナには感謝の言葉を述べなきゃいけないんだった。あのですね? 僕の妹が貴族に亡き者にされたというのは言ったと思うんだけど、その貴族がダービッツだったんですよ。都合よくカンナが仇を討ってくれたんだよ!」

 そう言われてもそれを目的にダービッツを討ち取った訳ではないのだが、感謝してくれてるのだ……一応、どういたしましてくらいは言っておこう。しかし、ダービッツってどれだけ悪事を働いてるんだ! 本当に処刑されて良かったと思える人間で良かった。

「それは良かった……こんなワタシが役に立てたならそれでよかったわ。あ、ここでお礼を言ったことはアレクには内緒よ⁉」

 そう言ってウインク一つ、無かったことにしようとするカンナに。

「じゃあ、これは貸しってことで!」

 そうしてニコニコしているモーガン……そうだ言わなくてはいけない事があったのだ。

「あの、実はワタシモーガンに言わなくちゃいけない事があって––––––」

 そこでモーガンも話があると言われた。何だろうと思ったが、自分の話よりも先にモーガンの話が聞きたいと思ったので先を促すと。耳元に顔を寄せ。

「カンナにはパートナーになって欲しいんだ。同じ冒険者として仲良くできれば良いなと思って……」

その言葉を聞いた瞬間カンナはブワっと毛穴が開くような気持ちなった。喜びで心が満ちていく……こんな気持ちになったのはいつ以来だろうか? 両想いだったなんて……こんな幸せ自分に来ても良いのだろうか?

「で、これは内緒なんだけど……僕、実はシスターの事が好きなんだ」

 一気に血の気が引いていくのがわかった––––––シスターが好き……? ワタシはビジネス上ってこと? ワタシの事が好きになったんじゃないの⁉ さっきの言葉はなんだったの?

 一瞬のうちに様々な考えが浮かんでは消え、カンナの心を翻弄してくれる……大事そうな話をするなら自分じゃなく、直接本人にしろー‼

「……ええ、そうね。そういうことも必要よね……考えておくわ」

 カンナは無理をして笑った。その横顔は寂しさが入り混じっていた……。心の奥底では自分のものにしてやるという手もあるなとか、こんな風にどうせなると思っていた……そんなことを思ってはいるが、果たして自分はどうしたらいいのだろうか? 冒険者としても一個人としても困ったものである。

 そうしてカンナは孤児院を後にすると、『居酒屋 トム』へと駆け込む……正直素面ではいられない。エールを頼むと一気に飲み干す……するとクリスがやってきて一言。

「ねねね、その後どう? 進展はあった?」

 今それを聞くのはタブーである……。

「ああんっ⁉そんなことどうだっていいのよ‼」

ほら、キレた。

「え……? どうしたのそんなに不機嫌なのって、カンナにしては珍しいじゃん?」

突然キレられて意味が分からないクリスは、カンナに事情を聞く。

「実はかくかくしかじかで……」

状況を説明するカンナにクリスは黙って話を聞いてくれていた。

「それはひどいっ⁉ そんなの上げて落とすってやつじゃない……モーガンの奴アタシがイジメてやる‼」

それは是非ともやめていただきたい……今後の冒険者としてのパートナーとしての話が無くなってしまう。それどころかクリスの事だトラウマになりそうなことをしてきそうな予感がする。

「そんなことして欲しい訳じゃないのよーっ! 問題はワタシじゃなくてシスターを選んだってことよ‼ あんなに楽しかった戦いの後に、パートナーとしてって言われたら勘違いしちゃうじゃない⁉ どうしてワタシじゃダメなのよ⁉ しかも耳打ちしてまでワタシにそんな残酷なこと言う?」

 まあ、モーガンには好意も悪気も無かったということだろう。そもそも勘違いしたのはカンナだ……モーガンに非はない。それでも愚痴ってしまうあたりはそれだけ乙女なのだろう……。

「カンナ⁉ アタシ覚悟を決めたよ! 今夜は飲もう! 朝まで付き合うよ‼」

 こうしておネエと女の友情は育まれていく。大切なのは性別ではなく、人としてお互いを尊重できるかという事だ。

「クリス! 朝まで飲むわよ‼ こんなの素面じゃやってられなぁーい‼」

 そう叫んで案の定二人は朝まで飲み続けるのだった……。こんな風に悲しくも切ない日々を送っているおネエが居るのだ。時には涙して、時には大騒ぎしてそんな毎日を、一日一日を楽しんで生きれるこの世界にグッドラック‼


  完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ