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あとで知った記録も含めて、わたしの記憶が曖昧になってくる

 そんなカッコよく、逃げ出せなかった・・・・・


おかあさんの手縫いの刺繡のついたブラとショーツでキメたエッチな身体した17才の女の子ふたりの逃亡劇には、ならなかった。

 わたしは、いったん上がった屋根裏を、上がったときと同じに一人静かに梯子段を降りる。

 

 階下(した)には、おかあさんが待っていた。

 いつからというよりずっと待っている感じがした。おかあさんは待ってるひと。そう、待ってるひとなのだ。お兄ちゃんを、わたしを、彼女さんと一緒のお兄ちゃんを・・・・おかあさんはいつも待ってる箱入り娘、その人生。わたしは、4才からおませな女の子は、それがおかあさんと繋がってる人生・・・・・


 待ってたその顔をしっかりみなくても、他人になった感じは拭い去れないような気がした。学校やコンビニ行くときみたいに、いつものフリース地のトレーナーとバギーパンツを履いて、家を出ようとする。そしたら、「ちょっと、忘れもの」と、おかあさんに呼び止められ、これからのわたしの生活がすべての荷物が詰まったキャリーバックを渡された。


   朝、学校いくのに、「お弁当を忘れてるじゃない」と呼び止められる呼吸で、渡された。


 わたしは家を出た。いつものように学校へいくように、もうけっして戻らない家を出た。出てから「このキャリーバック、おかあさんが怖い家を逃げ出したときと(おん)なじもの」と、聞けばよかったと後悔した。

 後悔したのはその一点だけだった。


 おかあさんの顔に焦げ茶色の竹筒が刺さっていないのは、おかあさんが箱入り娘だからでなく、わたしにとって、おかあさんがおとなりの多田八重子さんよりも遠い存在だったからだ。


 家が遠のくにつれ、家が小さくなっていくにつれ、周りと同じ建売の二階家のつくりで、窓を潰し二階を屋根裏にしている違和感が他の人の違和感と同じように感じられて、わたしはおかあさんのほんとうの子ではないと感じていたモヤモヤが、はっきりしたものとして自分の中に出来ていた。

 

   ほんとうの仔ではないけど、おかあさんが思うおかあさんに一番近い女の子、それが、わたし


 胸の奥の中で、それはしっかり生まれた。

 もう、オッパイで怖がることはない。おかあさんのような大人になってもBより小さく硬い直線の女もいれば、17才でDカップの既に直線よりも曲線のエッチな身体の女の子だっている。ものごころない小さな女の子だったわたしをこの家に連れて来たとき、その小さな女の子が、おかあさんの描くような理想のエッチな身体になって、お兄ちゃんに、屋根裏一面を中国の(びょう)のような赤と金ぴかで飾り付けた中央の鎮座ましましてるお兄ちゃんにぴったりなのかは、分からない。

 でも、わたしのお兄ちゃんは、あの鎮座ましましてる等身大のお人形とそっくりだから。きっと、お兄ちゃんの彼女さんとわたしが身長が2センチ低いのと足のサイズが1センチ小さい以外はそっくりだから、きっとふたりがぴったりなのは、間違いない。

 (びょう)のお兄ちゃんに、エビとアボカドのたっぷりはいってるシーザーサラダが供されてた。

 清拭で背中拭いてもらうための白いハンケチ、お兄ちゃんの人形の掌に掛けられてた。


 わたしがもらった刺繡入りの淡いピンクのブラ、おかあさん、白いハンケチふたつづつを隙間の詰め物にして、毎日この梯子段、昇っていったんだね。金盥に魔法瓶に入れた熱いお湯そそいだら、恥ずかしそうに右腕を背中に廻して、片手でしてもらうみたいにブラとって、詰め物のハンケチを浸し、硬く絞って、瘦せた肩甲骨にそれをあて、私と同じ恍惚を感じてたんだね。





 家を離れ、家並を離れ、いつものコンビニのある区画を離れ、丘まで登ると、一度消えた家並がふたたび現れた。そのどれもが一旦は視界から外れたらか、なんだか同じような別の区画の家並のように感じる。どこを切っても、同じ13年前に、2千万を切って土地付建売りで売り出した物件だ。その中の一軒から漏れるように赤みが膨らんで、外へと漏れ出る刹那(せつな)、一気に瓦解した。火事の原因はおろか、そこに親娘で住んでいた二人の存否(そんぴ)と二階家でなく大きな屋根裏のあった家の中の有様は一切わからないままに記録は作られる。そして、わずかでも、そのことの痛ましさに眼差しを注いでいた人の記憶は遠のく。あとで知った記録も含めて、わたしの記憶も曖昧になってくる。

 口の中の歯が一本抜けるように、穴があいた。


 お兄ちゃんやお兄ちゃんの彼女さんどころか、終わってみるとおかあさんまで、わたしの中の拵えもののような気がしてくる。それでも、エッチな身体した17才のわたしだけ瓦解せずに、残ってるのだ。

 埋火のように・・・・・

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