22.5センチから24センチに変わった白いソックス
お兄ちゃんのコンビニの動線、少し変わった。
月に一度の白いソックスの購入は、22.5センチから、三っつお隣の24センチになった。ホットの一辺倒だったナチョスに、サワークリーム味が混ざるようになった。
ざわざわが、する。
蛇の鱗なんか使わなくても、わたしの本物がざわざわ鳴ってるのが分かる。
厚地のウエットティッシュ
ホワイトニングに配慮したフッ素たっぷりの練り歯磨き
液体系とクリーム系が混じったひととおりの肌おもい商品
それに、たくさんの綿製品。ふつうの日用、お出かけ用、お休み用、羽つき、羽なし、大容量・・・・
そう、生理用品。メンスのためのナプキン。わたしのときよりたくさんのメーカーの製品を買っている。使い始めたしてたころのわたし、三つ購ったナプキンのどれにもユニ・チャームって印字されてたから、ユニ・チャームって英語かフランス語でナプキンのことだと思ってた。いまでは、商品名に隠れて花王とか大きな製紙会社もコソっと出してるのは知っている。
お兄ちゃんは、花王や大昭和製紙も含めて右から左の棚ざらいすべてを買っている。
もちろん、そんな目立つ買い方はしない。付き合ってる彼女さんの言いつけで、お籠もりグッズ買いに来た植物系男子の無味無臭を纏っている。
余韻を残さないよう、一度に買うのは二品までだ。
先週は、右から3番目を買ったから今週は右から4番目と、被らないよう外さないよう名前でなく並べられた位置を数字で覚えている。デリケートなものを頼まれたパートナーのお使いが「だいじょうぶ」なように、コンビニではナプキンとかコンドームとか白い下着なんかは棚の順序を変えずに、置いておく。
お兄ちゃん、彼女さんができたんだ
おかあさんは、それをしらない。知りたくはない。
この家には、娘との二人っきりをずっと押し通してるおかあさん。
お兄ちゃん、3年前におかあさんが屋根裏に上がったとき、「ちょっと、とまっててて」って言って、ぴったり並んで背ぃの高さ確かめた。いまの、わたしよりも、2センチ低い156センチのおかあさんを追い越したその日に、組み合ったら絶対に負けないって体格を見せびらかして「もう上がってこなくていいから」と言い放った。いままでの生活必需品のほか世間並みに貰えるはずのお小遣いを頻繫にせびられ、あの娘に知れたら、世間に知れたらの心配を尻目に「大丈夫だから」の一点張りで頻繫に外出するようになったお兄ちゃんを止められずにいる。
大好きと猫可愛がりに怯えが追加された、おかあさん。
だって、おかあさんは箱入り娘。顔にこげ茶色の竹筒の刺さっていないただ唯一の大人。
こうしたややこしい家族の中で育つ女の子が、早熟なのを、世間の子が幼稚園や保育園に上がる代わりに外の大人の顔見てその人の顔に何通りの役割分担がなされているかを見抜く特殊能力が備わったような成長
を遂げているのを、知らない。
わたしは知っている。この家でおかあさんからお兄ちゃんに権力の委譲がなされたのを。それが、原始の世の中のように暴力で裏打ちされているのを。
おかあさんは箱入り娘。産んだ子供たちが、自分を取り囲むような知恵をつけたり、そのことに怯えたりするのを受けれたりはしない。
体格の大きくなったお兄ちゃんは認めても、その男の子のまたぐらに陰毛が生えてることは認めようとはしない。世間を怖がらずに頻繫に外に出たお兄ちゃんが、原始の世の中のような暴力に裏打ちされた方法で彼女さんにする女の子を見つけたこと、屋根裏に連れ込んで実地の経験から学んだ方法でそこから抜け出さないように抜け出なくて生活できるように一緒に生活するようになったことは認めようとしない。
どんなに肌に刺さってきても、おかあさんはお兄ちゃんの彼女さんは認めようとしない。それは、ちょっとした気遣いや、些細な優しさだけでもできることでも、拾い集めようとはしない。
例えば、若い女の子がご機嫌になるもの。
アボカドと海老の入ったご馳走のシーザーサラダを拵えるときの作る量は増えていない。わたしは好きだし、お兄ちゃんだって好きだから、むきえびの冷凍パック少し多めの量を買えば、ひとり分のかさが増えたことなんか誰も気づこうとしないし、それで済むことなのに、それを拾い集めようとはしない。
反対に、若い女の子のご機嫌斜めになること。
例えば、バスタブの入浴剤を、ラベンダーの香りの嫌いな彼女さんのために変えようとしない。皆んなが入り終わった残り湯に、夜中お兄ちゃんも浸かるようになったけど、彼女さんは、家族でないし、囚われ人|だから、浸かることはご法度。清拭だけだ。
無垢な女の子の半身を裸にして、座らせ、硬く絞ったタオルで、首筋から、肩から、浮き出た肩甲骨を見ながら、その白く真新しい背中をなぞっていく。
女の子のわたしでさえ、いくらでも飾り言葉が浮かんでくるくらいの恍惚。おちんちんがある男だったら、たまんないよね。
でも、お兄ちゃんは気づいてない。箱入り娘のおかあさんじゃなきゃ出てこない無意識ないけずを、気づいていない。
熱いお湯で絞った薄手のタオルは無味無臭でも、清拭ラベンダーの匂いのするお兄ちゃんの掌から零れるラベンダーの入浴剤の残り香が、臭いの何もない屋根裏では鼻をつまみたくなるほど刺さってくる。虫唾がはしって、顔をそむけたくなる。
でも、それは出来ない。お兄ちゃんに許されてる仕草に鼻をつまむのは含まれてはいない。
ただ、涙するだけ。あとは「なにを悲しんでるの、なにが蝕んでいるの」のお兄ちゃんの冷たく呆けた恍惚の微笑みだけ。
どこで、見つけてきたんだろう
きっかけは、やっぱり、ナンパとかなんだろうか。それとも、遅かれ早かれのことだから、はじめっから、有無を言わせず、いきなり二の腕掴んだんだろうか。
細くて、掌の輪っかで、ガシャリと掴めてしまえる二の腕
お兄ちゃんが醸し出すオーラだったら、手錠をかけるみたいにこの男が自分を略取してる現実とのギャップに、思考回路が停止して、家に連れ込まれるまで、屋根裏に押し込められるまで、麻酔がかかったみたいに痛みは、身体に沁みてこないかも。
現場は、コンビニ周辺。
帰るとき、入れ違いに入ってきたロングヘアーの清楚な美人、ううん、もっと幼い感じのツインテールした150センチくらいの年下の女の子。
わたしがそれに気づいたのは、4年前。
22.5センチの足の女の子は、ちゃんと生きて成長もしてるからメンスもあって、足は24センチになるまで成長してる。背の高さは、わたしを追い越して160センチまでいったかもしれない。アボカドと海老の入ってるシーザーサラダはコンビニで買えるけど、腋臭の臭いを隠すのにたとえ柑橘系がお気に入りでも屋根裏でフレグランスは使えない。
家族でないから、囚われの身だから、 清拭だけでやり過ごすしかない。
脇の下や、肘膝の裏側、それといろんな穴の縁はそうなんだけど、見落としがちなのが、耳の後ろ。だってフレグランスつけるの手首とそこでしょ。
こまめに丁寧にするの、お兄ちゃんは、すごく神経つかってる。
そのときにお兄ちゃんの顔、彼女さんからきたハリネズミみたいな竹串に覆われて、目も鼻も口も隠れてしまってる。
また、恍惚に入った。童顔の彼女さんの横顔も、仕上げに入った彫像みたいに、ちょっと、うるんできちゃってる。