二階屋なのに平屋のお家
わたしの家は平屋でとおっていた。
それぞれのお家を建て方で区分する名称があり、わたしのお家が平屋と呼ばれるているのは、これもあとで知ったのだが周りのお家とは違って二階のない一階だけで住んでるお家だというのは、かなり早くものごころがついた時分には飲み込んでいたと思う。
切妻で切った屋根に正面を向いた破風板は、お隣と同じ高さなのに、窓はどの向きにも空けていない。そんな屋根裏の嵩ばかりを上げた贅沢で奇妙な造りの平屋が、わたしのお家だ。
だから、おかあさんは、わたしに、先手をうってきた。
それは、天井の上には関心を向けさせないようにと、幼いわたしに何度も何度も言い含めていった呪文だった。
「いいっ、天井にはネズミがいるの。そのネズミを食べに真っ暗闇でも青い目の光るハクビシンが来るの。お腹のすいたハクビシンは、動いてるおにくだったらなんにでも食らいついてくるからね、とくに小さな女の子の柔らかいあぎに目がないからね」
ハクビシン、はくびしん、ハクビシン
漢字では、誰もしらないけどこんな文字があてられてていた、白鼻芯
小さな女の子だったわたしは、真っ暗で光る青い目であたしのアギに食らいつくハクビシンを恐れた。ハクビシンがどういった顔やかたちかは知らず、引き継ぎられるアギを勝手に首筋や二の腕の柔らかな処だと勘違いしてることなど関係なかった。
4齢の女の子はそういうものだ。
お母さんは、つくり話で4齢の娘のあたまに天井の上への入り口に鍵を掛けて安心した。けれど、つくり話で鍵のかけられた4齢の柔らかなあたまに植えられた種はどんどん成長して、外からは見えないが、ジャックの豆の木の巨木のように雲を割って大空の先までのびていく。
もちろん、おかあさんはそれを見つけずにいる。
ジャックがもらった豆の名前が、カスタノスベルマムという名で、濃い緑色したアボカドの種のように二つに割れて芽を出して、ほっとけば20メートルまでいってから花をつける。
そんなこぶのある二頭筋みたいなのが繫茂するくるいに、カスタノスベルマムは育っていった。
わたしでさえ、そのことに気づいたのは小学校に上がる前になってからだったから、どんなに用心深くててもおかあさんは、そのことに気づきはしない。
小さな女の子はその子の了解など得ずに、身勝手に怪物をつくってしまう。
どんなに用心深くてしていても、それは仕方のないことだ。