(番外編)前世の私①
ながくなったので、いくつかに分けようと思いました。
本編の間にちょこちょこ挟んでいこうかと思います。
どうぞお楽しみください!
カーテンがシャッと開いた。朝日が差し込んできて、私は目を覚ました。
「ふあぁぁ…おはよう。すずさん。」
「あの、お嬢様。スズサンとはどなたでしょう?」
返ってきた声は、記憶とは違うものだった。私はガバッと身を起こした。
そこには、メイド風の服を着た、薄茶の髪と濃茶の目をした少女が立っていた。私は彼女を、見たことがないはずだった。しかし、
「ごめんなさい、マリナ。少し、寝ぼけてた。」
と、彼女の名前がすんなり出てきた。マリナは目を細めてふわっと笑いかけた。
「お嬢様、体調が優れないようでしたら、お部屋で朝食をとられますか?」
・・・できれば、人と会うのは控えたい。今、頭に膨大な情報が入ってくる途中なのだ。変なことはしたくない。
「体調は良好だけど、お部屋で食べたいかな。わがまま言ってごめんなさい。」
マリナは、私の頭を撫でた。
「お嬢様はまだ4歳ですもの。わがままと呼ぶには些細なことですよ。では、朝食を持ってまいりますね。」
マリナが部屋に来るまでに情報を整理しよう。
・私のお母様は亡くなっていること
・お父様はややネグレクト気味なこと
・この家に、私以外の子供はいないこと
・わたしは良く言えば温厚な、悪く言えばどんくさいこと
・私は、あと2ヶ月で5歳になること
・5歳になれば、選定式というものがあり、使える魔法の属性や、向いている職業などをいくつか教えてもらうことができること
・この世界には8歳から10年間通う学園があること
・この世界には魔法があること
・容姿は、かなりいい方で、性格も悪くないため、この家の使用人や、護衛、文官などに好かれているということ
なるほど。いろいろな人に好かれているのは、大変都合がいい。しかも、お父様はネグレクト気味!それなら好きにさせてもらおう。
そう考えていると、朝食の準備が整った。メニューは、バターがたっぷり塗られたパンに、具だくさんのコンソメスープ、そして桃っぽい果物だった。食事中は常にマリナが控えているようで、いろいろ質問してみた。
「マリナ、私の魔力訓練は、選定式後からだよね?」
「はい。そうなっておりますよ。」
「じゃあ、選定式後は魔力訓練をいっぱいしたいから、今のうちに、学園の勉強がしたい。いつかしないと、なんでしょ?」
「まぁ、ご自分から勉強がしたいとは、立派です、お嬢様。それでは、朝食後、ご当主様に教育係をつけてもらうよう、お願いしに行きましょうか。」
「うん!2ヶ月で、10年分できるかなぁ?」
私がそう言うと、できたらいいねって感じの目線を向けられた。
私は今、お父様の執務室の扉の前にいる。マリナが、軽くノックをして中に入った。
「ご当主様、お嬢様からお話があるそうですよ。」
お父様はこちらを見ずに答えた。
「なんの用だ。」
私は思い切って一息に言った。
「学園の勉強がしたいので教育係をつけてください。」
精一杯、丁寧かつ賢そうに話した。たとえ父親とはいえ、侮られてはいけない。昔読んだライトノベルに書いてあった。
お父様は近くで、書類作業をしていた文官に声をかけた。
「ルイド、適当に見繕っておけ。」
「かしこまりました。」
翌日、成人したてだという、薄茶の髪に、濃茶の目をした青年が連れてこられた。私が彼と、マリナを見比べてキョロキョロしていると、青年が、クスッと笑った。
「お嬢様、教育係を務めさせていただきます、センツと申します。見た目でわかると思いますが、マリナの弟です。つい最近、この屋敷に雇われましたが、お可愛らしいお嬢様の噂はかねがね。会うことをを楽しみにしていました。以後、よろしくお願いします。」
センツも人懐っこい雰囲気がある。似たもの姉弟だ。
「こちらこそよろしくお願いします。センツ先生は、私の先生ですので、できれば言葉を崩してくださると嬉しいです。」
「では、お言葉に甘えて・・・さっそく、君にどれくらいの学力があるのか見たいから、この問題を解いてくれるかい?」
そう言って、渡されたのは1枚の紙だった。2ヶ月で10年分終わらせるつもりなのだ。自重は捨てよう。そう思ってスラスラ問題を解く。今更足し引きは簡単すぎる。それに何故か、見たことがない文字なのに読める、書ける。びっくりだね!
解き終わったら先生に渡して、間違えがなければ、また、新しい紙を貰う。その繰り返しだった。何度も繰り返した後に、先生が苦笑気味に話した。
「どうやら君は頭がとても良いらしい。おそらく、文字は絵本を読んでいるうちに覚えたのだろう。数字も、時計でも見たのかな?国の歴史などの知識はないけど、基本的な、かつ身近なものは、教えなくとも十分できている。特に、文学や数学は学園を卒業できるレベルだよ?すごいね・・・」
そういって、私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ありがとうございます!では、足りない知識を埋めるため、教えてくれますか?」
「もちろん。・・・これは、2ヶ月で10年分は本気だな。」
最後にぼそっと聞こえた。
・・・御名答である。自重を捨てた少女の相手は大変だろうけど、頑張ってね!
今日は待ちに待った選定式だ。
・・・やった、やったぁー!
内心小躍りしつつも表情はお嬢様スマイルのままだ。今は、選定式の会場で順番待ちしているところで、次が私の番だ。隣にはお父様がいて、ちょっと緊張する。したいこと、いっぱいあるから、属性は多いと嬉しいなぁ。そんなことを考えていると、私が呼ばれた。
「次、前に来なさい。」
私は転ばないように、とことこと歩いて前に出た。お父様は、私の右後ろにいる。
「この水晶に触れなさい。」
私はドキドキしながら水晶に触れた。その瞬間、七色の光に、会場が包まれた。会場の人々が息を呑むのと、目の前の人から、ものすごいギラギラした視線を感じた。
「この少女は、全属性である。聖女、魔導士、魔術師などの魔力を多く必要とする職業に、向いている。ぜひ、神殿で預かりたいものですなぁ。」
視線から察するに、この人は、おそらく神殿関係者であろう。
その言葉を聞き終わらないうちに、お父様は私を抱き上げて会場から出た。抱き上げられたのが初めてで、びっくりした。
「・・・お前の力はとても利用価値がある。だが、私は、お前を絶対に利用しない。私の父のようになりたくないからだ。これからも、好きに、自由に生きるといい。」
その言葉から、お父様なりの愛情を感じた。分かりづらい。
「ありがとうございます!お父様!」
私は、初めて、お父様に心からの笑顔を見せた。
読んでくださり、ありがとうございます。
次からは、本編を投稿します!
ぜひお楽しみに!!