蝉の摂理
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
本日の話。
あんまりいい事をしたとは思ってません。
通りすがりの狐の嫁入り、枯れて実を付けた向日葵、熱帯雨林の様な湿度だけがしとしとと辺りを包みます。掻いた汗が服に染み込んで、肌に吸い付いて、頭は蝉の音色に任せて、くらり、くらり。
そんな中で私は最後の目的地に向かって歩いておりました。階段を越えると、ただ涼しさだけを含んだ風が頬を撫でました。瞬きをしたその後、梅香の君が相対しておりました。
「いらっしゃい、渡」
「……こんにちは、梅香の君」
「話は向こうでしようか」
梅香の君に誘われるままに私は長椅子の端に腰掛けました。日差しを遮る簾、隣から吹き出す水蒸ミスト、それだけが私を淡々と冷静にして下さいます。
縛らくの沈黙のあと、私は口を開きます。
「此処に来る前に蝉を見たのですよ」
石段に仰向けになって、手足をばたつかせ、懸命に生きようとしている蝉を見たのですよ。だから……大変不躾ながら、傘の先の方でこう、くるっと。腹這いに戻したのです。けれどもその蝉は……また仰向けになってしまいました。何度繰り返しても同じ仰向け。遂には諦めて、私はその場を去ってしまったのです。
梅香の君の表情に目を向けると、黙って手を伸ばし静かに私の髪を人撫でして下さいます。何時もは穏やかな双眸に僅かに咎める光があったのは、私の気の所為ではないでしょう。
「渡、それはいけない。遅かれ早かれその蝉は亡くなっていた。君がしてあげる事は引っくり返すのではなく、次の循環に備えて土へと運んで上げる事だよ。無惨に人に踏まれない様に。それが出来ないならば、最初から関わっていけない」
「自然の摂理、だからでしょうか?」
このお社にも、ミンミン蝉、油蝉、蜩が懸命に鳴いております。けれども今だけは蜩の、夏の終わりを告げる音だけが、脳裏に響くのです。もう終わりなんだよ。あの蝉も、この夏も、全てお終い。そう仰られている様で、私は奥歯を歯噛み致しました。夏の終わりの蝉の死骸は、どうしてこんなにも切ないのでしょう。
梅香の君はため息でもお付になった様に、ふっと少しだけ息を吐き出します。この終わりを嘆く様に。
「そう。食物連鎖、つまり生き抜く事意外では余り関わらない方が良い。ただでさえ、私達が首を突っ込んでしまっているのだから」
「……気を付けます!!」
「渡はいい子だね」
本日の実話です。
仰向けでもがいていた蝉も、傘の先っちょでひっくり返したのも、結局元に戻ってしまったのも、全部。
遅かれ早かれあの蝉は亡くなるし、してあげる事と言えば踏まれない様に、土に還れる様に花壇の中に隠して上げる事くらいだなーと。
周りほぼ石段だったんで、出来ませんでしたけど。
よく自然の摂理って言うじゃないですか。
でも人間は色んな事して首を突っ込んでると思います。
故の温暖化ですしね。
可愛いからという理由で、小動物に手を貸したい気持ちもあると思います。
でもそこで助けなきゃいけない命は、早いうちに命を落とすんだろうなと。
だったら関わっちゃいけないなと。
そんなこんなで過去を思い出し、テレビを見ます。