第7話 準備は怠らず
「よっしゃ! そんじゃ早速」
「待て」
ギルドから出て、すぐにコモレの森へ出かけようとしたら、アントンに肩を掴まれた。
「まずは装備を整えるぞ。お前が特異転生者だと知られたらマズことになる」
「マズイことって?」
「そもそも、特異転生者は一騎当千、いや、それ以上の才能を持った奴らだ。力の均衡が崩れないように各国で管理する必要がある。もし、そんなのをたかがCランク冒険者が仲間に入れているとばれたら……」
「ばれたら?」
「2つの晒し首ができる」
なんの冗談だ?と聞こうとしたが、彼の真剣な顔がその問いかけ自体を冗談に仕立て上げる。
少し自分の格好を見直してみよう。
今、僕の格好は学生服にコートを着た状態。
この世界に学生服や、それに似た服を着た人を見たことがない。
なんとかコートのおかげでギリギリ転生者には思われていないが、春や夏になると、さすがに怪しまれる。
そんなワケで、冒険者向けの武器や防具を販売している専門店にて装備を一新しよう。
ムサシには防御力を上げるために肩当てなどの装具と、店で最も高い剣を買い与えた。
僕は魔法を使いたいので、護身用のナイフと魔法の布で作られたローブを選んだ。
杖も買いたかったが、メルケルから「お前にはもっと良い物をやるから、また今度にしろ」と言われたのでやめておいた。
他にも回復薬など細々とした物を持って行くと総額で金貨10枚と告げられた、が十分足りる。
周囲の反応を見るにこの値段は相当高いらしく、店主は最初冷ややかな目でこちらを見ていたが、キッチリ耳をそろえて出すと下手に出てきた。
しかも、急にタメ口から敬語に変えて。
うーん……複雑な気持ち。
「よっしゃ! 装備も買ったし早速」
「待て」
店から出て、すぐに森へ出かけようとしたら、アントンに肩を掴まれた。
またこれかい。
「今度はなんですか」
「もうすぐ昼だ。飯食いに行くぞ」
「えー」
「いいか、俺たち冒険者にはギルドから課された絶対に守るべき鉄則がある。
1つ、飯はちゃんと食え。
2つ、困ってる奴は助けてやれ。
3つ、格上の魔物に出会ったら、持ってるもの全てを捨ててでも逃げろ。
お前も冒険者を目指すなら、これに従って行動しろ」
「まるで親の言いつけだな」
「ハハハ、確かに。でも、いつかお前達も理解するだろうよ」
結局、昨日と同じ酒場で昼食を取ることになった。
メニューにはたくさんの料理があったが、何故か口裏を合わせてないのに4人全員がステーキセットを頼むことになった。
ちなみに、この店はどちらかと言うとパブとかレストランと言ったほうが良い気がするが、アントンが「酒場」と言って聞かないので酒場という事にした。
「そうだ、コウとムサシに私からプレゼントがあるんだ」
ついさっき運ばれた肉を全力で咀嚼していると、メルケルが声をかけてきた。
彼が僕らに渡した物は、手に収まるぐらいの大きさをした白い宝石だった。
「なにこれ、これを売って金を作れってこと?」
「違う、こいつは魔法石、もしくはジェムとも呼ばれている。私たち冒険者がとても重宝している代物だ」
「1000個集めたら10連ガチャができるとか?」
「それこそ違う。こいつは……いや、森に入ってから説明しよう。こういうのをお前たちは百聞は一見に如かず、と言うんだったか」
「おっ、ことわざじゃん。ミソラって人から聞いたのか」
「まあな、とにかく食い終わったらすぐに森へ行くぞ」
ふー、食った食った。
にしてもステーキの量のゴリ押し感ハンパなかったな。
まさしく質より量を体現していたし、今度はもっと旨い物が食いたいな。
さて、それはともかくとして。
「スクロールコピー」
僕の手の中にスクロールが出現した。
もちろん自分のではなく、アントンのものだ。
スクロールコピーの呪文を使うにはスキル『スクロールマスター』が必要になる。
これによってスクロールに関するいくつかの呪文を覚えることができるので、スクロール所持者には必須とも言えるスキルだ。
これで残りのSPは97ポイント。
まだまだ余裕だ。
さて、アントンのスクロールを覗いて見よう。
個体名:アントン・ヒルデスハイマー
種族:人間
能力値:▼
生命力:105
魔法力:15
抵抗力:90
攻撃力:70
精神力:85
レベル:15
所持スキル:『スクロールマスター』『痛覚遮断』『強靭』『根性』『肉体強化』『全力』『全魔法耐性Lv.2』『物理耐性Lv.2』『状態異常耐性Lv.2』
所持スキルポイント:3
実績:『超生命力』『魔物殺し』
へえ、Cランク冒険者ってこんな感じになるのか。
アントンのビルドは正しくタンクという言葉がふさわしい。
耐性系のスキルや耐久力のあるスキルを取りつつ、魔法系のスキルが一切無いというのはある種の美しさすら感じる。
ムサシのスキル構成もこんな感じにしようかな。
「なあ、森に行く前にムサシにスクロールを発行してあげたいんだけど」
「いいぜ」
「よっしゃ! そんじゃ早速」
「待て」
でしょうね。
「ただし、発行には金貨50枚が必要だ」
「え、そんなにかかるの?」
「まあ、冒険者になれば金貨10枚ぐらいには割引されるがな」
「そうか。じゃあこのクエストを早く終わらせないとな」
金貨10枚程度ならすぐに払えるし、何ならこのクエストの達成報酬から引いてもお釣りがでる。
ムサシにはレベルが上がらない僕の代わりに戦って欲しいので、スクロールの発行は現状最も優先順位の高い事項と言える。
歩いていると段々と目的地が見えてきた。
町の玄関から見える森からは、どんな危険があるかわからない不気味さを醸し出していた。
最初にいた時に感じた印象はすっかり消えてしまったが、魔物が大量にいる森ならばむしろ当たり前と思うべきだろう。
さあ、クエスト開始だ。




