第6話 最初の壁
「おい、カリーナ、これはどういうことだ?」
紙に一通り目を通していると、アントンが僕の言葉を代弁した。
あの受付の人、カリーナって名前なのか。
「私もよくわかりません。支部長に承認のハンコをもらいに行ったら、いきなり紙に何か書き始めて、これを渡してくれって言われたんです」
「チッ、俺が直接文句言ってくる」
よし、冒険者採用試験とやらについて書かれた紙を読み終えたので、あいつらにも説明してあげよう。
「待てアントン、これはあながち悪い話じゃない」
「どういうことだ?」
「書かれている内容を要約するとつまり、Bランク相当の依頼書をクリアしたらBランク冒険者として始められる、らしい」
「なんだって!」
アントンとメルケルがめちゃくちゃ動揺している。
一気にランクアップできるなんてラッキー、と思ったがそんなにヤバイのかな?
「メルケル、おまえが覚えている中で1番簡単そうなBランクのクエストはなんだ?」
「確か、巨大な殺人植物の駆除とか、馬鹿デカい洞窟の調査とか、時間がかかるクエストほど簡単なイメージがあるな」
「そうだな。だが、あくまでBランクの中では比較的簡単という意味だ。正直、俺たちCランク冒険者は、徒党を組まない限りそんなクエストも達成できないだろうな」
なるほど、確かにこの試験は大型新人でもなけりゃ無理だろうな。
だが、もしかしたら良い感じのクエストがあるかもしれないし、一応見に行こう。
ああ、でもその前に質問してみるか。
「カリーナさん、何故いきなり冒険者採用試験が出てきたんですか?」
「わからないです。でも、もしかするとアレかも」
「アレ?」
「この町のギルドは冒険者の質が低くて、依頼の失敗が全ギルドの中で年間で最も多いんです。それで、少し前にその事を議題に挙げた会議で、私つい言っちゃったんです。新しく冒険者を希望する者には厳しい試験を吹っかけてみてはどうか、と」
このネーチャンが原因かよ!
うん、まあ、でも、それだけ行き詰っていたとも考えられる、かなあ?
「ところで、このパンフなんですけど」
「ああ、前にミソラさんが作った……」
やっぱり、転生者が作った物か。
カリーナさんは「やっちまった!」と言わんばかりに口を手で塞いだ。
でも遅い、この場にいる全員が聞いてしまったのだから。
「カリーナ、俺はそんな話聞いたことないぞ、なぜずっと黙っていた」
「……ごめんなさい、ミソラさんに口止めされてたんです」
「1から10まで話してもらおうか」
「はい……2年前、ミソラさんが2人とパーティーを解消した直後あたりに、このギルドに忘れ物を取りに来たんです。その時、彼に『ぱんふれっと』の作成を依頼しました」
「アイツがそんな依頼を受けたのか?」
「彼は意外と義理堅いんですよ。2人は見切りをつけられたと思い込んでいるのでしょうが、あれもきっと、深いワケがあるんですよ」
「そうか、そういえば……お、おい、コウ」
問答がようやく一区切りついたので、アントンを引き連れてクエストボードの方へ向かう。
彼はまだ何か言いたそうだったが、無言の圧をぶつけて黙らせた。
長えんだよ、話が。
飽きたんだ、僕は。
こちとら、とっとと試験をパスしたいんだ。
んな野郎のことは、後で聞いてくれ。
さて、クエストボードを見る限り、Bランクのクエストは3つ。
だが、僕にはただ1つのクエストだけが目に入った。
その依頼のタイトルは、「急速に縄張りを広げるゴブリンとオークの調査について」
「アントン、昨日の襲撃はギルドに報告したのか?」
「いいや、おそらく報告したのは目撃者の誰かだろうよ」
「そうか」
「その依頼、受けるのか? 時間かかるし、見つかったら山のような数を相手するリスクもあるぞ」
「じゃあ、こっちにするか?」
そう言って、他2つのBランククエストを指さした。
これは時間がかからない代わりに、いかにもヤバそうなモンスターが相手だ。
アントンとメルケルはそれをわかっているのだろう。
渋々といった感じで、僕の提案に首を縦に振った。
「ムサシ、君はどう思う?」
「俺は貴方様の剣、どんな敵であろうと、立ち塞がるのなら切るのみです」
カッコイイこと言うじゃん。
ま、そう創ったのは僕なんだけど。
さて、全員の同意を得られたので、さっそく調査に向かおう。
ギルドの説明によると、目指すはここより東の川を越えた先、つまり、僕が最初に目覚めたあの森、「コモレの森」だ。