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第67話 破天荒のクリスカ

 クリスカ国には、秘宝教の教会が十数程ある。

 その中でも一際大きな教会は「大教会」と呼ばれ、秘宝教の、そして今のクリスカにとっての実質的な中心となっている。


「エルダーエルフ様、どうぞこちらへ」

「はい、ご丁寧にどうもありがとうございます」


 シスターに付いて行き、豪華な石造りの廊下を歩く。

 思い返せば、大変な道のりでした。


 あの日、クリスカ国で暴動が起きた日。

 マナと宿屋で別れた後、私は通信機と小袋だけ持って逃げていました。

 逃げた、と言っても実際は当てもなく右往左往していただけ。

 ただ誰にも会わないよう、走り続けるだけでした。

 中には混乱に乗じて良からぬ事をしている輩もおり、私もそれに巻き込まれかけました。

 ただ、運がいいのか悪いのか、その道中で下水道に落ちて、しばらく誰とも会うことはなくそこで生活していました。

 エルフなので、食事はほぼ必要無く病気にならない体質なのが、不幸中の幸いですかね。

 しかし、大教会に続く下水道を見つけたのは確実に幸運な出来事でした。


「初めまして、エルダーエルフ様。私は秘宝教の教皇キリマです」

「ネリーです。名前で呼んでいただけると助かります」

「歓迎します。この大教会は女王陛下の復権と、過激派への罰を求める者が集まる『女王派』の本拠地です。ネリー様もレオンに狙われているはず。どうかここで身を隠してください」


 純白と金の衣装、そして長く艶やかな金髪、彼女が高い品位と権力を持っているのは誰が見ても明らか。

 教皇キリマ、秘宝教の実質的な中心。

 表立って過激派を非難している者の一人、そして──


「その耳、貴女もエルフなのですね」

「ええ、とは言っても私はハーフエルフ、まだ百年も生きてはいない若輩者です。エルダーエルフのネリー様に比べれば、ちっぽけな存在でしょう」

「そんな事はありませんよ。私もまだ人に自慢できるほどの長い年月を重ねてはいません」

「……ネリー様はとても謙虚なのですね。その姿勢、見習わないといけません」


 なんだか都合よく解釈されたようですが、面倒くさいのでそのままにしておきましょう。

 というか話すのも面倒くさい。

 さっさとお風呂に入ってふかふかのベットで寝たい。

 眠いよ~


「さて、挨拶はこの程度にして、本題に移りましょう」

「はい、シスターからおおまかな状況は聞きました。女王陛下とコンタクトが取れると」

「ええ、この通信機を使って」


 懐から通信機を取り出して、魔力を込める。

 これまで毎日のようにこれを使ってマナとお話しをしていたので、慣れたものです。


「はいはい、こちらマナ。なんか用?」

「ネリーです。主様と女王陛下はいますか?」

「いるわよ。みんな」


 通信機である玉から、周囲の映像が映し出される。

 主様、女王様、アメリ、ムサシ様、良かった。みんな元気そうです。

 おや、よく見たら女王様の髪が短くなっていますね。

 誰かが切ったのでしょうか。


「陛下! よくぞご無事で……」

「まあ、絶好調というほどでもないのじゃがな。妾は先ほど、ルガルバンダに着いたところじゃ」

「では、ルガルバンダから兵力の援助を受けられるようになったのですか?」

「否、まだじゃ。そちらはどうじゃ? クリスカ国は今どうなっておる?」

「では順に説明いたします」


 クリスカ国の現在。

 私もよく知りませんが、あまり良いものではないのでしょうね。

 革命が起きて、女王様が不在となった。

 日常が崩していったのは間違いないでしょう。


「まず、陛下のお城『クリスカ城』が過激派に乗っ取られ、彼らの根城になっています。

 後々説明しますが、恐らく宝物庫の秘宝も勝手に使われているでしょう」

「過激派は今なにをしておる? 民草に被害が及んでいるのか?」

「いいえ、被害報告は特にありません。むしろ…………」

「なんじゃ、申してみよ」

「過激派は積極的に国民の悩みを聞いて、解決に奔走してるようです。

 それも、秘宝を使った強引な解決方法を取っているようで」

「ふうむ、何故そのようなことを?」

「国民から支持を得て、名実ともに王として君臨するためでしょう。

 実際、レオンを頼りにする者も少なくありません。もしかしたら、私たち大教会を頼る者よりも多くの方が……

 このままでは女王陛下の支持率、および今後の政策に多大な影響が出ることでしょう。

 陛下、一刻も早くお帰りを」

「それは出来ぬ。妾はまだ女王として未熟じゃ、この旅を通して強くならねばならぬ」

「そんな、陛下、なぜ……」

「すまぬ。しかし妾にはまだ器が足りないのじゃ」

「陛下、でも、過激派が――」

「聞けっ!!」


 女王様の喝に空間全体に緊張感が走る。

 今の覇気に溢れた声……まるで――


「妾も悔しいが、今はレオンの方が上じゃ。

 革命を終わらせたとして、日常に戻ったとして、民の心が妾に戻ることは無いじゃろう。

 真に革命を終わらせるには、民の信頼を勝ち取る必要がある。

 強くならなければ、母上よりもレオンよりも初代の女王よりも。

 妾にはまだ器が足りないのじゃ」

「陛下……」


 女王様の言葉に、教皇は何も言うことが出来ない様子でした。

 彼女の覚悟を聞いて、軽々に何かを言える状況ではありません。


 ……通信機の向こうから「器がタリんアってこと?」と言う声とすっごいビンタの音が聞こえましたが、タブンキノセイデショウ。


「姫……いえ、女王陛下、成長しましたね。先代女王も誇りに思っていることでしょう」

「この時世で母上の名を出すとは」

「確かに先代女王が過激派の行動に繋がったのは間違いないでしょう。

 しかし、あの方も決して悪人では無いのです。

 先々代の女王陛下も言っていました。『行動力は歴代女王一』と。

 陛下、覚えておいてください。あなたの母親は己の正義に準じて行動していた。

 しかし、平和の為の戦争という考え方を捨て切れなかったのです」

「その話、全てが終わった後でより深く聞かせてもらおう」

「はい、もちろんです」




 ーーーーーーーー




「……久しぶりに暇が出来てな。考えてみれば、こういった記録を取っていない事に気がついたんだ。

 さて、どう話したものか。まずは自己紹介からだな。

 俺はレオン・クリスカ。革命の英雄にして新時代の風を起こす者」


 宝物庫でコレを見つけて、思いつきで始めたのは間違いだったのかもな。

 秘宝「いつかだれかの鏡」見た目は完全に鏡だが、これに向かって話しかけることで、自分の姿と言葉を永久に保存出来る優れものだ。


「俺が生まれたのはクリスカの城下町、ではなくそこからずっと北に行った所にある、小さな漁村だ。

 ああ、俺の故郷に訪れようとするのはやめろ。先代女王、タリア53世によって焼き討ちにあったから、もうなんも残っちゃいねえよ。

 村が焼かれた理由? さあな。過激派のボスを匿っているとか、そんな噓のタレコミがあったんじゃねえのか? 知らんけど。

 そもそもあの女の考えを理解しようってのがそもそも無理だ。なんせアイツはとんだ(秘宝的倫理規定に抵触する為規制)だからな。アイツの娘、今の女王にも全てを知るのは無理だろうな」


 死人に口なしって言葉もある。アイツの悪行は、生きていた痕跡は歴史の闇へ葬られるべきだ。……待てよ、なら何故俺はまだこんなにも怒りが煮えたぎっている? それを発散させようとしている?

 いや、いい。忘れよう。続きを話さないとな。


「俺は焼き討ちにあった村の、唯一の生き残りだったんだ。その時はたまたま隣の村に用事があってな。

 帰ってきたら、ご覧のあり様よ。当時は俺も一緒にって思ったんだが、その時にとある人が現れてな。

 俺に言ったんだ『復讐を終えるまでは死ぬな』ってな。

 その人こそ、過激派の前リーダーで、俺の師匠で、近衛騎士団の元団長で──

 今の女王タリア54世の父親だ。

 ……っと今日はこんなとこにしとくか。また近いうちに二回目をやるよ。

 にしても、結構話せるもんだな。俺には吟遊詩人の才があるのかも、なんてな」


 英雄譚のプロローグを記し終えた俺は、城の地下牢へと降りた。

 地下牢と言ってもそこまで暗いわけじゃない。一応、空の光が入るように設計されているからな。


「よう、調子はどうだ?」

「……」

「最近は吠えなくなったな。もう取り柄だった活力も無くしたか?」

「……」

「なんか言えよ。寂しいじゃねえか」

「……殺せ」


 騎士団団長のロースにもはやかつての姿は無い。

 ただ反抗的な目をこちらに向けるだけだ。

 せっかく生かして捕まえてやったのに、面白くないぜ。


「そういや、女王って今何してんだろうな。尻尾撒いて逃げたか?」

「……女王陛下は、今もお前の首を狙っている。悪には裁きが下る」

「ははっ、やっぱ女王の事になるとムキになったな。

 そんなにあのガキが気になるか?」

「当たり前だ! 私は毎日女王陛下の事を考えているし、毎日女王陛下の護衛をしてきた……こんな状況になるまではな」

「まあ、ずっとベッタリくっついてたよな、お前」

「ああ、女王陛下! 赤ん坊の頃から玉のように可愛くて、成長するたびに可愛さが増していって、陛下の肢体を見るのが私の生きがいで……」

「……そうか、分かった。もういいぞ」

「いいやお前は分かっていない! 私の陛下への愛を! 私は24時間365日陛下のお傍にいたいと考えている! 目に焼き付くほど陛下を見たいと考えている! 毎日陛下のお体を洗ってあげたいと思っている!」

「も、もういい、もういいから」

「陛下の(俺的倫理規定に抵触する為規制)を(社会道徳的倫理規定に抵触する為規制)したいと思っている! 陛下のために(社会道徳的倫理規定にガッツリ接触する為規制)を(モラルがやばい」

「頼む! やめてくれ!」


 こんなん聞いてたら頭がおかしくなる。

 もう行こう、俺にはやるべき事がある。


「はぁはぁ……つい熱く語ってしまった」

「一生口を塞いでいてくれ。あるいは死ね」


 公爵家の娘だからと生かしてはいるが、間違いだったかもな。


「まあ、結論としては、私は陛下に最大限の信頼を寄せている。そして陛下の事を知り尽くしている」

「それはもう、分かった」

「だからこそ、言える。お前は必ず女王陛下に倒される」

「……ハッ」


 なんだ。つまんねえ話だと思っていたが、存外笑えるじゃねえか。


「楽しみだ。俺も待ってるぜ、女王陛下の帰還をよ」




 ーーーーーーーー




「では、今後はこちらでお世話になります」

「はい、よろしくお願いします」


 女王陛下と教皇の会談が終わったあと、私はこの大教会に住む運びとなりました。

 主様達が来るまでひたすらに待ちの時間が発生します。

 さて、私はそれまで何をしましょうか。


「おや? おやおや? 見慣れない美人さんがいますねぇ」


 厳かな教会には似つかわしくない声。

 その方向をみると、どこかフワっとした印象の少女がいました。


「サツキ様、お帰りなさい。ネリー様、ご紹介いたします。

 勇者候補序列二位『大地』のサツキ・イナナエ様。

 この地方の魔物退治を請け負っている方です。

 勇者候補の規律上、人間の絶対的な味方ではありますが人間同士の問題、クリスカ内の革命に干渉することはありません」

「皐月で~す、自由転生者で~す。好きなものは女の子と血飛沫!」


 クセ毛のモコモコした黒髪とたれ目、そして朗らかな笑顔から第一印象はどこかのお姫様のようにも見えます。

 しかし、腰に掛かった剣は彼女が只者ではないことを示しています。


「ネリー様お気を付けください。彼女は女食いで有名ですから」

「そんな節操ない人みたいな言い方しないでくださいよ。

 私一途な性格なんですから」


 これはまたキャラの濃い人が来ましたね。

 まさかこの教会、既に百合の花が狂い咲いているのでは?


「ところで~、ネリーさんって勇者候補のメルルちゃんって知っていますかぁ?」

「いえ、存じ上げません」

「私、メルルちゃんと友達以上恋人未満の関係なんですけど、この間凄い話聞いちゃったんです」

「どういった話なのですか?」

「それが、南の方にある魔物の国しに行くって言い出したんですよ。

 そこの王様の名前が確か、コウでしたっけ」

「…………」

「一応名目は調査ですけどぉメルルちゃん今結構荒れてるから、もしかしたら……

 何人か殺っちゃうかもなぁって」

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