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第65話 道を分かつ、旅の終点

「それじゃ、私は部屋に戻るわ。ちゃんと顔見せに行ってあげなさいよ」

「うん、じゃーね」


 宿屋に戻り、マナと別れる。

 女王は体調が安定しているらしく、マナはその合間に魔法の研究を進めたいらしい。

 暇が出来たら研究、研究、ホント彼女は魔法オタクだね。


「あ、ボス! こっちです」

「アメリ、何か用?」


 女王の部屋へ向かおうとした矢先、ベンチに腰掛けるアメリに呼び止められた。

 足をプラプラと動かし、ナッツを頬張る様はとても御年20歳の方とは思えない幼稚さだ。


「ムサシさんが探してましたが……すれ違いになったようですね」

「そっか。ま、そのうち帰ってくるっしょ。ちなみに、それは?」

「ナッツの蜂蜜漬けです。あげませんよ」

「ちょっとだけちょうだい」

「駄目です」

「一個だけ……」

「嫌です」

「割れたやつでも」

「無理です」

「じゃあもう底の方に溜まったカスだけでも」

「嫌! これは絶対にあげません」


 そう言うと、アメリは残りのナッツをざあっと口の中に詰め込んだ。

 だから子供っぽいっていうか、ケチっていうか余裕が無いっていうか……


「はは、残念」

「……ボスって、私が何やっても笑いますよね。

 というか、いつもニヤニヤしているような」

「ま、笑ってた方が特だしね。それに、アメリと話すのも楽しいし」

「はぁ……そうですか」


 僕はね、にやけ顔が普通なんだよね。

 だから基本的に第一印象は悪くないし、そのおかげか縁も広がりやすい。

 けど、そのせいで真剣さが無いって思われる事も少なくない。


「なんだか、貴方に人が集まる理由が分かった気がします。

 ……羨ましいです。とても」


 いけね、そろそろ女王の所に行かないと。

 マナにどやされてまう。


「じゃあ、僕もう行くね。何かあったら言って」

「はい、では」


 若干心残りがありつつ、アメリと別れる。

 この時に彼女の本音を引き出せていれば、死にかける事も無かったんだけど。



「陛下、失礼するよ」


 ドアをノックし、部屋に入る。

 中は暗く、目が慣れるまで女王がどこにいるは分からなかった。


「コウ、来たのじゃな」

「おはよう、窓開けようか。換気しないと」


 窓を開け、室内に外気と光を取り込ませる。

 女王は光が眩しいのか、窓から目を背けた。


「それで、体調はどう?」

「快方に向かっている。明日には動けるようになるじゃろう」

「そっか、じゃあ明日は馬車でルガルバンダに行こう。

 夜までには着く予定だって」

「ルガルバンダに到着すれば、目的は達成される。

 そうなれば、貴様らとはお別れじゃな」


 そう、確かにそうだ。

 女王は仲間ではなく、護衛対象。

 目的地に着いたら、僕らの関係はそこで終わりだ。

 女王は援軍を手に入れてクリスカ国奪還に向かう。

 その後の事は知らん。干渉する意味も必要もないし。

 まあ、知人として会いに行くのはアリだと思うけど。


「寂しい?」

「……別に。国を取り戻せさえすれば、わらわはそれで良い」

「そっか。でも、またすぐに会いに行くからさ」

「好きにするがよい」




 ーーーーーーーー




 あれから一日、僕らはようやくルガルバンダに着いた。

 思い返してみれば、非常にハードな旅だった。

 魚と戦ったり、魔王と戦ったり、鳥と戦ったり。

 でも、無駄じゃなかった。これもまた良い経験だ。


「だから先刻より何度も申しておるじゃろう、わらわはクリスカ国の女王。

 タリア54世じゃ!」

「はいはい。お嬢ちゃん、国王様に会いたいからって噓はよくないよ」


 さて、王都に入れたはいいものの一つ誤算があった。

 それはクリスカでの暴動が伝わっていなかった事。

 そのせいでこうして王城の前で問答をする羽目になった。


「コウ、貴様からも何か申すのじゃ」

「んなこと言われても……」


 僕が何言ったって変わんないでしょ。

 明確な証拠もないし。

 ここは日を改めるしかないよ。


「なんだ? 何を揉めている」

「ジョセフ様! お疲れ様です!」


 兵士が敬礼をした相手は、意外なことに僕の知り合いだった。

 勇者候補序列二十位、ジョセフ・ガスコイン。

 なんとも因果なものだ。


「やっほー、久しぶり」

「げ、お前らかよ。はぁ……通していいぞ、俺が見張っておく」


 ジョセフは「ついてこい」と言い、城内へ歩いていく。

 その場の全員が一瞬キョトンとしたが、彼の有無を言わさぬ態度に異を唱える者はいなかった。


「……で、何故ここに来た? 用件は何だ?」


 僕らはそこそこ豪華な大部屋に通された。

 ジョセフはそこにあるベッドの一つに腰掛け、単刀直入に聞いてきた。


「理由を説明する前に、まずはこの子。

 クリスカ国の正当なる女王陛下、タリアちゃん」

「タリア54世じゃ。額を床にこすり付け、わらわに敬意を示すのじゃ」


 女王の自己紹介の後、ジョセフは苦虫を嚙み潰したような顔で僕を見た。


「お前は、その、なんだ、本当に……予想外な、男だな」

「どーも」

「ホンモノか? クリスカ国がやべえってのは噂で聞いたけどよ」

「そりゃあ勿論。逆に、僕が偽物を連れてきて何かメリットがある?」

「お前の性格上、裏で何か企てていてもおかしくないだろ。

 一応聞いてやるよ、お前のストーリーを話してみろ」


 えーめんど。とは思いつつも、対話をしなければ信頼は得られない。

 故に、ちゃんと一から十まで説明した。

 途中話に詰まって、神の書庫で思考をまとめて話の組み立てを行ったりもしたが、一応全部話すことはできた。


「なるほど、だから国王様との面会を希望しているのか。

 あの方であれば、本物の女王だとすぐに気づけるだろうしな」

「分かってくれた?」

「ああ、だが面会は不可能だ。何故なら、国王様は今別の街に滞在しておられる。

 お戻りになられるまで、2,3日かかるだろう」

「そっか、じゃあ帰ってくるまで泊めて」

「お前、ホント図々しいな」

「頼むよぉ~僕らマブダチでしょ? ね? ね?」

「マブダチじゃねえ! ……ったく、少しだけだぞ」


 というわけで、今度はルガルバンダに滞在する事になった。

 ま、色々あったしな。特別休暇と思って羽を伸ばすとしよう。


「さーて、僕はしばらく寝るとするか。

 ここ最近ずっと気を張って生活してたし、48時間ぐらい寝るわ」

「私は……散歩でもしますかね」


「わらわは髪を切りたい。そろそろ鬱陶しくなってきたのじゃ」

「じゃあ私が切ってあげるわ。こう見えて、何度か人にやってあげた経験があるの」


「ジョセフ、俺と戦え。リベンジだ」

「いいぜ、ムサシ。お前と戦うと得られるものが多いからな」


 一人、二人、部屋から気配が消えていく。

 眠りに身を任せようとする直後で、ある疑問がよぎった。


「あ、そうだ。ジョセフ」

「なんだ?」

「僕ってさ、人間と魔物どっちだと思う?」

「そりゃ、魔物だろ。お前は魔物そのものだ」


 そっか。


「……けど、良い魔物だと思うぜ。お前には、その、思いやりとかあるからな」


 扉が閉まり、部屋には静寂だけが残った。

 思いやり、か。

 彼の言葉を反芻しながら、僕は眠りに落ちた。




 ーーーーーーーー




「女王陛下、本日はどのようにいたしましょうか?」


 鏡の前に女王を座らせ、諸々の支度が済んだ後、改めて要望を聞く。

 場所と道具を貸してもらって助かったわ。

 髪型を変える魔法はまだ開発してなかったのよね。


「マナのセンスに任せる。あえて言うのであれば、可愛らしい髪型にしてほしいのじゃ」

「オッケー、とびきり可愛くしてあげる」


 やっぱり、この子も女の子なのね。

 ふふ、お願いがもう可愛らしいわ。


 さて、どうしようかしら。

 顔が整っている以上何でも似合うのでしょうけど、そうねえ……


「顔のこの辺りまで切って、ボブにするのはどうかしら?

 前髪もちょっと切って、流してみるのもアリね」

「ふむ、それで良い。頼む」

「ええ、了解」


 位置を変えたり、手の向きを変えたりしながら、慎重に女王の髪を切る。

 何度か経験があるとはいえ、本職の人と比べればその差は歴然。

 そもそもやりたく無かったのだけれど、節約しないといけないのよね。


「それにしても、もうすぐでお別れって考えると、少し物悲しいわね」

「確かにそうじゃな。初めは奇妙な出会いからではあったが、今となってはそれも思い出と定義できるものじゃ。ある種の絆とも言い表す事も出来る」

「今だから言えるけど貴方の事、妹みたいって思っていたの。

 ほら、可愛くて、ふわふわだし」

「一国の女王を妹扱いとは……しかし、不思議と悪い気はせぬな。

 わらわも、今だからこそ貴様に言える事がある」

「教えて」

「わらわは。コウが好きじゃ」


 一瞬、無意識に手が止まる。

 いえ、ソッチの好きじゃなくて、子供の率直な表現なのでしょうね。


「へぇ、そうなの?」

「うむ、クリスカ国の混乱が収まれば直ぐにでも彼を伴侶に迎えたいと考えておる」

「ふぅん……」


 あら、まさか本当にソッチだったとはね。

 コウ、アンタは本当に人たらしの才能があるわ。

 思春期の女の子に意識させるなんて。


「ちょっと判断が早すぎるんじゃないかしら?」

「そうは思わぬ。母上も父上を迎え入れたのは半年も経たぬ頃であったと聞いておるし、早い事は損では無いとわらわは考えておる」

「そ、そう……」


 うーん、何とかしてやめさせた方がいいかも。

 早とちりが過ぎるのよ。せめてもう何年か後、情緒が育つ年齢まで引き伸ばしたいわ。


「でも、あれよ。コウには心に決めた人がいるの」

「それは誠か?」

「ええ、相手は魔物なの。その……少なくとも私が見る限りだと、今は無理ね」

「左様か……」


 ほぼデタラメだけど、許してちょうだい。

 だって、あんなのを引き入れたら絶対苦労するもの。


「なれば、わらわがその者より魅力的になればよいだけの話じゃな」

「えっ?」

「そうであろう。まさか、わらわが諦めるとでも?

 とんでもない、わらわはクリスカの女王じゃ。

 簡単に引き下がるはずがなかろう」


 タリアは、私が思っているよりもずっと前向きな女の子だった。

 そんな彼女の顔みた時、二つの感情が芽生えたの。

 彼女を応援したいって気持ちと、邪魔をしてやりたいって気持ち。


「ねえ……」


 私はその感情に気付いて、自然とこんな事を言った。


「もう少しだけ、大人の階段登ってみる?」




 ーーーーーーーー




「ここは……」


 延々と続く本棚と、光源も無いのに妙に明るい空間。

 そこが「神の書庫」である事にしばらくして気が付いた。

 どうやらまだ頭が回っていないらしい。

 でも当然だ。何故なら僕は寝起きで……待てよ。

 僕は寝ていたはずだ。なんで……神の書庫にいるんだ?


「ようやく見つけたぞ、鼠。この神聖なる書庫で何を嗅ぎ回っていた」


 振り返ると、そこには角と尻尾そして翼の生えた人がいた。

 見覚えがあるような……何処かで会ったか? 

 どこだ? 一体どこで……?


「だ、誰?」

「私は『天光龍サルマ』神の代行者にして世界の調停者、天龍が一柱。

 そして、お前を殺す者だ」

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