表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/67

第62話 足止め

 次の日、僕らはオークキングの厚意でルガルバンダの近くまで運んでもらった。

 近くと言っても、ここから直近の村まで更に歩かなくちゃいけないんだけど。


「この森を抜ければ人間の領土に入る。

 悪いが、これ以上先には俺達は行けない。

 戦争になりかねないからな」

「世話になったよ、ありがとう」

「よせ、俺様なりの誠意だ。感謝なんていらねえよ」


 この魔王、割と仁義は重んじるタイプらしい。

 僕はそういう奴好きだ。

 ぜひとも、僕の国と同盟を組んでいただきたいものだね。


「また来いよ、コウ。次は俺様が勝つ!」

「いや、もう戦いたくないわ。次から僕の部下と遊んでくれ」


 オークキングと彼の部下達に別れを告げ、森の中へと進む。

 旅の終着点であるルガルバンダまでは、あと少しだ。




 ーーーーーーー




「そう……あと少し、なんだけどなぁ」

「仕方ないでしょ。あの子が元気になるまで待つしかないわ」


 あれから三日、僕らは人間の村まで来た。

 旅は順調に進み、後はここから馬車で王都に向かうだけ。

 って時に、問題が起こった。

 女王が体調を崩してしまったのだ。


 看病をしているマナ曰く、命の危険は無いが治るまでは時間がかかるらしい。

 ついでに、急激な環境の変化やストレスが原因とも言っていた。

 ま、子供だもんな。逆に今の今まで普通に動いていたのが奇跡だったんだ。


「ところで、私これから買い出しに行きたいの。

 誰か看病を代わってくれないかしら?」


 マナの言葉に、僕らは顔を見合わせる。


「俺は器用な方じゃない。看病など……不可能だ」

「僕はどっちかというと器用だよ、リンゴの皮むきとかも出来るし。

 看病については……はは」

「そもそも体調管理も出来ない人の方が悪いと思いませんか?」


 僕らの回答に、マナは肺の空気全部を使ってため息をついた。


「しょうがないわね、私が全部やるわよ。

 その代わり、貴方達は別の事をやってちょうだい」


 マナが懐から金貨を一枚取り出す。

 それを、何も言わず僕に渡してきた。


「これなに? くれるの?」

「それが私たちの全財産よ」

「はえー全財産……ぜんざいさん?!」


   お     わ

 お ど   き た

 と ろ ぜ ん さ

 し き ん か れ

 ち す ざ い た

 ゃ ぎ い ち 

 っ て さ ま

 た   ん い


 ってゴミみたいな川柳書いてる場合じゃねぇ。

 急いで全財産を拾わないと。


「ねえ、ホントにこれだけ? クリスカにいた時はもっとあったよね」

「余裕が無かったから置いてきたわよ。

 というか、その金貨だって私のへそくりなんだから」


 そっか、あの時急いでたからなぁ。

 けど金貨一枚って、ちょっと心許ないな。


「さっきも言ったけど、私はこれから買い出しに行くわ。この金貨でね。

 その後宿代も払わなくちゃいけないの、もしかしたら足りないかもしれない。

 そういうわけで、貴方達はお金を稼いできて。

 無理なんて言わせないわよ、私も頑張ってるんだから」

「おいおいおい。勝手に決めて命令するとか鬼嫁かよ」

「だ、誰がアンタの嫁よ!! いいから、動く! 働く! はいゴーゴー!」




 ってな感じで追い出されてしまったので、冒険者組合に顔を出した。

 ここはなんか、寂れている印象。

 見たところ、僕とムサシ以外の冒険者はいない。

 村だし、そもそも冒険者を必要とする場面が少ないのか。

 さて、掲示板にはどんな依頼が張り出されているかな。


「どれどれ……薬草採取に村の警備、あとは危険な匂いのする依頼が二つ」

「主様、これはどうでしょう?」


 ムサシが指差したのは、危険そうな方の依頼書。

 タイトルは、『呪われた武器の捜索と破壊』

 推奨はAランク冒険者以上で、報酬は金貨二枚。

 どうやら、職人が作った武器がうっかり魔物化して逃げ出してしまったらしい。

 なんとも異世界らしい、というか奇想天外な依頼だ。


「今の俺はAランク相当、いえAランク冒険者以上の強さがあります。

 この程度の依頼なら一人でも十分です」

「そ、なら任せるよ。あ、でも一応アメリも同行させておいた方がいいよ。

 捜索なら彼女が役に立つだろうし」

「かしこまりました」


 ムサシは依頼書を取って、受付に向かった。

 さて、それじゃあ僕はもっと危険そうな依頼でもやろうかな。


『特別依頼、人食い怪鳥の討伐。

 最近、人をさらう鳥型の魔物による被害が多発しております。

 ギルドではこれを重く考え、速やかに解決すべき「特別依頼」としました。

 非常に危険な為、以下の制限を設けさせていただきます。

「単独での受注は不可能」「Sランク冒険者一名以上、またはAランク冒険二名以上のパーティーで受注すること」

 ※討伐が難しい場合、必ず撤退してください。調査結果の報告でも報酬を支払います』


 これもまた、とても異世界らしい依頼だ。

 報酬は金貨十枚。ちょっと少ない気もするが、こんな物かな。

 受けたいけど、制限があるし……どうしよっかなあ。


「よこせ」

「え? あ、ちょっと!」


 一瞬の隙を突かれて、持っていた依頼書を奪われてしまった。

 当然納得出来ないので、彼の肩を掴み話しかける。


「ちょっと待てよ。人から勝手に奪うとか無礼だと思わないの?

 てか、そもそも誰だよ。名前を名乗れ、名前を!」

「……俺はレイ。Sランクの冒険者だ」

「そっか! 僕はBランクのコウ! よろしく!」


 若干キレ気味に答え、殴りそうになった右手で握手を求める。

 が、その冒険者はそれすらも無視をした。


「あのさぁ、実力があるとはいえやって良いこ事と悪い事があるでしょ?

 そんな事も分からないの?」


 彼の前に立ちふさがり、再び問いを投げかける。

 こうして正面から見るとよく分かる。

 いかにもクールというか「冷たい男」って感じの風貌だ。


「……俺は、自分の力量も測れないような奴が嫌いだ。

 そういう奴には価値が無い。無論、それらと交わす会話もだ。

 この依頼はお前の力量に合ってない。しかし、俺の力量には合っている。

 どうだ? これで理解できたか?」

「ああ、とっても。けど、文はしっかりと読むべきだ」

「どういう意味だ?」


 僕は依頼書の一文を指差して、彼の思い違いを指摘する。


「ほらここ、単独は不可って書いてあるよ。

 君、どうせそんな性格だから仲間とかいないでしょ」

「…………」

「僕と組まない? さっきまでのは水に流してあげるよ。

 それに、こう見えて魔法は得意分野なんだ」

「お前は何が出来る?」

「攻撃に回復に補助、大体の事は出来るよ。

 ちなみに魔法属性は炎と闇……あ、魂属性ね。どう?」

「……いいだろう、お前と組む。ただし、俺に合わせて行動しろ」

「オッケー、善処するよ」


 こうして、僕はレイという変わり者と一度だけパーティーを組むことになった。

 現役のSランク冒険者ということで、実力は折り紙つきだろう。

 ただ、協調性に難があるのは不安だ。


「それでは、討伐対象について説明をいたします」


 依頼書を渡して僕らのギルドカードを渡すと、案外すんなりと許可がおりた。

 だが、討伐に出かける前に話を聞かないといけないんだと。


「必要な事だけ話せ、無駄な情報はいらん」

「は、はい。えー……現在、人食い怪鳥による犠牲者は五人。

 目撃証言によると、必ず夜に出現し、一瞬で攫い逃げるとされています。

 その為、明確な姿形は判明しておりません。

 分かっている情報は三つ、鳥型の魔物であること、全身が真っ白であること、そして人間よりも巨大であること。これだけです。

 それと、怪鳥の住処は南西の谷にある可能性が高いです。

 討伐の方法や手段は任せますが、無茶だけはしないでください」


 受付の人の説明が終わると、レイは考える素振りをやめて口を開いた。


「……話を聞いていると、グリフォンの特徴とある程度一致しているようだが」

「確かに、グリフォンは巨体の鳥ですし、人を襲うこともあります。

 ですが、全身が白いという証言とは一致しません。

 それに、この地域ではほとんど見かけませんし」

「情報が少ない。討伐対象のねぐらを探した方が手っ取り早いだろうな」

「谷には強い魔物はいませんが、足場が悪いです。どうか、お気を付けて」




 怪鳥が住まうと言われる谷は、村からそう遠くない場所にあった。

 剝き出しの岩、何らかの骨、隠そうともしない魔物の気配。

 全てがこの谷の不気味さに拍車をかけている。


「それで、どうやって怪鳥を特定して倒すの?」

「痕跡を集め、行動を知り、罠を配置して殺す。地味だが確実だ。

 ……あれを見ろ」


 レイは道に落ちてある白い羽を指した。

 恐らく、その痕跡の一つだろう。


「……ふむ」

「随分大きいね。えーと……僕の肩から指先までと同じぐらいか」

「怪鳥の落し物だろう。この付近にいたのは確実だ」

「なら、張り込みを続ければ尻尾をつかめるかも」

「尻尾だけじゃない、全身を掴むんだ。もっと痕跡を集めるぞ」


 なんだか某狩りゲーを彷彿させる作業だ。

 あれは規定量の痕跡さえ集めればモンスターの位置まで行けたけど、現実じゃそう都合よくは行かないか。


「……俺は、怪鳥の正体はグリフォンだと考えてる」

「それさっきも言ってたよね。自信があるの?」

「グリフォンは強い肉体と賢さを持っている。

 Aランク冒険者でも苦戦するほどだ。

 人間を高速で連れ去ることも可能だろう。」

「でも、グリフォンは白くないんでしょ?」

「それについては、心当たりがある。『アルビノ』という単語は知っているか?」


 アルビノ……何処かで聞いた事あるような……ないような。


「アルビノとは『突然変異』の一種で、生まれつき肌や体毛が白い個体の事だ。

 極稀に発生し、その多くは奇異な見た目によって群れを追い出される。

 今回のも、恐らくそれだ」

「怪鳥の正体がアルビノのグリフォン……」

「……まあ、俺も確信を持って言っているわけではない。

 あくまで可能性が高いという程度だ」

「なるほどね」


 多分、当たらずとも遠からずって所だろう。

 流石はプロと言うべきか、推測に説得力がある。


「なんにせよ、まだ羽を一枚取った程度だ。

 特定するためにも、調査を続けるぞ」

「あいあいさー」

「…………」


 道幅の狭い岩場を慎重に歩く。

 若干広い場所に出ると、そこには惨たらしい物体が置かれていた。


「うっ!? こ、これって……」

「……二つ目の痕跡、だな」


 そこにあったのは、人間の……いや()()()()()()()()()()()

 骨と腐った肉が半々で見え、臭いも……これ以上はやめておこう。


「……連れ去られた村人か。

 死んでから数日……即死ではない、嬲り殺されたようだ。

 それに、肉が余りすぎている。食料として運んだ訳では無いのか? 不可解だ」

「可哀想に……」

「自然界は弱肉強食。弱い奴が理不尽に死ぬのもまた自然の摂理だ」

「でも、せめて埋葬してあげよう」

「無駄だ。時間がかかる。体力を浪費する。得るものは何もない」

「でも……」


 僕一人でも弔うつもりだが、レイにも手伝ってもらいたい。

 そう思って彼を見ると、その目は絶対零度のような冷たさを放っていた。


「……お前、転生者だろ。それも最近来たばかりの」

「そうだけど」

「チッ、ハズレを引いたか」


 忌々しそうに舌打ちをすると、レイは僕の胸倉を掴んだ。

 そして、今までで一番感情の籠った声で言った。


「そんな甘い考えで、この世界を生き残れると思うな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ