第5話 2日目
朝の光を浴び、小鳥の鳴き声を聞きながら目を覚ます。
辺りを見回して、いつもの自宅のベットではなく、宿屋のベットで寝ていた事にようやく気付いた。
唐突に異世界転生をして、森を何時間も歩き、魔物を倒して、冒険者と手を組んだ。
そんな物語が、夢ではなく現実であることに今更ながら疑問に思い始めた。
少しだけ自分の頬をつねってみた。
痛かった。
「主様、どうされましたか?」
こいつは、ああそうだ、僕がスキルで創り出した魔剣士ムサシ。
この世界で最初に出会った仲間だ。
「なんでもないよ、それより、冒険者の2人は?」
記憶が正しければ、隣の部屋にアントンとメルケルという名前の冒険者がいるはずだ。
そして、今日は彼らに冒険者組合へ案内してもらう約束を取り付けた……はず。
不意にドアをノックする音がした。
こちらの返事を待たず、礼儀知らずな客人はドアを開け、入ってきた。
「よお、調子はどうだ?」
「ノックしてもしもーしぐらい言って欲しかったね」
「ノックはしたさ、そもそも俺たちは仲間なんだ。最低限のマナーさえ押さえていればいい」
その最低限のマナーがなってないって言いたいんだけど。
ま、アントンが強引な性格なのは昨日、酒場に行って良くわかったから、言い返す気も起きないけど。
「私たちは下の受付前で待っている。準備をしたらすぐに降りてこい」
メルケルも、相方に負けず劣らずの強情っぷりだ。
というか、朝食ぐらい食べさせてくれ。
「いっけなーい遅刻遅刻!」
私、コウ!
今をトキメク17さいの転生者!
あー! あんな所に曲がり角!
イケメンとぶつかったらどーしよー!
「あいつ、いきなりパンを咥えて走り出したが、どうしたんだ?」
「主様はたまにああいった行動をとることがある、自分さえ楽しければ後はどうでもいいんだ」
「そうか、お前も大変だな」
「だが、やる時はやるお方だ。俺はそういう部分を尊敬している」
「……そうか」
宿屋から歩いて10分もしない内にギルドにたどり着いた。
途中、アントンとメルケルから冷ややかな視線が突き刺さった気がするが、まあいい。
見た目からして、3階ほどあるか。
荘厳な大扉を開けると、その外観に見劣りしない内装が僕らの目に映った。
冒険者2人は、あちらこちらへ目移りする僕とそれを追いかけるムサシをスルーして、どこかへ歩いていった。
「冒険者組合へようこそ、お2人とも本日はどうされましたか?」
「あそこの不思議なコンビを、冒険者としてパーティーに加えたいんだ」
「ええ! ミソラさんが離れてから、もう2度と誰もパーティーに入れないと宣言したアントンさんがそんなこと言うなんて!」
「彼らは、信頼できるんだ。だから、彼らの冒険者登録をお願いしたい」
「……わかりました。さっそく諸々の手続きをいたします」
「頼んだぞ……おおい、コウ、ムサシ、来てくれ」
ギルドについて書かれているパンフレットを読んでいると、いきなり呼ばれた。
彼らのいる受付まで歩くと同時に、もう少し読み進めるとしよう。
パンフは全て日本語ではない異世界語で書かれているが、何故か既に知っているかのようにスラスラと読むことができた。
内容はありきたりな感じでギルドとこの建物について書かれているが、1つおかしい部分がある。
このパンフ内のキャラクターに「冒険者ちゃん」という2頭身の少女が描かれているが、これが前にいた世界のある漫画のキャラクターにそっくりなんだ。
聞いてみようと思ったが、先に受付の人から2枚の紙とペンを渡された。
「お待たせしました。ではまず、こちらの用紙にお名前と、宗派をお書きください」
「宗派?」
受付の人が答える前にメルケルが口を開いた。
「冒険者や戦闘を生業とする者は、みなスクロールを持っている。
だが、発行するには何らかの宗派に属して、その宗派の教会にいる発行官に頼む必要がある。
だから、ギルドでも一応聞いてるんだ」
「どうしてもというなら無神論者と書いてもいいが、たいしたこだわりが無いなら『天龍教』と書いておけ。俺たちもそれだから」
言われた通りに宗派の欄に天龍教と書いた。
というか、当たり前に異世界語で書けるんだよな、僕もムサシも。
「……はい、確認しました。それでは、会員証を作成させていただきます。少々お待ちください」
「そういえば、手数料とかは払わなくていいんですか?」
「ええ、すでに見栄っ張りな冒険者さんからもらってますから」
受付の人がアントンを見た。
見栄っ張りな冒険者は不服そうに目をそらして、フンと鼻を鳴らした。
数分ほどして、会員証ではなく1枚の紙が手渡された。
そこには、手書きの文字で最初にこう書かれていた。
「冒険者採用試験について」と。