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第54話 人の性

「む……頭が重い……」


 女王が自身の頭に手を置いて呟く。

 すると、マナが女王に近づいた。


「回復魔法をかけるわ。気休め程度だけど、無いよりはマシでしょう?」


 マナの杖が輝き、女王に魔法をかける。

 ……女王の顔色が良くなった、効果はあったらしいね。


「まだ万全とはいかぬが、先ほどよりはよくなった。

 褒めてつかわそう。」

「ええ、お褒めにあずかり光栄ですわ。女王陛下」


 ホントに思ってんのか?

 なんか口調が噓っぽかったぞ。


「さて、状況の整理をしたいのだけど……女王、僕のこと覚えてる?」

「行商人のコウ、じゃろう。直近に相まみえた者は皆覚えておる。

 ……待て、貴様いや貴様らは牢屋に送りこんだはずじゃ、しかしわらわの前にいるという事は……ふむ、分かったぞ。点と点が線で繋がった」

「あー……何が分かったのでしょうか?」

「貴様らは過激派の仲間じゃな。わらわへの逆恨みを晴らしにきたのじゃろう」

「ハズレ」


 まあ、女王がそういう結論に至るのも分からなくはないけどさ。

 でもバイアスかかった考え方だね、もうちょっと捻れば違うって分かるのに。


「逆恨みしている相手に回復魔法なんて掛けないでしょ。

 死にかけならともかく、見た目上はピンピンしてるし」

「それは……」

「あと、僕らは秘宝国となんの関係もない一般人だよ。

 開放されたら、すぐに商品を持ってトンズラするのが普通でしょ」

「確かにそうじゃな……いやそれでも依然として疑問はある。

 貴様の言い分が正しいのであれば、何故見ず知らずのわらわを助けたのじゃ?」

「それはね、お金が欲しいからだよ」


 行商人なら、相手が女王なら、これが最適解だろう。

 無論、真の理由は別だけど今はこういう下賤な理由が一番納得出来るだろう。

 人間と魔物が共存する国があって~そこの王様で~なんて話しても絶対信用されないよな。


「女王様なんだから、お金はたくさんあるだろ?

 全部丸く終わったら、ちょっとだけ頂戴よ」

「……過激派の者どもに使われるよりは、か。

 良いぞ。貴様らに報奨金を支払う事を、タリアの名において確約するのじゃ」

「やったー」


 とりあえず誤解は解けたし、ある程度の信頼も得ることが出来た。

 んじゃ、話を戻そう。


「それで女王、昨日の事なんだけど」

「わらわも気になっている事がある。

 あの時、わらわは過激派の者に遅れを取り、攻撃を受けてしまった。

 かなりの深手だったはずじゃが……何故わらわは無傷なのじゃ?」


 女王が受けたあの一撃、どう見ても命に届いていた。

 もし救助が上手くいって一命をとりとめたとしても、しばらくは意識不明の状態になっているはず。

 たった数時間で目を覚まして、普通に話すなんて不可能だ。


「僕は何もしていないし、何も出来なかった。女王の身体が勝手に治ったんだ」

「どういう事じゃ?」

「女王が身につけているその指輪、それがいきなり光ってそれから勝手に傷が塞がっていったんだ。

 いや、どちらかと言うと『なかったことにした』という言い方が正しいかもね」


 そう。まさしく時間が巻き戻ったかの様に、なかったことに。

 肉体どころか、血で染まった服やら何やらも元の状態に戻っている。

 あまりにも都合がいい。


「……わらわのこの指輪は、秘宝『避諱の指輪』

 王族にのみ着けることを許された唯一無二の秘宝じゃ。

 母上からはお守りだと聞かされていたが……やはりただの装飾品では無かったか。

「一度だけ生き返る指輪か、初めて秘宝を見たけど凄いね」

「いや……恐らく一度だけでは無い。

 わらわの直感が言っておる、この指輪は着けているだけで何度でも死を偽装出来ると」

「やべーな」


 確かに「一度だけ」なんて誰も言ってない、勘違いしてた。

 でも普通そう思うだろ、ゲームでもそうそう無いぞノーコストで何度でも生き返るアイテムなんて。


「今にして思い返してみれば、過激派の奴らもこの事を見越していたのかも」

「なんじゃと? あやつらは指輪の真実を知っていた、と?」

「ああ、そんな風な発言をしていた。まあ、よく分からんけど」


 なんというか、クリスカ国にはまだまだ秘密が多そうだな。

 過激派、上流階級、秘宝、宗教、そして何度か名前のあがる「先代女王」

 この先に何が待ち受けているのやら。


「ねえ……コウ、そろそろ休まない?

 流石に疲れてきたわ」

「言われてみれば、確かに」


 窓を見てみると、既に夜は明けていた。

 そうか、一晩中動き続けていたのか。


「みんなお疲れ様、一度休息をとろうか」




 という訳で一気に飛んで18時間後。

 充分な睡眠と食事を取った時、もう日は落ちてた。

 時間が経つのは早いね、昨日とは大違いだ。


「あー、良く寝た。この世界に来て初めての昼夜逆転だ。ムサシも休めた?」

「はい、万全です。例えどんな敵が来ようとも、迎え撃つことが出来ます」


 ムサシが背負っている剣を握る。

 覚悟の表れか、と思うと同時にある考えがよぎった。


「そういえば、その『意思を持つ武器』だっけ?

 使い心地はどう?」

「……まだ分かりません。恥ずかしながら、未だに抜けていないので」

「どういう事?」

「実は何度か試し斬りをしようと思った事があるのですが、剣が接着剤で固定された様に抜けないのです。

 まるで剣に『まだその時では無い』と言われているような……」

「ふーん」


 気のせいじゃない? って言いたいけど、表情的にガチなんだよな。

 素人の僕には分からない、剣士としての何かがあるんだろうな。


「とりま女王の所に行こうか」

「はい、ご一緒します」




 女王のいる部屋は、この村で一番高級な部屋。

 そして、この村で一番大きい家屋にある。


「やあ女王、気分はどうだい?」

「不調は無い。今すぐにでも、城に戻れるのじゃ」

「無理だろうね」


 バッサリ切り捨てると、女王が僕を睨む。


「わらわの言葉を否定するとは良い度胸じゃ。

 打ち首がお望みかえ?」

「事実を言ったまで。理由を申してもよろしいか?」

「ふん、聞いてやろう」


 この子、自分が置かれている状況分かってんのか?

 それとも王様ってのはいつも偉そうにしていなきゃいけないのかな?


「クリスカ国に仲間がいてね、さっき連絡を取ったんだ。

 どうやら、過激派が近衛兵団に勝利して城を占拠したらしい」

「……それは些か信じられぬ。あれは我が国の最強部隊、そう易々とやられる道理は無いはずじゃが」

「もしかしてだけど、裏切り者がいたんじゃない?」

「……否定できぬ」


 そもそも過激派のトップが副団長だったからね。

 近衛兵の中に過激派のメンバーが混ざっていた可能性も、なんなら過激派の勧誘に乗った可能性も考えられる。

 というか、そもそも……


「女王、人望ないんじゃ……どれぐらい女王やってんの?」

「わらわが即位したのは四年前、八つの時じゃ。

 母上が神様の下へ行かれてから、わらわなりに努力したつもりなのじゃが……何故このような事に」

「うーん……幼すぎたんだよ」


 12歳の国王とかどう考えても普通じゃない。

 このクーデターも、一概に女王の責任とは言いにくいよな。


「それで、これからどうする?」

「……ルガルバンダという国は分かるか?」

「ああ、場所はなんとなく」

「あの国とクリスカ国は同盟を結んでいるのじゃ。

 今は非常事態であるし、わらわの保護や援助をしてくれるであろう。

 そこまでの護衛を頼みたいのじゃ」

「オーケーやらせていただこう」




 仲間を再度招集し、外に出る。

 最低限の荷物しか持って来ていないので、準備は早く済んだ。

 夜に移動するのは危険だが、女王の強い望みでこうなった。

 曰く「嫌な予感がする」らしい。


「女王陛下、夜分遅くに外出ですか?」

「うむ、わらわ達はもうここを出る。短い間じゃが、世話になった」


 話しかけてきたのはこの村の村長だ。


「陛下、夜は危険です。せめて朝まではここにいた方がよろしいかと」

「わらわはもう決めたのじゃ、立ち止まるわけにはいかぬ」

「しかし……その、我々としては……」

「なんじゃ? 歯切れが悪いぞ。申してみよ」


 あの人、何か隠してるな。

 この状況で留まらせようとするって事は……


「過激派と繋がっている?」

「大当たり」


 村長では無い、誰かの声。

 振り向くと、そこにはレオンと過激派の連中が立っていた。


「やはりここにいたか、女王。

 それに、死んでないってことはあの話は本当だったのだな」

「レオン貴様……ロースはどうした」

「団長か? まだ生きてるぞ、辛うじてな」

「そうか……」


 女王は俯き、呼吸を整えると再びレオンを見た。


「過激派の長、レオンよ。一つ問う、何故クーデターを起こした?」

「……それが俺たち過激派の悲願だから、ってのが一番だな。

 ただ『何故自分の代なのか』って意味なら、最適な機会だったから、と答えさせてもらうぜ。

 先代女王の罪、幼い新たな女王、国民が俺たちに傾くのも当たり前だろ?」

「それでも、わらわに期待をする者もいるはずじゃ」

「いや、いない。それに関してはきっぱりと否定させてもらう。

 お前にアイドル性を見出している奴は一定数いるが、政治的能力を求めている奴なんか絶対にいない。

 そうだな……団長なんかがいい例じゃないか?」

「……わ、わらわ、は」


 女王は絶望したようにうなだれた。

 可哀想に、誰にも期待されていないなんて言われた彼女の心情は計り知れない。

 少しだけ、女王の代わりに反論するか。


「アンタ、恥ずかしくないのか?

 子供相手に精神攻撃とか碌な大人がすることじゃないぞ」

「黙れ。貴様には関係ないだろう。俺は事実を言っただけだ」

「この子も被害者だろ。周りの大人に振り回されて、挙句殺されるなんて。

 そんな事をして表を歩けるのか? なあ、犯罪者」

「黙れ! この俺が、俺たちこそが正義だ!

 革命には、犠牲がつきものだ。お前のような奴には分からない真実があるのだ!」

「……正義とか革命とかは関係ない。単純に、僕はお前が気に入らない」


 分かってはいたが、話し合いを選択してもお互いに悪い印象を持つだけだった。

 でも、やってよかったよ。女王を助けたのは正解だと確信できた。


「約束しよう。君を必ずルガルバンダに送る」


 ムサシ、マナ、アメリに目配せをして言う。


「全員構えろ。突破するぞ」

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