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第50話 取引開始

 秘宝国クリスカで最高と呼ばれる武器屋。

 武器や防具が所狭しと並べられていて、多くの客で賑わっている。

 奥にある工房では職人が作業をしていて、その熱気がこっちまで伝わるぐらいだ。


 さっきチラッと売り物を見てみたのだがオリハルコン製の武器防具はなし。

 ただ、オリハルコン合金なる物質で作られためっちゃ高い剣は見かけた。

 その額なんと金貨40枚。これは僕が泊っている宿屋の数か月程の料金であり、元の世界基準で言えばフルプライスのゲーム百本分ほどだと思う。

 そもそもオリハルコン合金ってなんだよ、とマナに聞いてみると──


「オリハルコンとそれ以外の金属を1:9の割合で混ぜた物よ。

 純正のオリハルコンよりは色んな面で劣るけど、その分リーズナブルな価格になっているの」

「あれでリーズナブル?」

「あなたはオリハルコンがポンポン出るような場所で暮らしていたから知らなかったんでしょうけど、あれって凄く希少なのよ」

「ふーん。それにしても、魔法専攻なのによく知ってるね」

「金属は魔法学の分野でもよく使うの。なら、知識があるのは当然でしょ」


 オリハルコンで合金が作れるなら最初からそうしたのに。

 なんでブラスは教えてくれなかったんだ。

 もしかして、あいつも知らなかったのか?


「主様、買取はあちらのカウンターで行うようです」

「ああ、サンキュー」

「ところで、オリハルコンの延べ棒一本しか持って来ていませんが大丈夫ですか?

 馬車にまだまだありますが」

「今回は査定だけ。買取は、金額によるかな」


 ぶっちゃけ売ること自体はどこでも出来る。

 クリスカ国じゃなくても帝国とか共和国とか、なんなら魔王の国でも良い。

 結論、金さえ貰えればいいんだ。


「ほらコウ、行くわよ」


 マナに連れられてカウンターの前に立つ。

 挟んで向かい側にいるのは、全体的に薄着のまさしく「弟子」って感じの若い男の人だ。


「これを査定してくださいな」


 台の上にオリハルコンの延べ棒を置く。

 弟子っぽい人は、「では」と言ってそれを持った。


「ふむふむ、欠損は無く形も良い。

 鋳型が良いのか、職人の腕が良いのか、あるいは両方でしょうか。

 ところで……これ……何の金属ですか?」

「オリハルコンですね」

「えっ!? おっ、オリハルコン!?

 そんな……いや、確かに……耀きや質感は最高に良いのですが。

 でも…………ちょっ、ちょっと待っててください」


 止める間もなく、延べ棒を持ったまま奥に走り去ってしまった。

 さて、どうしたもんか。


「なんか随分驚いてたなあ、また僕何かやっちゃいました?」

「あの状況じゃ普通は驚くでしょ。というか、コウが何かやったわけじゃないし」

「おっ、そうだな。ブラスにかんしゃー」

「あのクソジジイが持ち上げられるのは……それはそれでイヤね」


 そんな風に他愛ない話をしていると、奥から二人の男が向かって来る。

 さっきまで対応していた弟子っぽい人と、気の強そうな老人。

 こうして見ると、まさしく「師匠と弟子」って感じだ。


「……これを作ったのはお前か?」


 弟子っぽい人ではない方、白い髭が印象的な人が質問をぶつけてきた。


「いいや違う。僕は譲り受けただけだ」

「製作者は誰だ? どこで受け取った?」

「その前に、幾らで買い取ってもらえるかな?」

「む、そうだな……」


 白い髭の老人、師匠っぽい人はカウンターをガサゴソと漁る。

 そして、カウンターの上に白く輝くコインを置いた。


「白金硬貨四枚でどうだ?」

「おお、これは……」


 白金硬貨、それは金貨50枚分の価値を持つ最高額の硬貨。

 その高価さゆえに流通量も少なく、貴族や一部の人間しか持っていない。

 それを四枚……壮観だね。


「これでいいか?」

「ああ、いいとも。ところで……もし、まだあるとしたらどうする?」

「な、んだと?」


 大きく目を見開き驚く二つの顔を見て、思わず口角が上がる。

 ああ、今日は良い取引が出来そうだ。




「ここにあるやつ、全部査定してください」


 という感じで、残りのオリハルコンも持ってきた。

 オリハルコン一つで白金硬貨四枚だから……軽く百枚は超えるかな。


「師匠、これは流石に偽物ですよ」

「憶測で語るな馬鹿者が。見ていろ、すぐに分かる」


 師匠と呼ばれた人は、ポケットから宝石を取り出す。

 そして、その宝石を手に持っている延べ棒に押し付けた。


「こいつは、秘宝『見抜く魔眼』

 色々多機能な秘宝だが、今回はコイツでここにある延べ棒が全部同じ材質か調べたい。

 やってもいいか?」

「どうぞ、気が済むまで」


 師匠がオリハルコンの山に宝石をかざす。

 すると、宝石から近未来的な光が出てきた。

 そう、まさしくSF映画とかにあるスキャナーでピーってやるあれみたいな感じだ。


「おお! カッケェ!」

「解析したら、防犯とかで使えるかもしれないわね。コストは多そうだけど」


 ぶっちゃけ防犯どうこうはどうでもいいから、あの感じだけ再現して欲しい。

 あれ実装出来たらめっちゃカッコイイよな。


「こ、これは……」


 師匠の方に目を戻すと、秘宝を手放して膝をついていた。

 なにか……まずったかな?


「あの、どうしました?」

「る……類似率99.99%……これは……正真正銘の……オリハルコンだ」

「そ、そっか。まあ、僕は知ってましたけどね」


 師匠は、床に手をついてさらに深くうなだれた。

 少し古いかもだが、それこそorzって表現がよく似合う。


「う……うう……」


 師匠はうめき声をあげながら、身体が小刻みに震えていた。

 そして――


「うぅおおおおおおおおおぉぉ!!」


 師匠は体を限界まで反らし、天に向かって絶叫する。

 その声で、そこら辺じゅうの人間が凝視する。

 ……あれ、デジャヴだな。どこかで似た光景をみたような。


「正真正銘っ、オリハルコンのっ、山!!

 素晴らしい! 素晴らし過ぎる!!

 長生きしてて良かったぁー!!」

「し、師匠!? 大丈夫ですか!?」


 ああ、思い出した。思い出しちまったよチクショウ。

 あれは苦い記憶だから、心の奥底でじっとしていて欲しかったのに。


「何故かしら、唐突に悪寒が走ったわ」

「奇遇だね、僕もだ。いやまったく、職人ってのはみんな変人なのかな?」

「何かを極めた人ってのは、きっと頭のネジが数本外れている人なのよ」

「なるほど」


 それから数分経って、師匠の方は咆哮も終わって落ち着いたらしい。

 急に僕に近づいてきて、強引に手を握ってきた。


「ありがとう、本当にありがとう! 旅の者よ!

 これで、夢にまで見たオリハルコンのみを使ったプレートアーマーが作れる!」


 手をブンブン振られることで、全力の感謝が伝わってくる。

 悪い気はしない。でも、褒められる為にこれやったんじゃないんすわ。


「僕は行商人だからさ、感謝は誠意じゃなくてお金で欲しいんだよね」

「ああ、そうだな! 少し待っていてくれ!」


 師匠は満面の笑みで工房の奥へと疾走していった。

 が、すぐに戻ってきた。絶望に満ち満ちた顔で。


「その、すまない……今ウチにあるお金を全部引き出しても全てを買う事ができない。

 半分程度なら買えるが」

「別に全部じゃなくてもいいっすよ」

「いいや、それは駄目だ。もし、ここでそんな中途半端な事をすれば……俺は絶対に後悔する」

「じゃあ、どうします? 言っときますけど、値切りは不可能です」

「ああ、俺だって値切りなんて事したくない。だから、提案があるんだ」


 提案か。現金で払えないとなると、やっぱり物品で埋め合わせる……とかかな?

 武器とかの既製品は間に合ってるし、どうせなら設備とか建築資材が欲しい。

 んー、いや、無理か。流石に馬車で資材は持ち運べない。

 だったら、秘宝が無難なところか。


「提案、とは?」

「女王陛下に、足りない分を補填してもらうんだ」

「ええ?」


 斜め上過ぎる発言に思わず腑抜けた声が出てしまった。

 やっぱり、こういうタイプの人は考えが分からん。


「どうして国のトップがお金くれるって考えてるんですかねえ」

「夢物語というわけでもない、俺は大真面目に言っている」

「はあ、根拠をお聞かせ願いますか?」

「俺の工房は冒険者や一般人だけじゃなくて、城の兵士や女王直下の部隊にも装備を渡している数少ない工房だからな。

 国からの信頼はかなり厚いんだ。

 俺が言えば、検討ぐらいはしてくれるだろう。

 安心しろ、口八丁手八丁でなんとか捻出させてやる」

「じゃあ、それで行くとして……もし失敗したらどうします?」

「そんときゃここにあるモン何でもくれてやるよ。

 秘宝でも剣でも好きに持ってくといい。

 それで足りないならウチの弟子もくれてやるよ」

「それ、人身売買じゃねーか」


 というわけで一旦話は纏まって、今日は解散する流れになった。

 ちなみに、オリハルコンの延べ棒は工房で保管する運びとなった。

 ま、厩舎に放置しとくよりは安全か。




 はい、宿屋に戻ってきました。

 現在はムサシとアメリが帰ってくるのを待ってる最中。

 あと、未だに残っているクリスカパインの処理をしている最中。


「主様、ただいま戻りました」

「ボス、帰りましたー」


 扉からムサシが、窓からアメリが中に入ってきた。

 ここ、一応二階なんだけど……まあいいか。


「……魔力が一回り増えてる」


 マナがムサシを見て呟いた。

 そういえば、マナは相手の魔力が見える『魔力測定』なるスキルを持っていたんだっけ。


「一日でここまで増えるなんて、何をしたの?」

「道場でずっと瞑想をしていた。俺はあまり実感が無いが、強くなっているのか?」

「ええ、体内の魔力が増えるって事は魔法耐性が上がる事と同義だし、貴方は昨日よりも確実に強くなっているわ」


 よしよし、ムサシはいい感じだね。


「アメリ、過激派の情報はもってきたか? 報告してくれ」

「それが……あんまり良い情報収集が無いんですよね。

 明日まで待ってくれませんか?」

「うん、いいよ。何かあったら報告して」

「はーい」


 過激な思想を持つ秘密結社……やはり情報を得るのはそう簡単にはいかないか。

 ま、アメリにはゆっくりとやってもらうか。

 そもそも過激派の情報とか最悪無くていいし。


「さて、こっちの事も報告しとくか。今日は工房に行ったんだけどね――」


 こっちで起きた事を話して、いくつか質問を受けた。

 そのあとは特に何もなかったので、そのまま終わった。

 あ、そうそう。今日もいつもの定例交信をしたんだけど、なんか向こうが大変な感じらしい。


「主様、ブラスがオリハルコンでドレスを作りたいと騒いでおります。

 どうしますか?」

「全力で止めて。今そんな事に使う余裕無いから」

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