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第49話 感情的アピール

 ムサシ、ネリー、アメリがそれぞれの理由で出て、今この部屋には二人だけ。

 僕とマナだけだ。


「なんか、こうして二人きりになるのは……久しぶりね」

「まあ、そっすね」


 マナは少し様子が変だ。

 椅子に腰掛けて手を組んでいるのだが、どこか落ち着きがないというか、ソワソワしている。


「もしかして、トイレ?」

「はぁ、ホントに……もう……なんで男ってデリカシーないのかしら」

「ごめんなさいね、お嬢様」


 よく分からないが、マナのソワソワは落ち着いた。

 理由は知りたいものの、質問したら多分殺されるので黙っておこう。


「それでお嬢様、本日のご用件は?」

「まずその呼び方やめてくれる?」

「分かったよ、マナたん」

「それもイヤ」

「マナちゃん?」

「ちゃん付けは必要ないでしょ」

「マナ……マナ太郎?」

「…………」

「アッ、スンマセン」


 マナはなんというか、委員長タイプなんだよな。

 真面目だし、全員に分け隔てなく接する。

 だからこそ、いじりがいがあるのだ。


「はぁ……用件は、特異転生者についてよ」

「そっか、一つの国に一人いるのが普通なんだっけ」

「ええ、そうよ。もっとも、この国にはいないけど」

「え、なんで?」

「うーん……一から十まで話してもいいけど、それだと飽きるわよね」

「要約してほしいな」


 マナは「分かったわ」と言い、一つ咳払いをした。


「事の発端は三年前。重要人物は当時、龍国ロンティェンに配属された特異転生者『根白 倫華(ねしろ りんか)』と秘宝国クリスカに配属された特異転生者『文詩黒(あやしぐろ) 陽太郎(ようたろう)』この二人よ。

 そういえば、龍国と秘宝国は対立しているのだけど、何故か分かる?」

「宗教だろ?」

「ええ、正解。もっと正確に言えば宗教観の違いね」


 天龍を神の後継者として崇拝する天龍教。

 秘宝を神の残滓として崇拝する秘宝教。

 現在はこの二つが主な宗教となっていて、それ以外は無いといってもいい。


「魔物という共通の敵がいるけど、この二つの国は宗教のせいでバチバチよ。

 余計な敵を作りたくないのなら、覚えておくことね」

「はーい」

「じゃ、特異転生者に戻るわ。

 実はこの二人、恋人同士だったの。それも、かなりアツアツのね」

「へえ、それでそれで」

「数年間交際を続けていたらしいけど、その時のエピソードはよく知らないわ。

 結論を言うと、根白倫華は殺されて、文詩黒陽太郎は殺人犯になったわ」

「なんで!?」


 要約の仕方がえぐい、登場人物と結末だけ言って終わりって。


「私だって真実を知りたいわよ、というか色んな国が血眼になって情報をかき集めているわ。

 とにかくそういうわけで、特異転生者が悪魔になった秘宝国はそれ以来特異転生者を配置出来なくなったの。因みに、龍国の方はもう新しい特異転生者がいるわ」

「割と重い話っすね」

「そうね。とにかく私が伝えたいことは、特異転生者は強いってこと。

 戦闘力という意味だけじゃなくて、国の資産にもなり得るの。

 だからコウ、私と貴方は強力なカード。使う状況を考えておきなさい。

 頭はいいんでしょ?」

「天才ですから」

「私、天才肌より努力タイプの方が好きなのよね」

「じゃあ、努力の天才です」

「ハイブリッドなのね」


 特異転生者、一騎当千の実力。

 それに僕が当てはまっているなんて自覚、これっぽっちも無かった。

 でも実際、僕と僕の従者達にそんな力あるか?

 せめて一騎当四ぐらいだろ。


「そういや、マナは大丈夫なのか? 君も一応帝国に配置されていたんだろ?」

「そうね、今頃は全力で探しているんじゃないかしら」

「じゃあ何でそんなに冷静なんだ?」

「言い訳は用意しているし、それに……あの国には()()()()()()()()()()()()もの」


 二人の特異転生者……それについて質問する前に、扉をノックする音が響いた。


「主様、ネリーです。

 至急確認したい事がございますので、入ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞー」

「失礼します……おや、マナ様もご一緒していたのですね」


 その言葉に呼応するように、マナは椅子から立ち上がる。


「ええ、ちょっとね。私はもう行くわ、まだお夕飯も食べていないもの。

 じゃ、おやすみなさい。この話の続きはまた今度しましょう」


 マナはそのまま、扉に向かってツカツカと歩いていく。


「おやすみなさい、マナ様……明日の朝でよろしいですね」

「うん……」


 すれ違いざま、二人が小声でコンタクトをとっているのが聞こえた。

 よく分からないが、やっぱり質問したら殺されると思うので黙っておこう。


「それで、ネリーはどんな用かな?」

「主様、定例交信は既にしましたか?」

「あ、あれね。ちょうど今しようと思っていたんだよ」


 定例交信というのは、簡単に言えばお互いの安全確認だ。

 僕らと僕の国バベルの者が毎日一回は魔道具で交信する。

 そういう、暗黙の了解的なものが定まっているのだ。

 ……実はネリーに言われるまで忘れていたのは内緒の話。


「ちょっと待ってね、すぐ準備するから」

「主様、つかぬ事をお聞きしますが……私に指摘されるまで忘れていた、わけではないですよね?」

「……」

「主様」

「私はあなたに突かれました。図星」

「自動翻訳みたいな言い回しでごまかさないでください。

 一日でも報告が疎かになると、ジュードや町にいる皆様に心配されますよ」


 ぐうの音も出ない程の正論ですな。

 でも、旅の途中でも交信したけど特に問題は無かったんだよ。

 昨日も特に何もなかったし、今日も何もないと思います。


「これで良し、っと」


 さて、僕はテーブルに交信できる魔道具……通称『魔力通信機』を置いて準備を整えた。

 これは中々に便利で、魔力を送ればいつどんな状況でも相手と会話できる優れものだ。

 因みに、魔法世界あるあるで当然ながら相手の顔も見れるテレビ電話タイプ。

 あと、音質も割と良い。若干くぐもって聞こえるが、昔使ってた激安イヤホンよりはマシだ。


「あーあー、ジュード聞こえるか?」

「はい、ジュード&パンデモンです。ちゃんと聞こえてますよ」

「よしよし、こっちはクリスカ国についた所だ。そっちはどう?」

「バベル国は問題ありません。緩やかにではありますが、町も発展しています」


 パンデモンが返答して、ジュードがたまに頷く。

 これまでずっと繰り返してきた、ある種のテンプレだ。


「ベルはどう? 何か起きてない?」

「主様のお気に入りですか? 食欲旺盛な事以外は問題ないですよ」

「お気に入りって……人のことを女好きの暴君みたいに言うなや」

「はあ、失礼しました」

「ま、いいや。他にはないよね?」

「はい、特には……ん?」


 通信を切ろうとした寸前、魔力通信機の先から近づいてくる足音。

 魔力通信機にもう一人──双子錬金術師の姉の方が見えた。


「やってるね、ちょっと私にも参加させて」

「えー、君は錬金術師の……えー……何の用?」

「その前に、私の名前は言えるでしょ」

「……リック?」

「ティカ! ティカ・メイザース! リックは弟の名前!」

「ああ、ごめん」


 僕と双子錬金術師とはあまり関わりが無い。

 何故なら、直属の上司がマナであり用件が無い限りお互いに接触する機会がないからだ。

 つまり、裏を返せばそれだけ重要な話だということなのかも。


「それでティカ、もう一度聞くが何の用っすか?」

「秘宝国に着いたんでしょ? じゃあ探し物頼まれてくれない?」

「何を探せば?」

「伝説の秘宝『賢者の石』一目見るだけでもいいから」

「それ……もし僕の知識が合っているなら、どんな物質でも作れる万能素材だよね?」

「よく知ってるね。そう、賢者の石さえあれば何でも作れる。

 不老不死の霊薬、エリクサー、大量の金塊……ああ、夢が広がる」

「まさしく、捕らぬ狸の皮算用」


 賢者の石……もし本当にそんな物質があったら、きっとベルを生き永らえさせる薬だって作れるはずだ。

 探してみるのも、やぶさかでないだろう。


「分かった、ついでに探してみるよ」

「多分、あるとしたら王族が持っていると思うの。貰うのは無理だと思うけど、完成形さえ分かれば下位互換は作れる」

「それ……割とすごいな」


 そういう感じで定例交信は終わって、何事も無く次の日を迎えた。




 朝。今日はいつもより早く、ほぼ日の出と同時に起きた。

 因みに、ムサシは僕よりも少し早く起きて道場にいったらしい。

 あいつ本当にストイックだよな。まあ、そういう性格にしたのは僕なんだけど。


「コウ、起きてる? 入ってもいいかしら?」

「まだ眠っているよ。鍵はかかってないよ」

「そう、ずいぶんはっきりした寝言を言うのね」


 軽口を叩きつつ、マナが扉を開ける。


「その、おはよ」

「マナ……もしかしてイメチェン?」


 マナを見てすぐに変化に気付いた。髪型が変わっている。

 いつものストレートヘアーから、三つ編みになっていたのだ。


「ちょっと、ね。ど、どうかしら?」

「え? うーん……良いと思うよ」

「もっとないの?」

「もっと? あ! 可愛い、可愛いよ!」

「そうじゃなくて……」


 あれ、違うのか。

 前に「可愛い」って言ったら照れてたから、そういうのを期待していたのかと思ってたけど。


「そもそも、なんでイメチェンしたんだ?」

「それは、その……コウが……髪型……好きって……」

「え、何? 僕のことが好き?」

「はあ!? そんなわけないでしょ!!

 勘違いしないでよね! アンタの事なんか、ぜーんぜん好きじゃないんだかね!!」


 すげえ、こんなコッテコテのセリフを生で聞けるとは思わなかった。

 ツンデレ……とは思えないな、逆に。


「ああもう、いいわよ。

 とにかく、今日は売買をしに行くんでしょ?」

「うん、行こうか」


 会話を終えて、僕たちは廊下に出る。

 そのまま外に出ようとしたのだが、前を歩いていたマナが急に立ち止まって言った。


「あの……部屋での事は……忘れて」


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