第4話 新たな仲間、再開を夢見て
「よし、じゃあ場所を変えるか。ここはお前たちにとっても都合が悪いからな」
僕が固まっている姿を見て察したのだろう。
アントン……さんが声をかけてくれた。
案内されたのは、建物と建物の間にひっそりと佇む路地。
人がすれ違うことができるかどうかの狭いスペースをただ黙々と進んで行くと、いつの間にか広い空間に出ていた。
まあ、広いと言っても路地より広いという意味だが。
心なしかアントンさんとメルケルさんが、ここに来た瞬間に安心した様に見えた。
その証拠に、2人とも置かれている木箱の上に我が物顔で座って、くつろいでいる。
それにしても、この路地裏は不思議だ。
区切られた空間に4人もいるにも関わらず、何故か、寂しさと疎外感を感じる。
ここはもしかしたら、都市開発によって生まれた「いらない場所」なのかも。
そう思うとなんだか……
「そんじゃ話を戻すか。まず、なぜ俺がお前を特異転生者だと見抜いたかだが」
おっと、ノスタルジックな気分に浸っている場合じゃなかった。
この人から情報を引き出さないと。
「僕がこの辺りでは見かけない服を着ているから、とか?」
「ああ、それもある。だが俺が確信した理由は『スクロールコピー』」
そう呟いた直後、アントンさんの手の中に僕が持っているスクロールと全く同じ形の物が出現した。
彼がそれを一通り吟味した後に、こちらへ見せた。
そこには、個体名や能力値などが、僕の持っているスクロールと全く同じように書かれていた。
「これって……」
「そう、これはお前のスクロールをまるごと複製した模造品。そして、『スクロールコピー』はそれを実行する魔法だ」
まさかこんな早くに身バレするとは。
この世界プライバシー保護法とかないのか? ……無いんだろうな。
「もしかして、スクロールは誰でも持っている必需品なのか?」
「いや、そうじゃない。
スクロールは普通、教会に行って発行してもらうんだ。
ただ、発行してもらうには大量のお金が必要で、到底一般人には手が出せない」
「ふむふむ」
「それで得られるのは自分の強さが分かることと、ほぼ戦闘にしか使えないスキルが獲得出来る権利だけだから、余計に持っている人が少ない。
つまり、スクロールを持っている奴ってのは職業が絞られるんだ……おまえのような転生者は例外だけどな。他に質問は?」
もうこの際だ、気になってる事全部聞いてしまおう。
「転生者について教えてほしい」
「OK、得意分野だ。
まず、お前たちのように異世界からやって来た者は『特異転生者』と『自由転生者』の2つのパターンに分けることができる。
共通点から話すが、1つはスクロールを最初から所持していること、そして2つ目は定期的にお前たちがこちらの世界に送られてくること、最後に3つ目、始めから膨大な量のスキルポイント、略してSPを持っていることだ」
「ああ、そういえば消費量に対してSPが多すぎると疑問だったんだ」
「SPは生まれた時に1ポイント、レベルが1上がるごとに1ポイントだからな、異質だと思うのは当然だ。
ただその代わりに、特異転生者はレベルが上がらないし、自由転生者はレベルは上がるがSPが貰えない制約があるんだ。
ちなみにそれが両者の違いの1つ目で、2つ目が特異転生者だけ専用のスキルが与えられる事だ。
……まだまだあるが、取り敢えずここまでで区切りをつけよう。
残りは必要になったら教えてやる」
「回答どうも、ずいぶんと詳しいんだね」
「……まあな」
あの口ぶりからすると、転生者はそれなりにいそうだ。
是非会ってみたいな、特にゲームとかアニメが分かる奴と。
「レベルが上がるメリットって?」
「能力値が上昇するんだ。ああ、能力値ってのは戦闘における強さの事な。
それと、SPの獲得手段がこれしかない。
レベルを上げるには魔物を殺すか、人間を殺すしか方法がないが、特異転生者のおまえには関係無いか」
知りたい情報はとりあえず聞き出せた。
あとは……
「なぜ見ず知らずの僕らにここまで肩入れするんだ?」
「当たり前の質問だな。実はな、ミソラって名前の転生者を一緒に探して欲しいんだ」
「知らない名前だけど、誰なんだ?」
「そうか、知らないか。ミソラは3年前に偶然拾ったこの世界に来たばっかの自由転生者でな、俺たちの仲間だった奴だ」
「前にも転生者に会った経験ありか、道理で詳しいはずだよ」
「あいつはできた奴でな、教えた事をすぐに理解するし、あっという間に冒険者の憧れであるSランク冒険者に昇格しちまった。
だが、ミソラは人を信頼することが苦手で、一人で何でもできることを知った瞬間、俺たちに別れも告げずに、どっかに行ってしまったんだ」
「だから恩を仇で返されたそいつに、言いたいことがある。その為に協力しろって訳だな?」
「端的に言えばそうだな。で、返事はなんだ?
協力してくれるんなら色々サポートするし、まだ教えられる事も多いぜ?」
願ってもみない提案だ。
当然答えは決まっている。
「提案を受け入れるよ。よろしく、アントンさん」
「アントンで結構だ。俺もコウって呼ぶからよ」
こうして、転生して初日で、仲間を3人も増やすことが出来た。
だが、僕はアントンが再び求めた握手に答えることが出来なかった。
何故なら……
「ごめん、お腹が空いて倒れそう。」