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第48話 オフラインプレイヤー

 やってまいりました、コウのぶらり散歩旅。

 本日来ましたのはクリスカ国の城下町。

 いや~良い街並みですねぇ、今日はどんな出会いがあるのか楽しみです。


 ……テレビロケごっこはやめよう、なんか虚しくなる。

 ま、今は城下町をあてもなく彷徨っているところ。

 皆それぞれの方向にいっちゃったから、ソロプレイの真っ最中だ。

 ぼっちではない。決して、ボッチでは無い。


 でも、城下町というだけあって街並みはかなり綺麗だ。

 僕の町より、というか僕が最初にいた人間の町よりよっぽど良い。

 なんというか、僕が求めていた中世の西洋そのものだ。

 最初の町もよかったんだけどね、いかんせんアレが落ちているのがなぁ。


「……ん?」


 適当に大通りを歩いていると、一つの店に目がいった。

 品揃えは主に野菜や果物、つまり八百屋だろう。

 いくつか見慣れない物もあるな……あれ、魔物の素材じゃね?


「オニーサン、旅の人かい?」

「ええ、まあ、行商に。ところで、これは?」


 品物を見ていると、店主らしき男の人に話しかけられた。

 せっかくだからと、僕はカラフルなフルーツ? を指して質問する。


「この国の名産品、クリスカパインだ。

 そのままでも美味しいが、煮たり焼いたりで味が大きく変わる。

 一つで銅貨五枚、ここらじゃ一番安いぞ。どうする?」

「安い! 二十個買おう!」

「まいどあり! 少しおまけ付けとくよ。

 おい、アメリア手伝ってくれ!」


 男の声に反応したのか、店の奥から僕と同年代ぐらいの女の子が出てきた。

 この人の娘とかだろうか? それにしては似てないような。


「行商の人? ねえ、どこから来たの? 私も連れてってよ!」

「やめろアメリア、お前にはまだ早い。

 わりいな、こいつ好奇心旺盛でよ」

「ケチ」


 アメリア……うーん、なんとなく何処かで見たような顔だ。

 というより、雰囲気か? それとも言葉遣いとか……どこだっけなあ、確実にどこかで会った思うんだが。


「オニーサン、買ってくれたのは感謝するけどよ、あんまウチの娘をジロジロと見ないでもらえるか?」

「あ、はい。スンマセン」


 この人が邪推しているような目的で見ていたわけではないのだが、見ていたのは事実だし素直に謝ったほうがいいよね。

 ま、どうせ何時間見ようが思い出せないだろうし、勘違いって事にしとこう。


「これと……これと……こいつもオマケだ」

「あの、店主さん、そんなにオマケしなくていいです」

「あーあーいいから、遠慮しないで」


 店主がカゴの中にどんどんと商品を詰め込む。

 止めようとしても止まらないし、しばらくほっとくか。


 ……あれ、大通りにいるのってムサシか?

 ちょっと挨拶にでも――


「イテッ」

「む?」


 数歩歩いただけで人とぶつかってしまった。

 それも人相の悪い集団の、先頭に立つ大男にだ。

 しかもコイツら全員重装備だし、真っ赤なダイヤモンドみたいなイラストを鎧に描いてある。

 ワンチャンやばそうかも……いや龍人化すればヨユーだけどさ、なんかダメじゃん?


「……スンマセン」

「ふん、注意が足りん。そんな事では戦火を生き延びれんぞ」


 戦火て、そんな今すぐに何か起こるわけじゃないんだから。

 中二病を卒業できていないのかな?


「せいぜい励むことだ、不揃いな虹彩を持つ少年よ」


 大男と集団は、それ以上何もする事なく立ち去っていった。

 なんだろう、冒険者とか? それにしては数が多かったな。

 にしても、最後言ってた『不揃いな虹彩を持つ少年』ってメッチャカッコイイな。


「過激派に出くわすなんて運が無いな、オニーサン結構やばかったよ」

「過激派?」

「あいつらの鎧に血の様に赤い宝石が描かれていただろ? あれが過激派の目印さ。

 そうそう、革命軍っていう呼称もあるらしいな」


 過激派……革命軍……やっぱり国があって人が集まるとそういう異端な奴らも現れるんだな。

 クリスカって歴史の長い国らしいし、一枚岩じゃないんだろう。


「なんでもよ、国の在り方を丸ごとぶっ壊して自分たちの『理想の国』に建て直すのが目的なんだと。

 やるのは勝手だけどよ、変なことして俺たちを巻き込むなって話だよな」

「……どうしてそんな団体が生まれたんだろう?」

「元をたどれば数百年前に起きた秘宝教の分裂が発端らしいんだけんど、最近までは噂も聞かないぐらい静かだったんだ。

 でも、また活動が活発になり始めて、お上も気が気じゃないらしいぜ」

「なんか、この国も大変っすね」

「まあな……そら、オニーサンもこれ持って早く帰んな」


 店主が山盛りになったカゴを僕に押し付けてくる。

 ……お、重い、サービスしすぎだって。


「今日はもう閉店だ。これから詰所に通報しなきゃいけないからな。

 じゃあな。行商がんばれよ」

「行商……あっ! あの、最後に一ついいですか!」

「な、なんだ?」

「この国に、適正価格で鉱物を買い取ってくれる所ってどこですか?」




 ーーーーーーーー




 休み休み荷物を運びつつ、宿屋へと戻った。

 空は若干暗くなっていて、僕がいたころには既にみんなも戻っていた。


「さて、夕飯の前に情報共有といこうか」


 不思議なことに、皆申し合わせたかのように一つの部屋に集まっていた。

 もしかして、僕の行動を予想したからとか?


「ムサシは剣術道場に行った? 大通りを歩いているのは見たけど」

「はい、行きました。ですが本格的な指導は明日から、と軽い説明だけを受けました」

「どういう道場だったの?」

「同心一刀流という流派で、剣と心を通わせることで己と剣の力を極限まで高める……らしいです。

 俺にはまだよく分かりませんが、少なくとも師範はそれが出来ているみたいでした」

「まさか、戦ったの?」

「はい、ボロ負けでした」

「なるほど。それで、道場の雰囲気はどうだった?」

「……とても静かでした。いえ、剣の打ち合う音は常に聞こえてはいましたが、雰囲気的には静かな印象を受けましたね。

 門下生の多くが主様がいた世界で言うところの……ヨガや瞑想をしたからだと思います」

「楽しかった?」

「楽しいかどうかは分かりませんが、あそこで頑張ってみたいと強く思いました」


 聞いている限りじゃ、剣術道場というよりお寺とか修行僧って言い方が合っていそうだ。

 師範は錫杖で戦うのかな?


「マナとネリーの方は? 何か見つかった?」

「そうねえ、興味深い論文があったわ。タイトルは魂属性の魔法と精神干渉における――」

「あ、もういいです」


 マナは魔法オタクだから、話し始めると無限に語りだすんだよな。

 因みにマナの魔法オタクエピソードとしては、休日にも何時間とぶっ続けで研究するぐらいの魔法オタクだ。

 あれで目を悪くしていないのが不思議なぐらいだよ。


「アメリはどう?」

「フフフ、超極秘情報を入手しましたよ」

「おお! ぜひ聞かせてくれ」

「なんと……カフェ・バークヘンのシークレットメニューに関する情報を手に入れました!」

「う、うん。それで?」

「あれ? ボス、あんまり興味なさそうですね。ほら、城下町でも有名なあのカフェですよ」

「いや、知らないけど」

「……え」

「……え?」


 ……………………


「ま、まあ、皆無事に帰ってきてくれてなによりだよ」

「主様は、私がいない間に何かありましたか? ……その荷物を見れば大方の事は分かりますが」

「ああ、こっちもなんとも無かったよ。あえて言うなら、過激派の集団とぶつかったぐらいかな」

「「過激派!?」」


 ネリー、マナ、アメリが一斉に僕を見て、ムサシは訳が分からずオロオロとしている。

 なんか、奇特な状況だ。


「そういうのは先に言いなさいよ。何かあってからじゃ遅いのよ」

「ボス、運が良かったですね。過激派は裏の界隈でもかなりの異端です。

 悪魔崇拝をしているとか、赤子の生き血を啜っているとか、そういうあくどい噂が多く出回っています」

「私が聞いた話だと、いつかのクーデターの為に秘宝を集めているとか、子供を攫って洗脳教育をしているとか聞くわね」


 いくらなんでも噂話が過ぎやしないか?

 まあ、でも秘密結社ってそんなもんか。

 実際に会った者としては、盛りすぎじゃないか? とは思う。

 少なくとも極悪非道の集団、というわけではないと思うんだよ。

 彼らなりの正義は持っているはずだし。

 出来れば一度話し合ってみたいな、理解出来るかどうかは別として。


「主様、明日からはこのムサシが護衛を務めます」

「道場はどうすんのさ」

「無論、割り切って行かないことにします」

「そこまでしなくていいよ、自分の身は自分で守れるから」


 最初にムサシを創った時は、それこそ僕の護衛だけをしてもらいたいと思った。

 でも、今は純粋にムサシのやりたいことをやって欲しい。

 ……これが親の気持ちってやつか?


「しかし、お一人でというのは……」

「分かった。じゃあ明日の予定を今のうちに計画しよう。

 それで、暇そうな奴についてきてもらえばいいんだ」


 ま、明日やりたいことはもう決まっているんだけど。


「えー、明日はオリハルコンを売りにいきます」

「目星は付けてあるの?」

「城の近衛騎士団御用達の工房ってのがあるらしくてね、そこに行こうと思う。

 一般人や冒険者とも売買をしているらしいよ」

「そう、じゃあ私もついていくわ」

「売買が終わったら、クリスカ国とはバイバイします」

「滑ってるわよ」

「……はい」


 即興のダジャレを思いついたのだが、言うんじゃなかった。

 心なしか室温も下がった気がする。


「では、私ネリーが主様の護衛をいたします」

「頼んだ、俺の代わりに責務を果たしてくれ」

「はい、この命に変えても」


 ネリーとムサシの会話、超物騒。

 命かけてまで守るとかしてほしくないわ。


 あれ、よくよく考えるともし僕が死んだら従者達はどうなるんだ?

 ムサシ、ネリー、ジュード、彼ら従者が死んだ場合は分かる。

 従者の肉体が消滅して、僕は再び『従者創作(キャラクリエイト)』で従者を創作することが出来る。

 それこそ、亡くなった従者の記憶を引き継いだ完全な蘇生も出来るだろう……あまりやりたくないが。

 でも、その逆は? どうなる?

 考えられる可能性は三つ。

 一、僕の死亡と同時に従者全員が消滅する。

 二、僕が死亡しても、従者はこの世界に残り続ける。

 三、何らかの条件によって、消滅する者としない者に別れる。

 この三つのいずれか、あるいは予想だにしない第四の可能性か。

 うーん、考えても分からないし、ぶっちゃけ自分の死についてだから考えるのが怖い。


「あの、ボス? すごい渋い顔してますけど、大丈夫ですか?」

「あ、ごめん。何でもないよ」

「さいですか。ところで、私には何か指示はありますか?」

「アメリにはねー、過激派についての情報を重点的に集めて欲しいんだよね。

 かなり危険そうだけど、出来る?」

「それぐらい出来ます。私は優秀ですから」

「じゃ、頑張ってね天才ちゃん」


 と、いう感じで夕食前の情報共有は終わった。

 ただ、このまま今日が終わるわけじゃなくて……


「コウ、ちょっといい?」

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