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第40話 身勝手ネゴシエーション

 ある日の昼下がり、村に新しく増えた建物。

 僕はそこで椅子漕ぎをしつつ、お絵描きをしていた。

 言っておくがサボりじゃないぞ、これはスキマ時間の有効活用だ。


「コウさん、また服を描いているんですか?」


 風繰の族長、シルヴァが僕の絵を見ながら問いかけた。

 当然ながらスケッチブックとシャーペンなんて素晴らしい画材は無いので、薄い木の板にインクの様なものを付けた羽ペンで描いている。


「そう。今回のは『メイド服』っていってね、これで僕専用のメイドさんを……じゃなくて業務をよりスマートにするための雑用係を雇って着せるんだ」


 実は、定期的に新しい服の原案を描いては風繰……主にシルヴァに渡して再現してもらっている。

 まあ、大抵はサンプルを一つ作って終わりなのだけど。


「へえ、なんだかよく分からないけど、面白そうですね」

「そう? なら、また制作してもらってもいいかな?」

「もちろん。ボク達風繰の得意分野です」


 キラースパイダーの糸とアラクネの協力のおかげで、最近はよりスピーディーに衣服が作れているらしい。

 本当に、これを仲間に引き入れたベルはすごいと思う。


 ただ、一つ思うところがあるとすればアラクネという単純すぎる名前だろうか。

 ま、名付け親がベルって聞いたら納得ですけどね。


「よし、こんなもんかな。じゃ、頼むよ」

「ええ、お任せください」


 シルヴァはメイド服の原案を受け取ると、羽を羽ばたかせながら窓から出て帰っていった。


「さて、次は何をするかな」


 じっとしていると、外の喧騒やら工事の音やらがより鮮明に聞こえてくる。

 そのせいで余計に孤独感が際立っているし、なんだか精神的に窮屈だ。


「……それにしても、まだアイツらは帰ってきてないのか?

 もう来てもいいはずなんだが」

「あれ? もしかして私たちを呼んだ?」


 玄関から女性の声が響く。

 なんともまあ、変な所でタイミングが合うものだ。


「アメリと二人の捕虜か、ようこそ本部へ」

「捕虜? いいや違うね、私は自由転生者にして通称〈周到な狩人〉その名も――」

「サシダ・ルイね、はいはい。そんで、隣が勇者候補のジョセフでしょ」


 こんな名乗りにいちいち付き合ってられるか。

 てか、僕が待っていたのはお前らじゃねーし。


 ま、いいや。せっかく来てくれたんだし、ここで二人の処遇を決断するか。


「えー、ルイ・サシダおよびジョセフ・ガスコイン、君たちを解放します」

「ほう、良いのか?」

「もうこれ以上尋問したい事も無いし、あとはお好きにどうぞ」


 彼らからはかなり有益な情報を貰えた。

 例えば「自由転生者ミソラは〈氷の剣士〉の二つ名がある」とか「勇者候補は序列二十位から一位までの二十名がいるが、序列五位以上は化け物ぞろい」とか。


 だが情報を抜き取ればもう用済み、故に解放だ。


「解放かぁ……ジョセフ君はこの後どうするの? ルガルバンダに戻る?」


 サシダが口にしたルガルバンダとは、大陸の北東にある人間の国のこと。

 一般に「勇者の故郷」として知られている歴史の長い国である。


「そうだな、まずは報告をしなければならない」

「ふーん、私はここに残ろうかな」


 サシダの発言で一瞬時が止まった。


「コウ……いやボス、私を雇ってくれない?

 ここ居心地が良いからもう少しだけ居たいんだよね」

「労働力は喉から手が出る程欲しいし、僕としてはありがたいけど……本当に大丈夫か? ここじゃ人間は少数派だよ」

「ヘーキヘーキ私コミュ強だし、いろんな人から陽キャって言われるから」


 種族を超えるコミュ強とは、えげつないモンである。

 性根が明るすぎて、目を開けてらんないよ。


「ま、待て、なら俺ももう少しだけ残る」


 ジョセフも考えが変わったらしい。

 もちろん、彼もウェルカムである。


「分かった。アメリ、二人の為に部屋を探してやってくれ」

「はーい」


 アメリは緊張感の無い返事をして、彼らと共に退出していった。


 この村は今建築ラッシュ、利用者未定の建物が幾つかある。

 きっと彼らの家もすぐに見つかるだろう。




 それからまたしばらくして、次の訪問者がやってきた。

 今度こそ、僕が待ち焦がれていた二人だ。


「主様、ただいま戻りました」

「ネリー、ヌイコ、お帰り。早速だけど成果を聞こうか」


 この二人にはある計画の為、力の魔王の支配権がある地域……つまりヌイコが治めていた地方の東西南北に行ってもらっていた。

 それが何であるかは、ネリーから語ってもらおう。


「報告します。『全集落統合化計画』またの名を『ヌイコ、君って自分が支配権持ってる地方にどんな集落があるか理解してないよね? だから可能な限りの集落や村に挨拶回りしてきて、ついでに新しい王である僕の下に来るようお願いしてきて計画』は概ね順調です」


 そう、会社が会社を吸収して合併するように、可能な限りのコロニーを吸収して一つのでかいコロニーつまりは国をつくる、それが僕の計画だ。


「現在、獣人族やアークゴブリンなどの六つの村が主様と私達の行動に理解を示しています」

「ただ、賛成ばっかりじゃねえ。フツーに不干渉を貫いてる所もあるし、決めあぐねてる所もある。

 それに俺を前にした時は言えないだけで、反対している奴もいると思うぞ。どうする、コウ」


 ま、だろうね。

 そんな簡単に終わったらここまで苦労してないし。


「気楽にやろうか。ローマは一日にして成らずだよ」

「主様の仰せの通りに」

「うん、じゃあ次は……」


 やることを見つける為にふと机の上を見やると、ある重大な問題に気付いた。


「……? 主様、なぜ机のオリハルコンを凝視したまま固まっているのですか?」

「なあ、ネリーまだこのオリハルコンは精錬出来てないよな」

「そういえばそうでしたね。何処かに腕の良い鍛冶師がいるといいのですが」


 今の所、オリハルコンはその加工難易度の高さから無用の長物となっている。

 ここの特産品なのにただの石ころとは、もどかしいな。


「腕の良い鍛冶師なら、一人だけ心当たりがある」


 重々しく言い放ったのはヌイコだ。


「へえ、詳しく聞かせて」

「ここから南東に二日ほど歩くとドワーフの村があって、そこの近くに俺が知る中で最高の鍛冶師がいる。

 奴の名はブラス。知識、技術、経験、その全てが一級品の天才鍛冶師だ。

 もちろんオリハルコンに対する知識もあると思うぞ」


 これはまた随分と都合よくいたものだ、というか都合が良すぎて裏があるとしか思えないな。


「そんな素晴らしい職人がなんで辺鄙な村なんかにいるのかな?」

「さあな、前のところでトラブルがあったらしいが俺はしらん。

 だが一つ分かるのは、アイツは滅茶苦茶ヘンクツだってことだ」

「ヘンクツ?」


 偏屈ってことはやっぱり拘りがすごいとか?


「俺も数年前に一度会いに行った事があるんだが、凄く変な話された記憶がある。

 見た目がどうとか、引き算の美麗がどうとか、金持ちは下品だとか、まーぁ訳わからん事言ってた。

 あまりにも話が通じなすぎて、二度と会いたくねえ! って思ったな」


 ヌイコにここまで言わせるとは、今回の説得は過去一で難しそうだ。


「ま、とりま行くか、ヌイコも付いてきて」

「えー! 俺ホントに行きたくないんだけど」

「上司命令です。黙って従いなさい」




 ーーーーーーーー




 最高の鍛冶師がいるという家は、ドワーフ村からそれなりに離れた場所にポツンと建ってあった。

 村にいるドワーフによると、どうやらブラスとかいう奴は交友関係が独特らしい。


 扉の前に立ってコンコン、と普通にノックをする。

 基本的に家に籠っているらしいし、多分居るはずだ。


「……誰だ?」


 扉を開けて出てきたのは、伸びた髭が印象的な背の低い男性。

 だいたい130㎝くらいか? まさにドワーフ然とした見た目だ。


「こんにちは。僕はコウ、君に仕事を依頼しにきたんだ」

「そうか。ところでお前、美少女は好きか?」

「……え?」


 話がいきなりガッツリ逸れた。

 そもそも初対面の人に聞く質問じゃないだろ。


「あの……」

「いいから答えろ、話はそれからだ」

「……まあ、結構好きかな。そういう系のソシャゲもやってたし」

「そしゃげ、がなんなのか分からんが、まあいい。

 では次だ、一番好きな髪型は?」


 なんだコイツ、何が目的だ?

 とりあえず聞かれた事には正直に答えるか。


「お、おさげか三つ編み」

「ベリーショートじゃない、だと? チッ、目論見違いだったか。

 もういい、依頼は受けん」

「ちょ、ちょっと待ってよ。それは困るんだけど」

「なら俺が満足しそうなモンでも持ってくるんだな」


 それだけ言うと、ブラスは乱暴に扉を閉めた。


「な? 偏屈だろ?」

「そうだね」

「やっぱ他を当たろうぜ」

「……いや、もうちょっと粘るよ」


 ほんの少し会話しただけだが、なんとなくブラスの好みが分かった。

 奴はおそらく僕と同類、あっちの言葉で言えばオタクだ。

 なら、僕の中にきっと攻略法はあるはずだ。




 それから二週間後、僕は再びブラスの家に訪れた。


「やあ、リベンジに来たよ」

「リベンジ、だと?」


 あのまま終わるのは僕のプライドが許さない。

 そういう訳で、今回は協力者を連れてきた。


「さあ、前へ」


 僕の言葉で『彼女たち』が一歩前に出る。

 そして、お辞儀をして一言、


「「お帰りなさいませ、ご主人様」」

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