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第36話 マナと特殊クエスト

 大陸の中央にはシナズ・ウーダ共和国という人間の国がある。

 この国は、元々はウーダ小国という名前だった。

 大した武力も特産品も無く、魔物に侵略されていないのが奇跡と呼べる程にあらゆる面で弱い国だった。

 だが、そこに最初の特異転生者と自由転生者の総勢20名が突如現れたことで、国は変わった。

 およそ50年程前に起きたこの集団転生事件は、通称「ウーダ小国の奇跡」と呼ばれこの国を知る上で絶対に聞くことになる事柄だ。


 彼ら転生者はそれぞれに得意分野があり、ある者はまったく新しい製法で高品質な武器を作成したり、ある者は上下水道を整備したり、ある者は法と権利を大改革したりと、それぞれの方法で国を豊かにしていった。

 そうしていつしかこの国は他の強国と肩を肩を並べるようになる。

 それに伴い国の名前もウーダ王家と転生者の代表であるシナズガワから取って「シナズ・ウーダ共和国」になったのだ。




「マナさん、もうすぐ目的地につきますよ」


 オスカー村長の声につられて、私は馬車の走っている方向を見た。

 立派な砦と、門の上にある日本語で「ようこそ」と書かれた巨大な看板。

 相変わらずこの国は独特ね。


「シナズ・ウーダ共和国、久しぶりだわ」

「おや、前に来たことがあるんですか」

「ええ、今日を含めて三回目よ」


 最初に来たのは、私がこの世界に転生してから一年後ぐらいの時。

『全ての転生者は、保護されてから三年以内にシナズ・ウーダ共和国にて検査をしなければならない』という各国内での条約によって連れてこられたんだっけ。

 次に来たのは、確か……15か16ぐらいの時だったかしら。

 政治的な何かで呼ばれたらしいんだけど、あまり記憶にないのよね。

 きっと、それだけつまらない用事なんでしょ。


「そういえば、あなた身分証的な物は持ってるの?」

「商人ギルドからいただいた許可証があります。

 これさえあれば大陸のどこででも商売ができますよ」




 許可証は本物らしく、あっさりと入国することが出来た。

 取り敢えず、観光は後回しにして錬金術師を見つけないと。


「ふむ、手紙によりますとこの先を左に曲がったところにある錬金屋にいるようなのですが」

「あっ、あれじゃない?」


 看板に「メイザース錬金屋」と書かれた家を指す。

 何とも言えない、普通の建物ね。

 民家の一階を改造して店にしたのかしら。


「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」


 村長と共に店に入る。

 高級回復薬に鎮痛薬、マンドラゴラの抽出液、炎を閉じ込めた水晶……なるほど、品揃えは悪くないわね。

 目当ての錬金術師はきっとここにいるわ。


「はい、いらっしゃいませ。何をご所望でしょうか」


 店の奥からドアベルの音を拾った男が、カウンター越しに話しかける。

 見た感じ、私とそこまで歳は変わらなそうね。


「物ではなく人を探しています。

 ここにメリスさんという方はいらっしゃいますか?」

「ええと……メリス婆ちゃんは、二年前に亡くなりました」

「そうですか、惜しい人をなくしました。

 私もメリスさんには生前お世話になったのです」

「あの、お名前を聞いても?」

「申し遅れました。私、オスカーという者です」


 村長の名前を聞いた途端に、その人は表情を変えた。


「えっ!? 貴方があの? し、少々お待ちください。

 ……姉さん! 姉さーん!」


 いきなり店の奥に消えたかと思ったら、すぐに戻って来た。

 もう一人の、「姉さん」らしき人を連れて。


「オスカーさん、貴方のことは婆ちゃんから聞いています。

 もし、この家に訪ねてきたら力になってあげなさいと言われました。

 改めまして、オレはリック・メイザースです。そしてこっちが双子の姉の――」

「ティカ・メイザース」


 女の方、ティカはさっきまで錬金術をしていたのか服の所々が汚れている。

 そういえばここには独特な商品もあるけど、それも全部この子が作ったのかしら。


「初めまして、オスカーです」

「私はマナ。魔法の研究を生業としている者よ」


 とはいっても、最近は教える側になっているんだけどね。


「へえ、アンタ魔法分かるの?」


 ティカが挑発するように問いかける。

 私が名乗るまで私達のことなんてどうでも良さそうだったのに、いきなり興味を持ったようね。


「ええ、いちおう帝国にあるディスクリンド魔法大学は出ているわ。」

「金持ちの親元に産まれたんだ。なら、これの原材料もわかるでしょ?」


 ティカは商品棚から一つの解毒薬を取り出して、渡してきた。


「神経毒用のやつね。一般的な原材料は若いマンドラゴラの根っこ、テトロドガエルの目、トキシ草、そして六型魔法調合薬」


 そこまで言うと、ティカは満足そうに頷いた。

 もしこれを本当に彼女が作ったのなら、実力はあるようね。


「合格。私の錬金術を手伝ってくれない? 今とある特別な薬を作ってるの」

「姉さん、それはさすがに――」

「なに、アンタには関係ないでしょ。それとも、魔道具も作れないアンタが役に立つの?」


 姉の方は随分と我が強いのね。

 弟の苦労が偲ばれるわ。


 正直あまり手伝う気持ちにはなれていないけど、どうしよう。

 いや、もしこの状況に彼が居たら?


「……いいわ。手伝ってあげる」

「ほんと?」

「ええ、でもタダでは働かない。貴方の目的が達成したらこっちのお願いも聞いてもらうから」

「いいよ、ぶっちゃけアレが完成したらもう思い残すことはないし」




 ティカに連れられて店の奥にある部屋に入る。

 錬金釜に数々の材料と魔道具、調合にはもってこいの空間ね。

 ……でも、少し変な魔道具もあるわね。

 この装置はどうやって使うのかしら。


「それで、何が欲しいの?」


 既に錬金術を始める環境は整っている。

 店は閉店させたし、オスカーさんは案内役のリックを連れてお墓参りにいった。

 今、この家には私達だけだ。


「秘宝『エリクサー』……それに近しい効能を持つ薬」

「ああ、そういう事」


 エリクサーは秘宝の中でも特に知名度が高く、その性能もずば抜けて優秀だ。

 命にかかわる傷や病気もたちどころに治り、更には欠損した部位すらも戻るらしい。

 当然ながらエリクサーを欲しがる人は多く、その効能を研究して複製しようとする輩も少なくはない。

 だが、今までにそれを達成した者は一人としていないのだ。


「言っとくけど、エリクサーを複製して儲けたいなんて理由じゃないから。

 ちゃんと必要とする理由があるの」

「そう、なら完全な複製品じゃなくて方向性を決めてそれに特化した薬を作ればいいんじゃない?

 何を治したいの?」

「……外傷、それも古傷が治せるやつ」


 ティカが擦り切れた本を見せてくる。

 そこには幾つもの挑戦した痕跡が書かれてあった。

 ただ、何だか違和感を感じるわね。


「ねえ、薬や魔道具を作る時に詠唱とか魔法陣って使ってる?」

「え? そんな方法があるの? ああいうのって魔法使いの専売特許だと思ってたんだけど」

「……よくこれまでやってこれたわね」




 ーーーーーーーー




 あれから小一時間ほど話し合ってやり方と材料を決めた。

 材料自体は足りていたので、あとは魔法陣と補助魔法を必要な手順から解析して調べるだけ。

 解析はティカに任せて、私は図書館にある魔術本を探しに外へ出た。

 最悪無くても構わないが、念の為借りておくべきだからね。


 町を歩いている途中、深くフードを被っている男に目がいった。

 顔はよく見えないものの、明らかに私を見ている。

 その人物は歯を見せながら笑い、そして言った。


「久しぶりだねぇ、真奈ちゃん」

「……まだしぶとく生きていたのね」


 男がフードを取ってその顔をあらわにする。

 まったく、腐れ縁というのも厄介なものね。


「二度と会いたくなかったわ、文詩黒(あやしぐろ) 陽太郎(ようたろう)

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