表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/67

第32話 悪童反省会

「まあ、取り敢えずそこ座りなよ」


 私は部屋にアメリを通し、椅子に座らせた。

 コップに私の魔法で作った水を入れていると、彼女から話しかけてきた。


「貴方は何者なんですか?」

「刺田累、血液型はA型、身長164センチ、体重はシークレット、誕生日は……」

「そういう事ではありません。貴方は誰で何故この町にいるのかと聞いているんです」


 アメリは納刀しているナイフに手をかけつつ、私を睨んでいる。

 やれやれ警戒心が強いね、評価を上方修正っと。


「私はね、冒険者として依頼を受けて調査をしにここに来たんだ」

「調査……力の魔王についてですか?」

「守秘義務で詳しくは言えないけど、そんな感じかな。

 でも安心して。私はもうすぐここから居なくなるし、お上に報告したところでどうせ何もせずに静観すると思うから」


 この話でアメリが納得したのかは分からないが、ナイフから手を離したのは事実だ。

 次は、私がこの子から情報を抜き取る番だ。


「さて、次は君だよ。何があったの?」

「簡単に言えば価値観の違い、ですかね。実は――」


 アメリは事の顛末を雄弁に語った。

 アメリが町に来た理由、彼女がボスと呼んでいた人との口論。

 そして、私と出会う直前までを話して彼女は一息ついた。


「私は彼が何に怒っているかすぐに察しました。そして彼の言葉に的確に反論した。

 あの人がどんな話で私を納得させてくれるかと思ったら、よりにもよって手を出してきたんです。

 ひどい話だと思いませんか?」

「まあ、話し合いに暴力を持ち込むのは駄目だよね」


 アメリが今求めているのは共感では無く答えなんだろう。

 彼女の言動から、迷走しているのが分かる。


 実際の所、そのボスという人は甘すぎる。

 命を大切にする行為は立派だとは思うが、他人の命まで救ってはきりがない。

 考え方がこの世界に来たばかりの転生者のそれだ。

 もしかして、ボス=転生者? ……そんな訳ないか。


「それで、君はこの先どうしたいの?」

「……私はまだ彼になんらかの心残りを抱いているようです。

 ですので、その正体を探るためにもう一度彼と接触したいのですが……」

「向こうからは取り合ってはくれなさそうだよね」


 私の言葉を肯定するようにアメリは力なく頷く。


「ならいっそのこと自首するってのは?」

「はあ、自首ですか。確かにそれなら会ってはくれそうですが……」

「その人が本当に今の魔王を倒すって信じているなら、そういうのも一種の手だと思うよ」

「ふむ、確かに一理ありますが、でも……」


 アメリから目を離して自分のバックに手を伸ばす。

 せっかく拾ったんだ、今日ぐらいは泊まらせてあげよう。


「ま、結論を焦らなくていいよ。

 どうせならコーヒーでも飲んでゆっくり……あれ?」


 私が後ろを振り向くと、椅子に座っていたはずのアメリが忽然と消えていた。

 まるで最初からそこに居なかったかのように、音もなく退出していたのだ。


「判断早すぎ、でもおかげでイイコトを知れたよ」


 私はすぐに廊下に出て隣の部屋のドアをノックした。

 私の推測が正しければ、彼にも協力してもらう必要がある。


「どうした、何か分かったか?」

「ジョセフ君、今日から交代で闘技場の試合を見張ろう。

 面白いものが見られるよ」


 私の言葉に彼は眉をひそめた。


「その根拠は?」

「四割は証言からの推測、残り六割は刑事の娘としての勘かな」


 彼の表情が更に曇る。

 まあ、客観的に見れば頓珍漢な事を言っていると思われるだろうけど、意外と私の勘って当たるんだよね。

 特にこんな風な場合は。




 ーーーーーーーー




 あー、くそっ、やっちまった。

 まさか自分が手を出してしまうとは。


『なんでアメリにあんな事したの?』

『だって怖かったんだよ。何考えてるか本当に分かんなかったもん』

『でも一回叩くぐらいだったら、何もしない方がマシだろ。むしろ全力で倒しにかかれよ』

『うわ、自分ってそんな発想もできるんだ。いやーでもマジでその通りだよ。昨日に戻りてー』

『過去に戻る方法なんて神の書庫にも無かっただろ。やったことは仕方ないし、今後の事を考えろよ』

『正論で殴るのほんとやめて』


 駄目だダメだだめだ。

 いくら考えても思考がグルグル、前に進まない。


「主様、アメリが来ました」

「だから今その件で悩んでるんだって……へ?」


 一瞬、というか三秒ぐらい遅れて振り返った。


「来てるって……今?」

「はい、ドアの前で待たせています。どうしますか?」


 どういう事だ? 何が目的だ?

 いや、とにかく中に入れよう。




 アメリは昨日と同じ様子で、特に変わった所は無かった。

 せめて挙げるなら、少し表情が暗い所ぐらいだろうか。


「正直、二度と姿を見せないんじゃないかと思ったよ」

「私も最初はそのつもりでした」

「……」

「……」


 アメリを見るとどうしてもあの状況がフラッシュバックしてしまう。

 そのせいでまともに顔が見れなくなって、結局会話が続かない。


「あの、自白したんです。町の人を殺害したこと。

 でも、あの二人組はどうやら悪質なスリやカツアゲ等をしていたようで、私は注意だけで済みました」

「そ、そっか」

「疑うのであれば今すぐ聞きにいってもらっても構いません。

 ただ、分かってほしいんです。貴方に信頼されるために行動したことを」


 やっぱり何を考えているか分からない。

 なんでそんな回りくどい事を?


「あ、僕の方こそごめんね。頬、腫れてない?」

「ええ、別に大した怪我とかはありません。でも、最初は混乱しましたけどね。

 コウさんが話の通じない化け物に見えて、怖くなって。

 それで、色々と考えたり脳内反省会をしてもグルグルと同じ部分を回って結局前に進まず」

「あれ、それって……」


 僕は顔を上げて改めてアメリを見た。

 思い悩んだような、思いつめたような表情。僕も同じ顔だろうか?

 そう考えると、なんだか恐れていたのが馬鹿らしく思えてきた。


「アメリ、あの後で図々しいかもしれないけど、もう一度僕に仕えてくれないか?」

「……よろしいのですか?」

「ああ、君の能力は優秀だし、それに僕に会うために色々としてくれた事は単純に嬉しいからね。

 もっとも、次からは脅迫や拷問は無しだけど」


 アメリの目が輝きを取り戻していく。

 そして、彼女は再び僕が差し出した手を取った。


「私は今、貴方がどう行動して何を成すのかに非常に興味があります。

 だからどうか、私を使って下さい。ボス」


 この状況はまさに雨降って地固まる。

 僕は再び忠実な部下を手に入れることが出来た。




 ーーーーーーーー




 そして次の日、僕とムサシは闘技場に来た。

 今回の目的は下見でも見物でもない、遂に魔王へ挑戦するのだ。


「ムサシ、先にスクロールを見せてもらってもいいか?」

「ええ、どうぞ」


 個体名:ムサシ

 種族:魔人


 能力値:▼

 生命力:100

 魔法力:45

 抵抗力:230

 攻撃力:300

 精神力:200


 レベル:13

 所持スキル:『スクロールマスター』『超回避』『能力値成長補正(魔人)』『魔剣使いLv.2』『自戒』『下剋上』

 所持スキルポイント:6


 実績:『宮内孝太郎の従者』『魔物殺し』『罪科スキル所持』『試練を超えた者』


 これはこれは、かなり成長が早いな。

 それにこの『下剋上』というスキル、これなら行けるかもね。


「主様、俺が行かなくても主様の龍人化のスキルがあれば勝ち抜けるのでは?」

「あれね、確かにタイマン最強だけど、制限時間を過ぎると金縛りにあったみたいに動けなくなって袋叩きにされちゃうリスクがあるから、可能な限り使いたくないんよ」

「なるほど、納得です」

「ああ、それと戦いが始まったらムサシが親分、僕が子分って関係でシクヨロ」

「え?」


 ムサシは僕の言葉に思うところがあったのか何かを言いかけたが、その前に試合に呼ばれてしまった。

 僕ももう少し作戦会議がしたかったが、始まったもんは仕方ない。


「さあ、親分。オイラ達の力を存分に見せつけるでヤンスよ!」

「は、え? ……おう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ