表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/67

第28話 諸行無常

 マナが村に来てから数日、彼女は想像以上に早くみんなと打ち解けている。

 結構コミュ力が高い系の人間だったようだ。


 さて、それはともかくとして今日は行かなきゃならない場所がある。

 あの約束から七日、ついにラハブから力を受け継ぐ時が来た。


「よし、準備完了。ムサシはどうだ?」

「俺も大丈夫です。何かが来てもすぐに相手出来ます」

「それじゃあ、行こっか」




 ってな感じでラハブのいる洞窟まで来ました。

 ここに来るのは三度目だけど、相変わらず「外界に隔絶された感」があるな。


「やあ、おひさ」

「待っていましたよ、コウ。既に準備は整っています」


 そう言うと、ラハブは自身の身体を再現していた幻影を消した。

 そして、唐突に僕の目の前に女性が現れた。


「驚きましたか? 私たち天龍は人間の姿になる事も出来るのです」


 さっきまでの傷ついた龍の姿とは違い、今は大人びた姿のラハブが説明する。

 そしてラハブは咳払いを一つしたあと再び口を開いた。


「私が貴方に与えるのは一つのスキルです。

 私の力のほとんどを注いだこのスキルは、貴方に大いなる力と苦難を与えるでしょう。

 今の貴方とは大きく違う姿に変えるかもしれませんし、大勢の人に忌み嫌われるかもしれません。

 もしかしたら、他の天龍が貴方を害そうとするかもしれません。

 それでもこの力が欲しいですか?」

「ああ、承知の上だ」


 ラハブの問いに僕は迷う事なく答えた。

 だが同時に、僕の中に一つの不安が生まれる。


「アンタはいいのか? 僕に天龍の力を渡さず、別の方法を探る事も出来るだろう?」


 ラハブは驚いて僕を見た。


「コウ、貴方は……この土壇場で私に断るという選択肢を与えるのですか?」

「別に僕はそこまでして欲しい訳じゃないよ。

 ここまで天龍の力無しでもやってこれたし」


 この七日間、色々とあったが全てなんとかなった。

 だから多分、今後もなんとかなるだろう。


「誰かの為に自分の未来を平然と捨てられる。

 それが貴方の真の強さであり、優しさなのでしょうね」

「んー、どっちでもいいって意味だったんだけど、そういう言い方の方がかっこいいか」


 ラハブの表情はさっきまでとは反対に、柔らかくなっていた。

 龍の時とは違い、随分と表情が分かりやすい。


「コウ、貴方に是非私の能力を受け継いで頂きたい。

 これが今、私が最も望むことです」

「……分かった」


 その人の目は、優しさと確固たる決意を持っている。

 その人の望みを否定する事は、きっと侮辱する事と同義なのだろう。


「ふふ、良かったです。

 では早速、スキル『龍位継承者( ユーマ )』について説明します。

 このスキルの効果は三つ。

 形態変化による短時間の全能力値強化、神の書庫への入室、不老不死、になります」

「んん? ツッコみたい部分は色々あるけど、不老不死って言った?」

「ええ、寿命が無くなるので老いることは無いですし、寿命死も無くなります。

 とはいえ無敵ではないので、完全な不死ではないですけどね」


 オイオイ、付属品の説明みたいな感覚で人類の夢を語んなや。

 これで聞き直さない奴いないだろ。


「ふむ、私もそろそろ限界のようですね」


 ラハブが自分の手を見ながら言う。

 パッと見は分からないが、どうやら死期が近づいているらしい。


「そうか、なら早くやらないとな」

「準備はいいですか? ……いえ、今更聞くまでもないですね」


 ラハブは僕の胸に、正確には僕の心臓の前に手を置いた。


「恐らく貴方はしばらく寝続けることになるでしょう。

 そして、起きた時にこの言葉を思い出してください。

『目を閉じて神の書庫に向けて意識を上昇させなさい』

 ……いいですね」


 次の瞬間、僕は抗いがたい眠気と共に意識が落ちていった。

 僕は今日、どんな夢を見れるのだろうか。




 ーーーーーーーー




 コウの体が意識が無くなると同時に後ろに倒れていく。

 しかしその体を彼の使役していた従者が支えた為、地面にぶつかる事はなかった。


「彼を頼みます」

「言われずとも分かっている。俺達の主様だからな」


 私は二人を魔法で地上に送ると、洞窟を見回した。


「さて、最後の仕事を遂行しますか」


 この洞窟は大きな空洞となったおり、私の魔法で補強している。

 だが、このまま私が死んでしまえばその魔法も無くなって崩落は免れないでしょう。

 だからこそ、最後に私の全てを大地に変えて元に戻す必要がある。


 全てを彼に託した、だが私にはまだ思い残しがある。


 サルマ。天龍の中で唯一私と血のつながった、たった一人の弟。

 彼を導いてやれなかった事がどうしても悔やまれる。


 今更そのことを思い出しても、もう遅い。

 それに、彼はもう私の助けなど必要ないでしょう。


「ああ、それでもやはり姉として心配です」




 ……薄れてゆく意識の中で、過去を見た。

 千年前の、世界が火に覆われ、全てが燃えていくあの日のことを。


 人間と魔族の全面戦争、それによって真っ先に絶滅しかけたのは両陣営に加担していた龍種。

 もはや龍と呼べる存在は私たち五名だけだった。


 だがそんな私たちの前に()()()が現れた。


「まだ生きたい? もっと力が欲しい? いいよ、あげる。

 私の代わりをしてくれたらね」


 そういえば私はこの人の声を、

 ()はこの人の声を、前に聞いたことがあるような……




 ーーーーーーーー




 変な夢を見た後というのは、大概すぐに起きる。

 そんで、意外と冷静に状況の把握が出来るもんだ。


「あら、ようやく起きたのね。あなた丸一日寝てたのよ」


 隣にいるマナが声をかけてきた。

 周りには他に誰もいないようだ。


「うわっ、何その目。大丈夫?」

「目? 目がどうかした?」


 少なくとも僕の視界は以前となんら変わりはない。

 視力が低下したとか、特定の色が見えないとかもない。


「ほら、これ貸してあげる」


 マナが渡してきた手鏡を自分の顔に向けると、彼女が驚いた理由が分かった。


 目の色が変化していたのだ。

 右目は橙色、左目は紫色、流石に自分でも驚いた。


「すげぇ! これオッドアイってやつじゃん!」

「喜んでる場合じゃないでしょ、ほかにも変化してるんじゃない?」


 マナに指摘されて僕は冷静になった。

 一応身体を見たり触ったりしたが、他に変わった部分は無いようだ。

 だが一つ気になるのは……


「マナ、僕の魔法の得意属性を鑑定してもらえるか?」

「ええ、まあ、いいけど……」


 マナは不思議そうに答え、杖を使って呪文を唱える。

 そして、彼女は杖に見定めるように顔を近づけた。


「あれ? あなたの得意属性って炎と、魂属性の二つだっけ?」

「いんや、元々は炎だけだったはずだ」


 体内に流れる違和感の正体はこれか。

 多分、ラハブの特性を受け継いでいるんだろう。


「そういえば、闇属性は無いのか?」

「そんなものないわ……いや、数百年前は魂属性を闇属性って呼んでたみたいだけど」


 もしかしてラハブの追放と共に変えられたのか?

 いや待て、今はそのことを考える最中じゃない。


「ムサシから話は聞いていたけど、改めて見ると信じがたいわね」

「皆もそう思うだろうね。こればっかりは慣れてもらうしかない……さて」


 ベットから起き上がり、自然な状態で立つ。

 そして、僕はスクロールから『龍位継承者( ユーマ )』のスキルを確認し、その内の一つを実行した。


「えっ!? ちょっとコウ、次は何?」

「龍人化、ラハブから受け取った力の一つ。

 人間から龍人の姿に変わり、強力な力を得るって効果」


 およそ三秒ほどかけて変化を終える。

 額には真っ直ぐ伸びた二本の白い角、そして腰からはそこそこの太さの尻尾が生えていた。

 ズボンを破かずに器用に尻尾が生えているのは、天龍の神通力ってやつの影響かもな。

 一応、他に変更点は無い。何かのゲームみたいに、リザードマンみたいな風貌だったら絶望だったが、そうならなくてよかった。


「コウ、起きた?」


 扉を力任せに押し、ベルが部屋に入って来る。

 マイペースというかなんというか……


「やあ、おはようベル」

「お腹空いてる? ご飯いっぱい作ったよ」

「ありがとう。でも、先にムサシの所に行くから先に食べていてくれ」

「分かっ……た」


 ベルは妙な所で言葉を切った。

 目線の動きから察するに僕の角を見て驚いたとか?


「コウ、その角……触っていい?」

「え? まあ、いいけど」


 ベルと僕では身長差があるので、すこし屈んであげた。


「わあ……かっこいい……」


 ベルは子供っぽい表情を浮かべながら角を優しく触る。

 彼女は角しか見ていないが、実際にはお互いの顔が至近距離まで近づいている。

 ヤバイ、なんか凄くヤバくてヤバイ。そんで動けない。


「ああもうベル、私たちは先に行きましょう」


 しばらく角を触らせていたら、しびれを切らしたのかマナが動いた。

 ベルの腕を掴み、半ば強引に二人が退室しかけている。


「待ってくれ、ムサシはあの場所にいるか?」

「……勝手に会えば」


 それだけ言うとマナは一瞥もくれずに出ていった。

 何か怒ってる雰囲気あったし、流石にうざったかったのかな?


 なんとなく自分で角を触ろうとしたが、すでに龍人の姿は解除されていた。

 どうやらあれはちゃんと意識していないと駄目らしい。


 さて少し遅れたが、あの言葉に従おう。

『目を閉じて神の書庫に向けて意識を上昇させなさい』




 ーーーーーーーー




 ムサシは大抵、森にいる好戦的な魔物などを狩って過ごしている。

 だが、暇を見つけては村を囲っている柵の近くでよく素振りなどをしているので、結構そこでも見つかる。

 多分僕の指示を速やかに受ける為だと思うけど、それにしたって真面目だよな。


「やあ、調子はどう?」

「主様、起きていたのですね。俺は絶好調です」


 ムサシが素振りを止め、僕に向かって走ってくる。

 だが、僕はそれを制止して彼の前に手袋を投げた。


「ムサシ、僕は君に決闘を申し込む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ