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第23話 凱旋

 抗争が終わったので、早速ヒーラー達に治療をしてもらう事にした。

 僕らの陣営はほぼ無傷のため、まずは魔人族の方からだ。


「コウ、おつかれー」


 カゴからリンゴを取り出しながらベルが近づいてきた。

 この娘、僕らが必死こいて戦っている間ずっと果物食ってたのか?


「で、どう? かっこよくクールに勝てた?」

「……もうそれ忘れてくれ」


 今でもあの状況を思い出すと変な汗が出てくる。

 すぐに本題に入ろう。


「あー、それは置いといて彼らを治療してやってくれ」

「うん、いいよ」


 何の躊躇も無く、ベルは魔人族に回復魔法をかけてまわる。

 遅れてモモカもやって来た。


「モモカ、君もベルと同じように彼らを治療してやってくれ。

 回復魔法は使えるんだろう?」

「はい、ベル様よりは劣りますが、私も同じ魔法が使えます」


 モモカもやる気満々といった感じで、癒してまわる。

 やはり回復のスピードからして、モモカよりベルのほうが数段上のようだ。


 周囲を見てみると、シルヴァとガルルを筆頭に談笑をしている者が多くいる。

 いつの間にか、抗争の最中だった平原は憩いの場になっていたようだ。


 ただ、その中でも誰とも話をせずにまっすぐに僕を見つめる少女がいた。

 モエギだ。彼女は話しかけるタイミングを伺っているのだろうか。

 まあ、とりあえず僕から話しかけにいってみるか。


「モエギ、おつかれ」

「あっ、コウ様、お疲れ様です。……それで、私は役に立てましたか?」


 モエギは不安そうに僕の顔色を伺っている。


「ああ! 凄く助かったよ! ありがとう!」


 モエギの肩に手を置き、少しオーバーに褒めた。

 これぐらいの方がむしろ丁度いいと思ったからだ。


「フ、フへへ……よ、喜んでもらえて嬉しいです」


 モエギは満足そうに笑った。

 これで彼女も少しは前向きになっただろう。


「あっ! コウさん」


 モエギとの会話を終えようとした時、僕を呼ぶ声が聞こえた。

 近づいてくるのはガルルと口論をしたあの眼帯を付けた男。

 ガルルほどでは無いにしろ、コイツも相当デカい。


「えっと……君、名前なんだっけ?」

「俺はグランと申します。この度はお世話になりました」


 グランは恭しく頭を下げ、感謝を述べた。


「これからは、俺も貴方様に仕えます。何でも言って下さい」

「うん、よろしくね……ああ、そうだ、せっかくだしモエギと話をしてやってよ」


 遠距離武器を使用する者同士、馬が合うかもしれない。

 そう思い、僕はモエギに挨拶するように目配せをした。


「あっ、じゅ、獣人族のモエギです。その、私は射撃が得意です、はい」

「射撃……まさか、魔人族の戦士に何かを撃っていたのはお前か!」

「ヒッ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 モエギが呪詛のように謝罪の言葉を連呼する。

 反応が予想通りすぎて、逆に新鮮味が無いな。


「すまない。責める気は無いんだ。ただ少し感激してしまってな」

「え……感激、ですか?」

「ああ、森の中から抗争を見守っていたが、お前の射撃は実に見事だった。

 正確に目標の眉間を撃ちぬき、その上で存在感を完全になくす。

 そうそう出来る事じゃない。一体何をしたんだ?」

「べ、別にコツさえ掴めば誰でも出来ますよ。た、例えば……」


 モエギは少しずつ自分の技術について語る。

 グランはそれを親身になって聞き、相槌を打ったり質問をしたりしている。

 やっぱり、あの二人は馬が合うようだ。


 モエギの表情が段々と柔らかくなっていくのを見届け、僕はそっと彼女らの元を離れた。




 僕は次に、ヨームとジュードがいる所へ向かった。

 あの二人も、けっこう話が盛り上がっているようだ。


「……はどうだ?」

「それは望ましいですが……がネックですね」

「なら……と……で」

「ふむ、……はどうですか?」

「じゃあそれを……って感じでよ、班で分けて作業するのが良いと思うんだ」

「なるほど。概ねアグリーです」


 アイツら、何を話しているんだ?

 というか一つ思ったんだが……


「なあ、お前らあの戦いでちゃんと足止めしてたか?」


 僕の一声で、さっきまでの盛り上がりが噓のように静まり返る。


「その……自分より背の高い人と相対するのは初めてで、足がすくんでしまって」

「俺、まだレベル1なんで……」


 二人は地面に目を向けながら弁明をした。

 やっぱりね、何かコイツらだけそれっぽい活躍見れなかったんよ。


「お前らなぁ……」

「「どうか見捨てないでください!」」


 僕が言葉を紡ぐ前にヨームとパンデモンの手が僕のズボンを掴み、同情を誘うように僕を見上げた。


「俺とジュードが主様に見限られたら、どうやって生きていけばいいんですか!」

「私はまだモモカ達の成長を見届けていません。どうかチャンスを!」


 ああもう、うっとおしいな。

 てか、僕はたった一度ミスした程度で見捨てる奴だと思われていたのか?


「いいから取り敢えず手を離せ、そんで立て。

 そんなこの世の終わりみたいな顔する必要はない。

 こうなったのは二人の戦闘力を見極められなかった僕の責任でもあるからな」


 むしろ、そのせいで二人が大怪我をすれば一大事だった。

 僕は上に立つ者としてまだまだ未熟なようだ。


「はあ、アメリにも戦ってもらった方が良かったか」

「呼びました?」


 足元を見ると、やっぱりアメリがいた。

 音も気配も無く近づく様はどう考えても暗殺者のそれだ。


「にしても本当に風操(かぜくり)を勝たせてしまうとは、ボスは凄いですね」

「ま、反省点も多いけどね……ボス?」

「ええ、私の上司になってくれるのでしょう? これからよろしくお願いしますね、ボス」


 アメリは人懐っこく、それでいてどこか幽玄な笑顔を僕に向けた。


「そうそう、魔人族の治療はあと少しで終わりますよ」

「オッケー、やっぱヒーラーって偉大だな。それともベルの魔法が偉大なのかな?」

「……ベルさんの回復魔法、ちょっとおかしくないですか?」


 アメリは顎に手を置き、考える姿勢になった。


「どした? いきなり」

「いや、ベルさんの回復魔法って魂属性のやつですよね? 

 普通、魂属性の回復魔法って相手の体力を消費して回復力を大幅に増幅させる代物なんですけど……ほら、モモカさんの方を見て下さい」


 言われてモモカの回復魔法を見てみると、治療を受けている魔人は傷が癒えていくと共に目に見えて疲れていっている。


「あんな風になるのが普通なんです」

「でも、ベルの魔法が高度だから疲れを感じないんじゃ?」

「どれだけ高度な魔法でも、魂属性である限りそれは不可能です。

 いや、でも魔力を大量に消費するならあるいは……しかしそれは流石に非効率で……」


 アメリは自分の世界に入り、独り言を言いながら思考を巡らせていた。

 面倒くさいので放っておこう。


 周囲を見渡すと、どうやら魔人族の治療は終わったらしい。

 それならばもう、ここにいる理由も無いだろう。


「皆、集まってくれ。これからの事を話す」


 全員が話を止め、僕のもとに集まってくる。

 その中でも、シルヴァとガルルは僕の真正面に立っていた。


「今日はこのまま解散だ。自分たちの集落に帰って、起きた事をありのままに話せ。

 ああ、僕の配下に加わった事もちゃんと話せよ?」


 族長たちは、「分かってます」といった感じで首を縦に振った。


「シルヴァ、ガルル、それとその他の希望者は明日、僕の村に来い。

 話さなきゃいけない事はたくさんあるからな」


 そして僕が改めて解散を宣言すると、風操(かぜくり)と魔人族はそれぞれの方向に散っていった。


「アメリ、君は僕たちの村に来ないか?」

「ええ、是非。ボスの活躍を近くで見たいですからね」

「歓迎するよ、村を代表してね」


 この地で最後の会話を終えると、僕は村の方向を見て言った。


「僕らも自分の村に帰ろう、さあ凱旋だ」




 ーーーーーーーー




 種族間の抗争という長い一日を終え、次の日。

 僕は村の会議室でシルヴァ達を待っていた。


「あのう、ここ一応教会なんですけど」

「分かってるよ神父様。教会兼会議室でしょ。

 そういえば、ムサシにスクロール発行してくれてありがとね。色々と助かったよ」

「はあ、どういたしまして」


 この神父は教会の保有者なのだが、この人自体が教会を利用せず村の手伝いばかりしている為、教会の二階に住んでいる僕らにあんまり強く言えないという背景がある。

 というか、教会の掃除当番は僕らだしね。


「それでさ、神父様。ジュードとネリー、ついでにモエギにもスクロールを与えてやってくれないかな?」

「何だか口車に乗せられている気がしますが、まあいいですよ、暇な時にやっときます」


 そんな感じで神父様と雑談をしていると、教会の扉が開く音がした。

 だが、そこにいたのはシルヴァでもガルルでも無く、村長だった。


「ヨームから聞きました。まさか風操(かぜくり)と魔人族、両方を手中に収めるとは」

「どうも。ところで村長、アンタどこ行ってたんだ?」


 この人は僕らが帰ってきた時はいなかった。

 どうやらネリーがモエギ達を連れていった少し後、つまり二日前に出掛けていたらしい。


「コウさん、私は昨日まで町に出掛けていました。貴方がアントンさん達と出会ったあの町にです」

「そう、何をしに?」


 僕の問いかけを無視して、村長は机の上に地図を広げた。


「これは現在の勢力図です、そしてここが私達の村です」


 村長が指したのは、力の魔王が治める土地の範囲内の一点。

 まあ、予想通りって感じだ。


「コウさん」


 村長は真剣な眼差しで僕を見た。

 それは僕の心すらも見通すように。


「人間と魔物の共生、これは我々が思っているよりも難題ですよ」

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